51~60番歌

百人一首の意味と文法解説(51)かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを┃藤原実方朝臣

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-51

投稿日:2018年3月12日 更新日:

かくとだにえやは伊吹のさしもぐささしも知らじなもゆるおもひを

Sponsored Link

小倉百人一首から、藤原実方朝臣の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

目次

原文

ogura-hyakunin-isshu-51

百人一首(51)かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-51

百人一首(51)かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

藤原実方朝臣
かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-51

百人一首(51)かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを

現代語訳(歌意)・文法解説

※使者に持たせて、意中の女性にはじめて書き送った歌。

「わたしはこのように恋をしている」とだけでも言うことができないので、伊吹山のさしも草ではないけれど、これほど燃えているわたしの思いを、あなたは知らないでしょうね。

かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを

かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを

※四句切れ。

※副助詞「だに」は、最小限の願望(せめて~だけでも)の意味を表します。

※「」は不可能。後ろの打消表現と対応して、「~できはしない」の意味。

※係助詞「やは」は反語(~だろうか、いや、…ない)の意味を表し、連体形で結びます。「えやは言ふ」で、「言うことができるだろうか、いや、できはしない」の意味となります。反語の係助詞はそのほかに、「かは」「めや」があります。「やは・かは・めや=反語」とまとめて覚えます。係り結びと係助詞の解説は「古典の助詞の覚え方」をご覧ください。

※「しも」は強意の副助詞ですが、意味は特になく、語調を整える働きをするとお考えください。副助詞「し」も同じ働きをするので、「し・しも=強意の副助詞」とまとめて覚えます。(例:「待つとし聞かば」・「名にし負はば」・「絶えてしなくは」など)

序詞(じょことば)。意味や音から特定の言葉を導きだす言葉で、5音(5文字)以上のものを序詞と言います。「伊吹のさしも草」が「さしも」を導きだします。いっぽう、同じようなはたらきをする枕詞(まくらことば)は5音(5文字)におさまります。(例:序詞あしびきの山鳥の尾のしだり尾の」。枕詞ちはやぶる」・「ひさかたの」など)

掛詞(かけことば)。音が同じことを利用して、二つの意味を表すこと。「思ひ」の「ひ」が「火」と掛かります。
 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌のよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前に置かれます。

女にはじめてつかはしける(※使者に持たせて、意中の女性にはじめて書き送った歌。)

※詞書の引用は『新日本古典文学大系 後拾遺和歌集』(久保田淳・平田喜信、1994年、岩波書店、201ページ)によります。
 

かくとだに

このように(恋している)ということですら。(『新日本古典文学大系 後拾遺和歌集』201ページ)
 

かく

(※このように)
 

だに

(※せめて〜だけでも)
 

えやはいぶきのさしもぐさ

「えやは言ふ」(言えない)に「伊吹」を掛ける。この伊吹は歌枕。下野国(しもつけのくに)とも美濃・近江の境の伊吹山とも。(『新日本古典文学大系 後拾遺和歌集』201ページ)
 

(※え+否定:「できない」)
 

やは

(※反語の係助詞:「〜だろうか、いや、…ない」)
 

いぶきの

●いぶきやま【伊吹山】

近江国(滋賀県)と美濃国(岐阜県)の境にある山。役(えん)の行者が開いたと伝える修験道の霊地であったが、早く「延喜式」に国内随一の薬草の産地として記されている。特に「もぐさ」は有名で、和歌においても、藤原実方の「かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを」(後拾遺集・恋一)という『百人一首』にもとられて広く知られている歌をはじめ、『古今六帖』に「あぢきなや伊吹の山のさしも草おのが思ひに身をこがしつつ」「なほざりに伊吹の山のさしも草さしも思はぬことにやはあらぬ」などがあって、早くからその先蹤があったことが知られる。(後略)
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

