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「ちはやふる」の意味とは?百人一首で有名な「ちはやぶる」の現代語訳。

「ちはやふる」の意味とは?百人一首で有名な「ちはやぶる」の現代語訳。

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小倉百人一首の有名な歌「ちはやふる神代もきかず竜田川からくれなゐに水くくるとは」は平安時代の歌人、在原業平が詠んだ和歌ですが、「ちはやぶる」(ちはやふるとも言う)はどのような意味を持つのでしょうか。

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和歌の現代語訳も添えて解説してみます。

在原業平の和歌の意味

まずは業平がよんだ歌の意味を簡単に説明します。

 
ちはやぶる神代もきかず龍田川からくれなゐに水くくるとは(17・在原業平朝臣)
 

訳)神代の昔にも聞いたことがない。竜田川の水の流れを深紅にくくり染めにするとは。
→言葉のくわしい解説はこちらをご覧ください。

 

「ちはやぶる(ちはやふる)」とは

「ちはやぶる(ちはやふる)」とは、荒々しくふるまうことを意味する「いちはやぶ」という動詞から出た言葉と言われています。

『時代別国語大辞典 上代編』(三省堂、上代語辞典編集委員会 編集、1985年)を引いてみると、「勢いある。強暴な。あらあらしい。連体修飾語の例のみ。」とあり、『万葉集』と『古事記』の例が載っています。

そこで、『万葉集』と『古事記』の用例をそれぞれ詳しく見てみましょう。
 

『万葉集』巻第七・1230

●原文

千磐破 金之三崎乎 過鞆 吾者不忘 壮鹿之須売神

●読み下し

ちはやぶる 金(かね)の岬(みさき)を 過ぎぬとも 我(われ)は忘れじ 志賀(しか)の皇神(すめかみ)

●訳

恐ろしい難所 金の岬は 過ぎたけれど わたしは忘れまい 志賀の海神(かいじん)のご加護を

引用は『新編日本古典文学全集』(小島憲之・東野治之・木下正俊、小学館、1994年)によります。「ちはやぶる」の説明には、「神の枕詞。ただしここは、強暴・残忍に振舞う意の上二段動詞チハヤブの連体形。」とあります。
 

『古事記』「景行天皇」の項目

●原文

其国造、許白、於此野中大沼。住是沼中之神、甚道速振神也。

●読み下し

其(そ)の国造(くにのみやつこ)、許(いつは)りて白(まを)ししく、「此(こ)の野の中(うち)に大き沼有り。是(こ)の沼の中に住める神は、甚(はなは)だ道速振(ちはやぶ)る神ぞ」とまをしき。

●訳

その国造(くにのみやつこ)が、倭建命(やまとたけるのみこと)をあざむいて、「この野の真ん中に大きな沼があります。この沼の中に住んでいる神は、たいへん勢いのある荒々しい神なのです」と申し上げた。

引用は『新編日本古典文学全集』(山口佳紀・神野志隆光、小学館、1997年)の225ページによります。この本には「ちはやぶる」の説明として次のように書かれています。

勢いある、荒々しい。イチ(イタ・イトと同じく程度の甚だしいこと)+ ハヤブ(勢い激しくふるまう)から出たもの。用例は連体形のみがみえる。

動詞「いちはやぶ」が「ちはやぶ」に変化した、ということです。

『万葉集』と『古事記』、どちらの例も「勢いがあって荒々しい様子」を表わしていますね。
 

枕詞の「ちはやぶる(ちはやふる)」

「ちはやぶる」は多くの場合、枕詞(まくらことば)として使われます。

枕詞(まくらことば)
主に歌謡・和歌において、特定の語に冠して用いられる、多くは五音節の修飾語で、後に続く語を喚情的に修飾し、また五七調リズムの進行を助ける働きをする修辞法。

※『日本古典文学大辞典』(日本古典文学大辞典編集委員会、岩波書店、1984年)

つまり、意味や音に関して、ある言葉をみちびきだす言葉のことを枕詞と言うのです。ちなみに、枕詞より音数(文字数)が多くて、同じようなはたらきをするものを序詞(じょことば)と言います。

「ちはやぶる」は「神」という言葉をみちびきだす枕詞として『万葉集』にも多く見られます。ここでは2首だけ用例を挙げます。引用は『新編日本古典文学全集』によります。
 

『万葉集』巻第二・101

●原文

玉葛 実不成樹尓波 千磐破 神曾著常云 不成樹別尓

●読み下し

玉葛(たまかづら) 実(み)成らぬ木には ちはやぶる 神そつくといふ 成らぬ木ごとに

●訳

(玉葛) 実のならない木には (ちはやぶる) 神が取りつくそうですよ 実のならない木ごとに

「ちはやぶる」の説明には、「古代の神の中には悪霊妖怪の類もあって、それが凶暴残忍に振る舞い人間の生活を脅かすことがあったのでかけた。」とあります。「ちはやぶる」は、もともと「荒々しい」ことを表わす言葉だったのが、時に人間に脅威をもたらす恐ろしい神々の連想から、いつしか「神」という言葉をみちびきだす枕詞として機能するようになった、という意見ですね。
 

『万葉集』巻第十一・2662

●原文

千葉破 神之伊垣毛 可越 今者吾名之 惜無

●読み下し

ちはやぶる 神の斎垣(いがき)も 越えぬべし 今は我(わ)が名の 惜しけくもなし

●訳

(ちはやぶる) 神社の玉垣(※神社の周囲の垣)も 越えかねない もうわたしは名など 惜しくない

 

おわりに

これまで見てきたように、「ちはやぶる」は荒々しくふるまうことを意味する言葉であるものの、和歌の中では単に歌の調子を整えて「神」の言葉を導く枕詞の役割を担っています。

業平の和歌の中でも枕詞として機能するのみで、現代語訳するときには「凶暴である」ことや「荒々しい」ことを前面に出す必要はないと思われます。

ただ、紅葉した葉を吹き散らして竜田川を彩る秋の強風のイメージの裏には、「ちはやぶる」という言葉が本来持っている荒々しさが隠れていると言えなくもないですね。

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とだに のよは わがでは
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かぜよぐ なには わすじの
かぜいたみ なには わたのはら
きみがため はなそふ わたのはら
きみがため はないろは ぬれば
らやま

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