41~50番歌

百人一首の意味と文法解説(47)八重葎茂れる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり┃恵慶法師

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-47

投稿日:2018年3月12日 更新日:

やへむぐらしげれる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり

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小倉百人一首から、恵慶法師の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

目次

原文

ogura-hyakunin-isshu-47

百人一首(47)八重葎繁れる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-47

百人一首(47)八重葎茂れる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

恵慶法師
八重葎 茂れる宿の さびしきに 人こそ見えね 秋は来にけり
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-47

百人一首(47)八重葎茂れる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり

現代語訳(歌意)・文法解説

※河原院(かわらのいん)(源融がつくった邸宅)で、「荒れている宿に秋が来た」という趣向を、人々が和歌によみました時に、恵慶法師(えぎょうほうし)がよんだ歌。
 

直訳

たくさんの雑草(※むぐら)が生えている宿で、荒れはてているように感じられる宿に、人の姿は見えないが、秋はやってきたのだ。
 

意訳

たくさんの葎(むぐら)が生い茂り、荒れはてているこの河原院に、人の姿は見えないが、秋はやってきたのだ。

八重葎茂れる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり

八重葎茂れる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり

※「しげれる」の「る」は、存続・完了の助動詞「」の連体形です。接続はサ変の未然形・四段の已然形(さみしいリ)。見分けるコツは、直前に母音の「e(エ)」の音があるかどうかです。「e(エ)」のうしろに「ら・り・る・れ」が続いたら、存続・完了の助動詞ではないか、と考えるようにします。意味は、まず存続(~している)で訳してみて、合わないと感じたら完了(~した)で訳します。

さみしい「リ」:存続・完了の「り」

さみしい「リ」:存続・完了の「り」

e + ら・り・る・れ:存続・完了

e + ら・り・る・れ:存続・完了

※「宿の」の「の」は格助詞で、同格の用法です。「名詞 + の + ~ + 連体形 + (名詞の省略) + 格助詞」の形で、「~で…」の意味を表します。「の」のうしろに連体形がある場合は同格ではないか、と考えるようにします。

同格の格助詞:の

同格の格助詞:の

格助詞「の」のそれ以外の用法や、その他の助詞の解説は「古典の助詞の覚え方」をご覧ください。

※係助詞「こそ」は已然形で結びます。係り結びは「ぞ・なむ・や・か=連体、こそ=已然形」とまとめて覚えます。

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ

 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌のよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前に置かれます。

河原院(かはらのゐん)にて荒れたる宿に秋(あき)来(きたる)といふ心を人々詠(よ)み侍(はべり)けるに(※河原院で、「荒れている宿に秋が来た」という趣向を、人々が和歌によみました時に、恵慶法師がよんだ歌。)

※詞書の引用は『新日本古典文学大系 拾遺和歌集』(小町谷照彦、岩波書店、1990年、42ページ)によります。
 

やへむぐら【八重葎】

●やへむぐら ‥エ‥ 【八重葎】
多くのむぐら。多種多様の蔓草。家の荒れた形容に用いる。「思ふ人来むと知りせば―おほへる庭に珠敷かましを」〈万二八二四〉

●むぐら【葎】
カナムグラ・ヤエムグラなど、蔓でからむ雑草の総称。貧しい家、荒廃した家の形容に使われることが多い。「―這ふ賤しき屋戸も」〈万四二七〇〉

●やへむぐら【八重葎(やえむぐら)】

……平安時代に入ると「八重葎しげきやどには夏虫の声よりほかにとふ人もなし」(後撰集・夏・読人不知)「八重葎しげれるやどのさびしきに人こそ見えね秋は来にけり」(拾遺集・秋・恵慶、百人一首)のように人がたずねてこないさびしい所というイメージでよまれるのが一般的になった。
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

○八重葎
葎が生い茂っていることを表す歌語。「蓬生」「浅茅生」などと共に、邸宅の荒廃を表象する。(『新日本古典文学大系 拾遺和歌集』42ページ)
 

茂れる(しげれる)

(※ラ行四段活用「茂る」已然形 + 存続の助動詞「り」連体形。「茂っている」の意。「母音e + ら・り・る・れ」の形で存続か完了の意味になる。「shiger e + ru」)
 

やど【宿】

(※家屋)
 

さびしき

(※連体形)

●さび・し【寂し・淋し】
〘形シク〙
①もとの活気が失せて、荒れはてていると感じる。「いつぞやも花の盛りに一目見し木のもとさへや秋は―・しき」〈源氏総角〉
 

(※同格の格助詞。「~で…」の意。「たくさんの雑草が生えている宿で、荒れはてているように感じられる宿に」の意。)
 

(※格助詞。場所を示す。直前に「宿」が省略されている。)
 

こそ

(※逆接。「~だが」)
 

(※打消の助動詞「ず」已然形。)
 

ここは、悲しい季節。悲秋。(『新日本古典文学大系 拾遺和歌集』42ページ)
 

にけり

(※完了の助動詞「ぬ」連用形 + 過去(詠嘆)の助動詞「けり」終止形。完了の助動詞と過去の助動詞がともに使われる場合、完了・過去の順番。)
 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。

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あらふくのうらにしきや
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ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

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