久方の光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
小倉百人一首から、紀友則の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。
また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。
ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。
目次
原文

百人一首(33)ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162
翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

百人一首(33)ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)
紀友則
ひさかたの 光のどけき 春の日に しづごころなく 花の散るらむ
字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

百人一首(33)ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
現代語訳(歌意)・文法解説
※桜の花が散るのをよんだ歌。
日の光がやわらかな春の日に、なぜ落ち着いた心もなく桜の花は散るのだろう。

連体修飾と連用修飾:光のどけき春の日にしづごころなく花の散るらむ
※形容詞の活用は「古典の形容詞の活用表の覚え方」をご覧ください。
※「らむ」は原因推量の助動詞で、「どうして~なのだろう」と訳します。接続は基本的に終止形です。終止形接続の助動詞は「べし・らし・まじ・らむ・めり・なり」の6種類です。助動詞は「古典の助動詞の活用表の覚え方」にまとめたのでご確認ください。
語釈(言葉の意味)
※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
詞書(ことばがき)
※詞書とは和歌の前についている短い説明文のことです。
桜の花の散るを、よめる(※桜の花が散るのをよんだ歌)
※引用『新日本古典文学大系 古今和歌集』小島憲之・新井栄蔵、岩波書店、1989年、42ページ。
ひさかたの【久方の】
〔枕詞〕
①「天(あめ)」、転じて「雨」にかかる。「―天金機(あめかなばた)」〈紀歌謡五九〉。「―雨は降りしく」〈万四四四三〉
②「月」「雲」「光」など、天空に関するものにかかる。「―月は照りたり」〈万三六七二〉。「―光のどけき」〈古今八四〉
のどけき
●のどけ・し【長閑けし】
〘形ク〙《ノドカ(長閑)の形容詞形》
①日の光がやわらかである。「久方の光―・き春の日にしづ心なく花の散るらむ」〈古今八四〉
しづごころ【静心】
静かな心。落ち着いた心。「久方の光のどけき春の日に―なく花の散るらむ」〈古今八四〉
はな【花】
➊①草木の花。「橘は実さへ―さへその葉さへ」〈万一〇〇九〉。「春べは―かざし持ち」〈万三八〉
②《特に》桜の花。「近代はただ―と云は皆桜也」〈八雲御抄三〉。「惣じて日本で―と云ふは桜なれども」〈朗詠鈔一〉
らむ
(※目前原因推量:なぜ~なのだろう)
作者:紀友則(きのとものり)について
紀友則の生まれた年はくわしくわかりません。亡くなった年は延喜(えんぎ)5年(905)と言われています。
紀貫之(きのつらゆき)はいとこです。
古今和歌集(こきんわかしゅう)
延喜(えんぎ)5年(905)、醍醐(だいご)天皇の勅命(ちょくめい)により最初の勅撰和歌集、『古今和歌集』がつくられたときには、いとこの紀貫之(きのつらゆき)、凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)、壬生忠岑(みぶのただみね)とともに撰者の一人として編纂にたずさわりましたが、完成する前に亡くなってしまったと言われています。

「勅撰」は天皇の命令でつくること
大内記(だいないき)
友則は当時、役人としてはあまり高い地位にのぼれませんでした。延喜4年(904)にようやく大内記になります。
内記は宮中の書記係のことで、大内記はその上位の地位のことです。中務省(なかつかさしょう)で詔勅(しょうちょく)(天皇の命令文)を作成したり、宮中の記録をつけたりします。文章をつくるのが上手で、書のうまい人がまかせられる役職です。
内記の構成はぜんぶで6人です。
大内記 2名
中内記 2名
小内記 2名
友則は905年に亡くなったと言われているので、大内記の職務についたのも1年ほどだと考えられます。役人として出世することはできませんでしたが、大内記に任命されたり、『古今和歌集』の編纂にたずさわったり、和歌や書の腕前は高く評価されていたと言えるでしょう。
三十六歌仙(さんじゅうろっかせん)
友則は三十六歌仙の一人に選ばれています。三十六歌仙とは、平安時代中期に藤原公任(ふじわらのきんとう)(966~1041年)がつくった『三十六人集』(『三十六人撰』とも言う)にもとづく36人のすぐれた歌人のことです。

人麿・貫之・躬恒・伊勢・家持・赤人・業平・遍昭・素性・友則・猿丸大夫・小町・兼輔・朝忠・敦忠・高光・公忠・忠岑・斎宮女御・頼基・敏行・重之・宗于・信明・清正・順・興風・元輔・是則・元真・小大君・仲文・能宣・忠見・兼盛・中務
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