31~40番歌

百人一首の意味と文法解説(33)ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ┃紀友則

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-33

投稿日:2018年3月11日 更新日:

久方の光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ

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小倉百人一首から、紀友則の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

目次

原文

ogura-hyakunin-isshu-34

百人一首(33)ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-33

百人一首(33)ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

紀友則
ひさかたの 光のどけき 春の日に しづごころなく 花の散るらむ
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-33

百人一首(33)ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ

現代語訳(歌意)・文法解説

※桜の花が散るのをよんだ歌。

日の光がやわらかな春の日に、なぜ落ち着いた心もなく桜の花は散るのだろう。

連体修飾と連用修飾:光のどけき春の日にしづごころなく花の散るらむ

連体修飾と連用修飾:光のどけき春の日にしづごころなく花の散るらむ

※形容詞の活用は「古典の形容詞の活用表の覚え方」をご覧ください。

※「らむ」は原因推量の助動詞で、「どうして~なのだろう」と訳します。接続は基本的に終止形です。終止形接続の助動詞は「べし・らし・まじ・らむ・めり・なり」の6種類です。助動詞は「古典の助動詞の活用表の覚え方」にまとめたのでご確認ください。
 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは和歌の前についている短い説明文のことです。

桜の花の散るを、よめる(※桜の花が散るのをよんだ歌)

※引用『新日本古典文学大系 古今和歌集』小島憲之・新井栄蔵、岩波書店、1989年、42ページ。
 

ひさかたの【久方の】

〔枕詞〕
①「天(あめ)」、転じて「雨」にかかる。「―天金機(あめかなばた)」〈紀歌謡五九〉。「―雨は降りしく」〈万四四四三〉
②「月」「雲」「光」など、天空に関するものにかかる。「―月は照りたり」〈万三六七二〉。「―光のどけき」〈古今八四〉
 

のどけき

●のどけ・し【長閑けし】
〘形ク〙《ノドカ(長閑)の形容詞形》
①日の光がやわらかである。「久方の光―・き春の日にしづ心なく花の散るらむ」〈古今八四〉
 

しづごころ【静心】

静かな心。落ち着いた心。「久方の光のどけき春の日に―なく花の散るらむ」〈古今八四〉
 

はな【花】

➊①草木の花。「橘は実さへ―さへその葉さへ」〈万一〇〇九〉。「春べは―かざし持ち」〈万三八〉
②《特に》桜の花。「近代はただ―と云は皆桜也」〈八雲御抄三〉。「惣じて日本で―と云ふは桜なれども」〈朗詠鈔一〉
 

らむ

(※目前原因推量:なぜ~なのだろう)
 

作者:紀友則(きのとものり)について

紀友則の生まれた年はくわしくわかりません。亡くなった年は延喜(えんぎ)5年(905)と言われています。

紀貫之(きのつらゆき)はいとこです。
 

古今和歌集(こきんわかしゅう)

延喜(えんぎ)5年(905)、醍醐(だいご)天皇の勅命(ちょくめい)により最初の勅撰和歌集、『古今和歌集』がつくられたときには、いとこの紀貫之(きのつらゆき)、凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)、壬生忠岑(みぶのただみね)とともに撰者の一人として編纂にたずさわりましたが、完成する前に亡くなってしまったと言われています。

勅撰

「勅撰」は天皇の命令でつくること

 

大内記(だいないき)

友則は当時、役人としてはあまり高い地位にのぼれませんでした。延喜4年(904)にようやく大内記になります。

内記は宮中の書記係のことで、大内記はその上位の地位のことです。中務省(なかつかさしょう)で詔勅(しょうちょく)(天皇の命令文)を作成したり、宮中の記録をつけたりします。文章をつくるのが上手で、書のうまい人がまかせられる役職です。

内記の構成はぜんぶで6人です。

大内記 2名
中内記 2名
小内記 2名

友則は905年に亡くなったと言われているので、大内記の職務についたのも1年ほどだと考えられます。役人として出世することはできませんでしたが、大内記に任命されたり、『古今和歌集』の編纂にたずさわったり、和歌や書の腕前は高く評価されていたと言えるでしょう。
 

三十六歌仙(さんじゅうろっかせん)

友則は三十六歌仙の一人に選ばれています。三十六歌仙とは、平安時代中期に藤原公任(ふじわらのきんとう)(966~1041年)がつくった『三十六人集』(『三十六人撰』とも言う)にもとづく36人のすぐれた歌人のことです。

人麿・貫之・躬恒・伊勢・家持・赤人・業平・遍昭・素性・友則・猿丸大夫・小町・兼輔・朝忠・敦忠・高光・公忠・忠岑・斎宮女御・頼基・敏行・重之・宗于・信明・清正・順・興風・元輔・是則・元真・小大君・仲文・能宣・忠見・兼盛・中務

人麿・貫之・躬恒・伊勢・家持・赤人・業平・遍昭・素性・友則・猿丸大夫・小町・兼輔・朝忠・敦忠・高光・公忠・忠岑・斎宮女御・頼基・敏行・重之・宗于・信明・清正・順・興風・元輔・是則・元真・小大君・仲文・能宣・忠見・兼盛・中務

 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

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あきぜにぎりすはるぎて
あきたのこころてにはるよの
ぬればこころかたの
あさふのひとをひといさ
あさぼらけたびはひとをし
あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

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