21~30番歌

百人一首の意味と文法解説(30)有明のつれなく見えし別れより暁ばかりうきものはなし┃壬生忠岑

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-30

投稿日:2018年3月11日 更新日:

ありあけのつれなく見えし別れよりあかつきばかり憂きものはなし

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小倉百人一首から、壬生忠岑の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

目次

原文

ogura-hyakunin-isshu-30

百人一首(30)有明のつれなく見えし別れよりあかつきばかりうきものはなし

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-30

百人一首(30)有明のつれなく見えし別れより暁ばかりうきものはなし

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

壬生忠岑
有り明けの つれなく見えし 別れより あかつきばかり 憂きものはなし
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-30

百人一首(30)有明のつれなく見えし別れより暁ばかりうきものはなし

現代語訳(歌意)・文法解説

月が空に残っているうちに夜明けになったその頃に、つめたく見えたあなたとの無情な別れ以来、暁ほどつらいものはない。

つれなく見えし別れより

つれなく見えし別れより

あかつきばかりうきものはなし

あかつきばかりうきものはなし

※格助詞と副助詞の解説は「古典の助詞の覚え方」でご確認ください。
 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

ありあけ【有明】

月が空に残っているうちに夜明けになること。陰暦の二十日頃の月の場合が多い。男が女のもとへ行って一夜を過ごして帰る時、月はまだ出ているのにあたりはすっかり明るくなったので帰らなけらばならないというつらい気持ちを託してよまれることが多かった。「ありあけのつれなく見えし別れより暁ばかりうきものはなし」(古今集・恋三・忠岑、百人一首)「今来(こ)むと言ひしばかりに長月の有明の月を待ち出(い)でつるかな」(同・恋四・素性、百人一首)などがその例である。
歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

つれなく

●つれな・し
〘形ク〙《「連れ無し」の意。二つの物事の間に何のつながりも無いさま》
①(働きかけに対して)何の反応もない。無情である。「我は物思ふ―・きものを」〈万二二四七〉。「いみじう聞え給へど、いと―・し」〈源氏夕霧〉

「つれなく 夜がしらじらと無情に明けるの意と人がしらじらしく無情だの意を掛ける。」(『新日本古典文学大系 古今和歌集』小島憲之・新井栄蔵、岩波書店、1989年、193ページ)
 

より

(※起点を表わす格助詞。「~から、~以来」の意味。)
 

あかつき【暁】

上代に用いられた「あかとき」が転じたもの。曙光がさす時間。明るくなり初める時で、「しののめ」や「あけぼの」よりも早い時間をいう。「暁のなからましかば白露のおきてわびしき別れせましや」(後撰集・恋四・貫之)は男女が別れるために起き出す最初の時間であることを示しているし、「み山(やま)出でて夜半(よは)にや来つるほととぎす暁かけて声の聞ゆる」(拾遺集・夏・兼盛)は「夜半」から朝に至る最初の時間であることを示している。(後略)
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

ばかり

(※大体の程度を表わす副助詞。「ほど」の意。)
 

作者:壬生忠岑(みぶのただみね)について

壬生忠岑の生没年は未詳です。生まれた年も死んだ年もよくわかっていません。

役人として地位は高くありませんでしたが、和歌をよむ才能を評価されて『古今和歌集』の撰者になりました。

息子は壬生忠見(みぶのただみ)。
 

古今和歌集(こきんわかしゅう)

『古今和歌集』は、延喜(えんぎ)5年(905)、醍醐(だいご)天皇の勅命(ちょくめい)により編纂された最初の勅撰和歌集です。撰者は紀貫之(きのつらゆき)を中心として、凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)、紀友則(きのとものり)、壬生忠岑です。

「勅撰」は天皇の命令でつくること

「勅撰」は天皇の命令でつくること

 

三十六歌仙(さんじゅうろっかせん)

忠岑は三十六歌仙の一人に選ばれています。

三十六歌仙とは、平安時代中期に藤原公任(ふじわらのきんとう)(966~1041年)がつくった『三十六人集』(『三十六人撰』とも言う)にもとづく36人のすぐれた歌人のことです。

人麿・貫之・躬恒・伊勢・家持・赤人・業平・遍昭・素性・友則・猿丸大夫・小町・兼輔・朝忠・敦忠・高光・公忠・忠岑・斎宮女御・頼基・敏行・重之・宗于・信明・清正・順・興風・元輔・是則・元真・小大君・仲文・能宣・忠見・兼盛・中務

人麿・貫之・躬恒・伊勢・家持・赤人・業平・遍昭・素性・友則・猿丸大夫・小町・兼輔・朝忠・敦忠・高光・公忠・忠岑・斎宮女御・頼基・敏行・重之・宗于・信明・清正・順・興風・元輔・是則・元真・小大君・仲文・能宣・忠見・兼盛・中務

 

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あきぜにぎりすはるぎて
あきたのこころてにはるよの
ぬればこころかたの
あさふのひとをひといさ
あさぼらけたびはひとをし
あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

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都内の私立大学 文学部国文学専攻出身
お菓子メーカー勤務のサラリーマン
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