さしもぐさ【艾草】

「させもぐさ」ともいった。「よもぎ(艾)」の異名。「もぐさ」の材料となった。『百人一首』にもとられている「かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを」(後拾遺集・恋一・実方)で有名になったが、すでに『古今六帖』に「あぢきなや伊吹の山のさしも草おのが思ひに身をこがしつつ」という歌があって、「伊吹山」がその産地として知られ、「もぐさ」の縁で「燃ゆる」「思ひ(「火」を掛ける)」「こがす」などをよみ込んで一つの典型を作ってしまっているのである。(後略)
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

○さしもぐさ
もぐさに用いる蓬(よもぎ)。ここまでは「さしも」を起す序詞(じょことば)。(『新日本古典文学大系 後拾遺和歌集』201ページ)
 

さしも知らじな

そう(わたしがあなたを恋している)とも知らないだろうな。(『新日本古典文学大系 後拾遺和歌集』201ページ)
 

さしも【然しも】

〘副〙《指示副詞サに、助詞シ・モのついたもの。疑問・反語・打消の意を伴うことが多い。→さも》
①そんな風にも。そんな事とも。それほどにも。「例は―覚えたまふ夜になむある」〈かげらふ下〉。「などかまた―あらむ」〈源氏行幸〉。「―知らじな燃ゆる思ひを」〈後拾遺六一二〉
 

燃ゆる思ひを

「燃ゆる」は「さしもぐさ」の縁語。「思ひ」に「火」を響かせる。(『新日本古典文学大系 後拾遺和歌集』201ページ)
 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。

-51~60番歌
-, , ,

執筆者:

小倉百人一首検索

▼テーマ別検索

全首一覧下の句決まり字
作者一覧六歌仙三十六歌仙
女性歌人恋の歌四季の歌

>>百人一首の読み上げ

>>五色百人一首一覧

▼初句検索

あきぜにぎりすはるぎて
あきたのこころてにはるよの
ぬればこころかたの
あさふのひとをひといさ
あさぼらけたびはひとをし
あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

和歌の語句・作者などを検索

おすすめ書籍

古文・古典文法の解説

  ➤ 文法基礎動詞
  ➤ 形容詞形容動詞
  ➤ 助詞助動詞
  ➤ 敬語参考書
  ➤ 古文単語単語帳


Sponsored Links


関連記事

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-57

百人一首の意味と文法解説(57)めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に雲隠れにし夜半の月かな┃紫式部

めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に雲がくれにし夜半の月かな Sponsored Link 小倉百人一首から、紫式部の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識につ …

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-56

百人一首の意味と文法解説(56)あらざらむこの世のほかの思ひ出に今ひとたびの逢ふこともがな┃和泉式部

あらざらむこの世のほかの思ひ出にいまひとたびのあふこともがな Sponsored Link 小倉百人一首から、和泉式部の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識に …

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-59

百人一首の意味と文法解説(59)やすらはで寝なましものを小夜ふけてかたぶくまでの月を見しかな┃赤染衛門

やすらはで寝なましものを小夜ふけてかたぶくまでの月を見しかな Sponsored Link 小倉百人一首から、赤染衛門の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識に …

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-54

百人一首の意味と文法解説(54)忘れじの行く末まではかたければ今日を限りの命ともがな┃儀同三司母

わすれじの行く末まではかたければけふをかぎりのいのちともがな Sponsored Link 小倉百人一首から、儀同三司母の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識 …

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-53

百人一首の意味と文法解説(53)嘆きつつひとり寝る夜の明くる間はいかにひさしきものとかはしる┃右大将道綱母

なげきつつひとりぬる夜の明くる間はいかに久しきものとかは知る Sponsored Link 小倉百人一首から、右大将道綱母の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知 …


運営者 : honda
都内の私立大学 文学部国文学専攻出身
お菓子メーカー勤務のサラリーマン
趣味は歌舞伎を見ること(2012年~)
古文や古典を楽しむ人が一人でも増えればよいなと考えながら情報発信しております。


       スポンサーリンク