31~40番歌

百人一首の意味と文法解説(36)夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいづこに月宿るらむ┃清原深養父

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-36

投稿日:2018年3月11日 更新日:

なつのよはまだよひながら明けぬるを雲のいづこに月やどるらむ

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小倉百人一首から、清原深養父の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

目次

原文

ogura-hyakunin-isshu-36

百人一首(36)夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいづこに月宿るらむ

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-36

百人一首(36)夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいづこに月宿るらむ

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

清原深養父
夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-36

百人一首(36)夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいづこに月宿るらむ

現代語訳(歌意)・文法解説

※月が美しく見えた夜、まだじゅうぶん明るくならないころに、よんだ歌。

夏の夜は、まだ夕方でありながらそのまま明けてしまうが、(西の空に沈むひまなどないはずだから)いったい雲のどのあたりに、月は宿をとっているのだろうか。

夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいづこに月宿るらむ

夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいづこに月宿るらむ

※終止形接続(ラ変型には連体形接続)の助動詞は、「べし・らし・まじ・らむ・めり・なり」の6種類です。助動詞については「古典の助動詞の活用表の覚え方」をご覧ください。

※接続助詞や副助詞の解説は「古典の助詞の覚え方」でご確認ください。
 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌がよまれた事情を説明する短い文で、和歌の前につけられます。

月の面白かりける夜、あか月方に、よめる(※月が美しく見えた夜、まだじゅうぶん明るくならない頃に、よんだ歌。)

○面白かりける
晴やかな美しさをいう。

○あか月
明(あ)か時。夜半から朝までをいうが、まだ十分明けぬ暗いころ。

詞書本文と注の引用は『新日本古典文学大系 古今和歌集』(小島憲之・新井栄蔵、岩波書店、1989年、64ページ)によります。
 

よひ

●よひ ヨイ 【宵】
《ヨ(夜)・ユフ(夕)と同根。上代の夜の時間の区分。ユフベ→ヨヒ→ヨナカ→アカツキ→アシタの第二の部分。日が暮れて暗くなってからをいう。妻訪い婚の時代には、男が女の家にたずねて行く時刻にあたる》
夜のはじめ。「わが背子が来べき―なりささがねの蜘蛛(くも)のおこなひこよひしるしも」〈紀歌謡六五〉。「―暁のうち忍び給へる出で入りも艶にしなし給へり」〈源氏真木柱〉。「月見る―の、いつとても物あはれならぬはなき中に」〈源氏鈴虫〉
 

ながら

(前略)「…したままで」の意である(1)。そこから、「…しつつ」と動作の同時に進行する意を表わした(2)。ところが、事が同時に進行するというような、本来順接でも逆接でもない条件句は、「知らぬ顔をしつつ頼みをかける」というような、前件と後件との関係が事実の上での逆の結果となるときは、その接続助詞は逆接の意味を持つようになる。「ながら」もそれと同じく、同時進行の意から転じて逆接を表わす場合を生じた(3)。(後略)

(1)「針袋帯びつづけながら里ごとにてらさひあるけど人も咎めず」〈万四一三〇〉
(2)「いきどほる心の内を思ひ伸べうれしびながら…鳥座(とくら)結ひすゑてそ我が飼ふましらふの鷹」〈万四一五四〉「ふみわけてさらにや訪はむもみち葉の降りかくしたる道を見ながら」〈古今二八八〉
(3)「年をへて消えぬおもひはありながら夜の袂はなほこほりけり」〈古今五九六〉「もとの品高く生れながら身は沈み位みじかくて」〈源氏・帚木〉
 

らむ

(※目前原因推量:なぜ~なのだろう)
 

作者:清原深養父(きよはらのふかやぶ)について

清少納言(せいしょうなごん)の祖先

生没年未詳。清原深養父の生まれた年も死んだ年もよくわかっていません。

深養父は清原元輔(きよはらのもとすけ)の祖父(あるいは父)です。

中宮(ちゅうぐう)定子(ていし)に仕えて『枕草子』(まくらのそうし)を書いた清少納言(せいしょうなごん)は、深養父の孫(あるいは曾孫)にあたります。

清原深養父―元輔―清少納言

清原深養父―元輔―清少納言

 

内匠寮・内蔵寮

深養父は延喜(えんぎ)8年(908)に内匠大充(たくみのだいじょう)になり、延長(えんちょう)元年(923)に内蔵大充(くらのだいじょう)になりました。

内匠寮(たくみりょう)…中務省(なかづかさしょう)に所属し、宮中で使う道具の製作などを担当した役所。

内蔵寮(くらりょう)…中務省に所属し、宝物や天皇の衣服の管理などを担当した役所。

四等官(しとうかん)…官庁の幹部を「かみ・すけ・じょう・さかん」の4つの階級に分けます。「大・少」二人置く場合もありました。

四等官(かみ・すけ・じょう・さかん)

四等官(かみ・すけ・じょう・さかん)

 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。

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あきぜにぎりすはるぎて
あきたのこころてにはるよの
ぬればこころかたの
あさふのひとをひといさ
あさぼらけたびはひとをし
あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

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