81~90番歌

百人一首の意味と文法解説(87)むらさめの露もまだひぬまきの葉に霧たちのぼる秋の夕暮れ┃寂蓮法師

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-87

投稿日:2018年3月12日 更新日:

村雨の露もまだひぬ槙の葉に霧たちのぼる秋の夕暮れ

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小倉百人一首から、寂蓮法師の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

目次

原文

ogura-hyakunin-isshu-87

百人一首(87)むらさめの露もまだひぬまきの葉に霧たちのぼる秋の夕暮れ

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-87

百人一首(87)むらさめの露もまだひぬまきの葉に霧たちのぼる秋の夕暮れ

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

寂連法師
村雨の 露もまだひぬ 槙の葉に 霧たちのぼる 秋の夕暮れ
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-87

百人一首(87)むらさめの露もまだひぬまきの葉に霧たちのぼる秋の夕暮れ

現代語訳(歌意)・文法解説

※五十首歌を差しあげた時に、よんだ歌。

にわか雨の露も、まだかわかない真木の葉のあたりに、霧が立ちのぼる秋の夕暮れだ。

むらさめの露もまだひぬまきの葉に霧たちのぼる秋の夕暮れ

むらさめの露もまだひぬまきの葉に霧たちのぼる秋の夕暮れ

体言止め(たいげんどめ)。和歌を体言(名詞)でしめくくることを言います。「秋の夕暮れ」という名詞で終わります。

※「干る」は上一段動詞です。上一段動詞は種類が少ないので、「ひいきにみゐる上一段」とまとめて覚えます。

ひいきにみゐる上一段

ひいきにみゐる上一段

※「ぬ」は打消の助動詞で、未然形に接続します。未然形接続の助動詞はぜんぶで、「る・らる・す・さす・し・む・ず・じ・む・むず・まし・まほし・ふ・ゆ」の14種類です。助動詞については「古典の助動詞の活用表の覚え方」にまとめたのでご確認ください。
 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌がよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前に置かれます。

五十首歌たてまつりし時(※五十首歌を差しあげた時に、よんだ歌。)

※注
建仁(けんにん)元年(1201)二月、老若五十首歌合。

※詞書と注の引用は『新日本古典文学大系 新古今和歌集』(田中裕・赤瀬信吾、1992年、岩波書店、151ページ)によります。
 

むらさめ【村雨】

●むらさめ【村雨】
《叢雨の意》
俄かに激しく降って来る雨。
「庭草に―降りて蟋蟀(こほろぎ)の鳴く声聞けば秋づきにけり」〈万二一六〇〉

●むらさめ【群雨・村雨】

 にわかにたくさん降る雨。「庭草に村雨降りてこほろぎの鳴く声聞けば秋づきにけり」(万葉集・巻十)「村雨の露もまだひぬ槇の葉に霧立ちのぼる秋の夕暮」(新古今集・秋下・寂蓮、百人一首)などがその例である。
 「村雨」は秋のものであったが、初冬のものとして「群時雨(むらしぐれ)(村時雨)」がある。ややはげしく降りしきる時雨のことである。「旅寝する庵を過ぐる村時雨なごりまでこそ袖は濡れけれ」(千載集・羇旅・資忠)などの例がある。
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

ひぬ(干ぬ)

(※ハ行上一段活用「干(ひ)る」未然形 + 打消の助動詞「ず」連体形:「かわかない」の意)
 

まき【真木・柀・槇】

《マは接頭語》
檜・杉・松・槇など、堅いので建築に適する材をいう。「―立つ荒山道を石が根禁樹(さへき)おしなべ」〈万四五〉。「槇、万木(まき)」〈新撰字鏡〉。「柀、末木(まき)…又杉一名也」〈和名抄〉
 

きり【霧】

「秋霧」「朝霧」「薄霧」「川霧」「初霧」「初秋霧」「夕霧」などともよまれた。『万葉集』では「春山の霧に惑(まと)へる鶯も我にまさりて物思はぬや」(巻十)のように「春の霧」もあったが、平安時代になると、春は「霞」、秋は「霧」という分担がおおむね成り立ち、「霧立ちて雁ぞ鳴くなる片岡のあしたの原は紅葉しぬらむ」(古今集・秋下・読人不知)などというようによまれるのが一般的になった。(後略)
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

たち

た・ち【立ち】
〘四段〙
《自然界の現象や静止している事物の、上方・前方に向う動きが、はっきりと目に見える意。転じて、物が確実に位置を占めて存在する意》
➊自然界の現象が上方に向って動きを示し、確実にくっきりと目に見える。①(雲や霧などが)たちのぼる。「雲だにもしるくし―・たば何か嘆かむ」〈紀歌謡一一六〉。「君が行く海辺の宿に霧―・たば吾が立ち嘆く息と知りませ」〈万三五八〇〉
 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

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あきぜにぎりすはるぎて
あきたのこころてにはるよの
ぬればこころかたの
あさふのひとをひといさ
あさぼらけたびはひとをし
あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

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