31~40番歌

百人一首の意味と文法解説(35)人はいさ心も知らずふるさとは花ぞむかしの香に匂ひける┃紀貫之

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-35

投稿日:2018年3月11日 更新日:

ひとはいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔のかににほひける

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小倉百人一首から、紀貫之の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

原文

ogura-hyakunin-isshu-35

百人一首(35)人はいさ心も知らずふるさとは花ぞむかしの香ににほひける


画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-35

百人一首(35)人はいさ心も知らずふるさとは花ぞむかしの香ににほひける

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

紀貫之
人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香に匂ひける
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-35

百人一首(35)人はいさ心も知らずふるさとは花ぞむかしの香ににほひける


 

現代語訳(歌意)・文法解説

※初瀬(はつせ/はせ)にある長谷寺(はせでら)に参詣するたびに泊まった人の家に、長い間泊まらずにいて、いくらか時間が経ったあとに訪ねたところ、その家の主人は「このように、たしかに泊まる所はありますよ」と言いだしたので、そこに立っていた梅の木から、花が咲いている枝を折りとって、よんだ歌。

人のほうは、心が変わったのか、さあ分かりません。昔なじみのこの里では、花が昔の通りの香りで匂っていることです。

係り結び:花ぞ昔の香に匂ひける

係り結び:花ぞ昔の香に匂ひける

※係り結びは「古典の助詞の覚え方」でご確認ください。

※長谷寺の公式HPはこちらから。http://www.hasedera.or.jp/
 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは和歌の前についている短い説明文のことです。

初瀬に詣づるごとに宿りける人の家に、久しく宿らで、程経て後に至れりければ、かの家の主、かく定かになむ宿りはあると、言ひ出だして侍ければ、そこに立てりける梅の花を折りて、よめる(※初瀬にある長谷寺に参詣するたびに泊まった人の家に、長い間泊まらずにいて、時間が経った後に訪ねたところ、その家の主人は「このように確かに泊まる所はありますよ」と言いだしたので、そこに立っていた梅の木から、花が咲いている枝を折り取って、よんだ歌。 引用者補)

○かく定かに…
こんな風にちゃんと泊る所がありますよとやや皮肉に言う。

(※以上『新日本古典文学大系 古今和歌集』小島憲之・新井栄蔵、岩波書店、1989年、30ページから引用。)
 

ひと【人】

▽「人」は直接には「あるじ(主人)」を言うが、広く、「花」に対する「人」をも暗に含める。「かく定かに宿りは変はらずあると言へる詞を受けて、誠にその宿りの香のみぞ昔に変はらず匂ひける、されども、あるじの心は変はりしやらん、変はらぬもいさ知らずとの心なり」(教端抄)。(『新日本古典文学大系 古今和歌集』小島憲之・新井栄蔵、岩波書店、1989年、31ページ)
 

いさ【否・不知】

①相手の言葉に対して、「さあ…知らない」「さあ…分らない」と否定的な応答をするに使う語。「―とを聞こせ(知ラヌトオッシャイ)わが名告(の)らすな」〈万二七一〇〉。「人は我はなき名の惜しければ」〈古今六三〇〉
 

ふるさと【古里・故郷】

①古びて荒れた里。昔、都などのあった土地。「―の飛鳥(あすか)はあれどあをによし平城(なら)の明日香(あすか)を見らくし好しも」〈万九九二〉
②昔なじみの、なつかしい里。㋺かつて住んだ所。長年暮した家。度度来た土地。「人はいさ心も知らず―は花ぞ昔の香ににほひける」〈古今四二〉
 

はな【花】

(※詞書にあるとおり、梅の花のこと。)
 

か【香】

(※かおり)
 

作者:紀貫之(きのつらゆき)について

貞観(じょうがん)10年(868)~天慶(てんぎょう)8年(945)。生まれた年を貞観14年(872)とする説もあります。
 

古今和歌集(こきんわかしゅう)

延喜(えんぎ)5年(905)、醍醐(だいご)天皇の勅命(ちょくめい)により最初の勅撰和歌集、『古今和歌集』がつくられたときには、いとこの紀友則(きのとものり)、凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)、壬生忠岑(みぶのただみね)とともに撰者の一人として編纂にたずさわり、序文である「仮名序(かなじょ)」を書きました(漢文で書かれた「真名序(まなじょ)」に対して仮名文で書かれた序文を「仮名序」と言う)。『古今和歌集』に入った貫之の和歌は100首以上で、全体の約1100首の中で最も多いです。

