51~60番歌

百人一首の意味と文法解説(57)めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に雲隠れにし夜半の月かな┃紫式部

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-57

投稿日:2018年3月12日 更新日:

めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に雲がくれにし夜半の月かな

小倉百人一首から、紫式部の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

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原文

ogura-hyakunin-isshu-57

百人一首(57)めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に雲隠れにし夜半の月かな

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-57

百人一首(57)めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に雲隠れにし夜半の月かな

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釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

紫式部
巡り逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-57

百人一首(57)めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に雲隠れにし夜半の月かな

現代語訳(歌意)・文法解説

※数年ぶりにたまたま出会った昔からの幼な友だちが、ほんの少し姿を見かけただけで、7月10日ごろの月が沈むのと先をあらそうように帰ってしまいましたので、よんだ歌。

久々に再会して、昔見た面影かどうかも見分けがつかない間に、雲にかくれた夜の月ではないけれど、帰ってしまったあの人よ。

めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に雲隠れにし夜半の月かな

めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に雲隠れにし夜半の月かな

※係助詞「や」は連体形で結びますが、省略されています。係り結びは「ぞ・なむ・や・か=連体、こそ=已然形」とまとめて覚えます。

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ

そのほかの助詞の解説は「古典の助詞の覚え方」にまとめましたのでご確認ください。

※「雲隠れにし」の「」は完了の助動詞「ぬ」の連用形、「」は過去の助動詞「き」の連体形で、いずれも連用形接続です。完了の助動詞と過去の助動詞をいっしょに使う場合、「完了 → 過去」の順番になります(例:「誓ひてし」・「立ちにけり」など)。また、連用形接続の助動詞はぜんぶで、「き・けり・つ・ぬ・たり・たし・けむ」の7種類です。助動詞は接続ごとにまとめて覚えておくと便利です。そのほかの助動詞の接続は「古典の助動詞の活用表の覚え方」でご確認ください。

※「見る」は上一段動詞の代表例です。上一段動詞は種類が少ないので「ひいきにみゐる上一段」とまとめて覚えます。

ひいきにみゐる上一段

ひいきにみゐる上一段

▽月を友に見立てて、慌ただしいすれ違いを惜しむ。(『新日本古典文学大系 新古今和歌集』田中裕・赤瀬信吾、1992年、岩波書店、438ページ)
 

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語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌のよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前に置かれます。

早くよりわらは友だちに侍(はべり)ける人の、年ごろ経てゆきあひたる、ほのかにて、七月十日のころ、月にきお(ほ)ひて帰り侍(はべり)ければ

※訳
はやくから幼な友だちでありました人で、数年間たってから偶然に出会った人が、ほんの少し姿を見かけただけで、7月10日ごろの月が沈むのと先をあらそうように帰ってしまいましたので、よんだ歌。

※注
○わらは友だち 幼な友だち。
○七月十日 家集「十月十日」。陰暦十日の月は半月で、夜中に沈む。
○月にきおひて その月が沈むのと争うように急ぎ隠れる。

※詞書の本文と注の引用は『新日本古典文学大系 新古今和歌集』(438ページ)によります。
 

めぐりあひて

●めぐ・り【廻り】
一〘四段〙《物の周囲を一周りするようにかこむ意。転じて、一つ方向に順次移動して、再び出発点に戻る意。類義語ミ(廻)は、曲線に沿って動く意。モトホリ(廻)は、一つ中心をぐるぐるまわる意。マハリ(廻)は、マヒ(舞)と同根で、平面上を大きく旋回する意》
①一周りするように取りかこむ。ぐるりとかこむ。「射水川(いみづがは)い行き―・れる玉くしげ二上山は」〈万三九八五〉。「此の経、王の力に由りて、暉(ひかり)を流して四天を遶(めぐ)る」〈金光明最勝王経平安初期点〉

●―あ・ひ アイ【廻り逢ひ】
〘四段〙別れてのち別別の運命をたどった末に再会する。「見る程ぞしばし慰む―・はむ月の都は遙かなれども」〈源氏須磨〉。「栖(すみか)を他郷に隔つといへども、命あればみな―・ふ事を得たり」〈保元中・謀叛人〉
 

夜半

よは ヨワ【夜は】
《平安・鎌倉時代、多くは和歌に使う雅語》
夜。夜ふけ。「風吹けば沖つ白波たつた山―にや君がひとり越ゆらむ」〈古今九九四〉。「いとどしき水の音に目もさめて、―の嵐に山鳥の心地して明かしかね給ふ」〈源氏総角〉。「夜中(よなか)をば―と云ふ」〈能因歌枕〉
 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。

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あきぜにぎりすはるぎて
あきたのこころてにはるよの
ぬればこころかたの
あさふのひとをひといさ
あさぼらけたびはひとをし
あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

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都内の私立大学 文学部国文学専攻出身
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