世の中は常にもがもな渚漕ぐあまのをぶねのつなでかなしも
小倉百人一首から、鎌倉右大臣(源実朝)の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。
また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。
ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。
目次
原文

百人一首(93)世の中は常にもがもな渚こぐあまの小舟の綱手かなしも
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162
翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

百人一首(93)世の中は常にもがもな渚こぐあまの小舟の綱手かなしも
釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)
鎌倉右大臣
世の中は 常にもがもな 渚漕ぐ あまの小舟の 綱手かなしも
字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

百人一首(93)世の中は常にもがもな渚こぐあまの小舟の綱手かなしも
現代語訳(歌意)・文法解説
※この和歌の題やよまれた事情はあきらかでない。
世の中は変わらないものであってほしいことよ。なぎさを漕ぐ漁師が小舟を綱でひいていく様子が悲しく感じられる。

世の中は常にもがもな渚こぐあまの小舟の綱手かなしも
※二句切れ。
語釈(言葉の意味)
※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
詞書(ことばがき)
※詞書とは、和歌がよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前に置かれます。
題しらず(※和歌の題やよまれた事情が明らかでないこと。)
※詞書の引用は『和歌文学大系 新勅撰和歌集』(中川博夫、2005年、明治書院、101ページ)によります。
もがも
〘助〙
《終助詞モガに更にモを後で加えた語。平安時代にはモガナに転じる》
①…が欲しい。「君が行く道の長手を繰りたたね焼き亡ぼさむ天の火―」〈万三七二四〉
②…でありたい。…であって欲しい。「天地(あめつち)とともに―と思ひつつ」〈万三六九一〉。「万代にかくし―と」〈万四七八〉。「天橋も長く―、高山も高く―」〈万三二四五〉
つなで【綱手】
船具の一。船を引く綱。「人言は暫(しま)しそ吾妹―引く海ゆまさりて深くし思ふを」〈万二四三八〉。「牽―、豆奈天(つなで)、挽レ船縄也」〈和名抄〉
かなし
心底の痛切な感情を表す語。(『和歌文学大系 新勅撰和歌集』101ページ)
も
(前略)
終助詞としては、主に奈良時代に例があって、形容詞終止形を承けるものが極めて多い。動詞終止形、あるいは否定形を承けることもあるが、これらの「も」は、用言の叙述を言い放たずに、不確定の意を添えてその表現をやわらげるものと思われる(3)。平安時代以後、文末にはあまり使われなくなった。(中略)
(3)「難波潟潮干なありそね沈みにし妹がすがたを見まく苦しも」〈万二二九〉「佐保山をおぼに見しかど今見れば山なつかしも風吹くなゆめ」〈万一三三三〉(後略)
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