仮名序には、すぐれた歌人として6人の名前があげられています。これを六歌仙(ろっかせん)と言います。六歌仙は、在原業平(ありわらのなりひら)、僧正遍昭(そうじょうへんじょう)、喜撰法師(きせんほうし)、大友黒主(おおとものくろぬし)、文屋康秀(ふんやのやすひで)、小野小町(おののこまち)、以上の6人です。

「勅撰」は天皇の命令でつくること

「勅撰」は天皇の命令でつくること


 

土佐日記(とさにっき)

貫之は『土佐日記(とさにっき)』の作者としても知られています。(日記文学の覚え方は「とかげいずむらさらさぬき」です。)

貫之は土佐の国(いまの高知県)の国司(こくし/くにのつかさ)(地方を治めるために政府から派遣された地方官。いまの県知事のようなもの)でした。承平(じょうへい)4年(934)の12月、国府(こくふ/こう)(国司の役所)を出発し、翌935年2月に京都に帰るまでのことを書いた日記です。

冒頭の「男もすなる日記(にき)といふ(う)ものを、女もしてみむ(ん)とてするなり」の一文は有名です。(助動詞「なり」の解説は「古典の助動詞の活用表の覚え方」をご参照ください。)

伝聞の助動詞「なり」と断定の助動詞「なり」

伝聞の助動詞「なり」と断定の助動詞「なり」

これを訳すと、「男も書くとかいう日記というものを、女であるわたしもしてみようと思って書くのだ」となりますが、貫之は女性ではなく、まぎれもなく男性です。

当時、「男の日記」とは一般的に、漢文で書かれた官僚(かんりょう)(役人)の記録のことを言います。ですから、日記の筆者を女性とするのは作者の作り話で、言わば「おふざけ」のようなものだと考えてください。
 

三十六歌仙(さんじゅうろっかせん)

貫之は三十六歌仙の一人にかぞえられます。

三十六歌仙とは、平安時代中期に藤原公任(ふじわらのきんとう)(966~1041年)がつくった『三十六人集』(『三十六人撰』とも言う)にもとづく36人のすぐれた歌人のことです。

人麿・貫之・躬恒・伊勢・家持・赤人・業平・遍昭・素性・友則・猿丸大夫・小町・兼輔・朝忠・敦忠・高光・公忠・忠岑・斎宮女御・頼基・敏行・重之・宗于・信明・清正・順・興風・元輔・是則・元真・小大君・仲文・能宣・忠見・兼盛・中務

人麿・貫之・躬恒・伊勢・家持・赤人・業平・遍昭・素性・友則・猿丸大夫・小町・兼輔・朝忠・敦忠・高光・公忠・忠岑・斎宮女御・頼基・敏行・重之・宗于・信明・清正・順・興風・元輔・是則・元真・小大君・仲文・能宣・忠見・兼盛・中務


 

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あきぜに ぎりす はるぎて
あきたの こころてに はるよの
ぬれば こころ かたの
あさふの ひとを ひといさ
あさぼらけ たびは ひとをし
あさぼらけ すてふ くからに
ひきの やこの ととぎす
あはしま びしさに みかもり
あはとも ぶれど みかはら
みての つゆに ばやな
あふとの みのえの のくの
あまかぜ をはやみ しのの
あまはら さごの らさめの
あららむ のおとは ぐりあひて
あらふく のうらに しきや
ありけの わかれ ともに
ありやま のをよ らはで
しへの をかも むぐら
いまむと ちぎりきし やまはに
いまただ ちぎり やまとは
りける やぶる されば
みわび みれば のとを
やまに ばねの よのなか
にきく ながらむ よのなか
おほやま ながへば すがら
おほなく なげつつ こめて
ひわび なげとて わがほは
とだに のよは わがでは
さぎの なにおはば わするる
かぜよぐ なには わすじの
かぜいたみ なには わたのはら
きみがため はなそふ わたのはら
きみがため はないろは ぬれば
らやま

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都内の私立大学 文学部国文学専攻出身
お菓子メーカー勤務のサラリーマン
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