古文の助詞は地味で見おとされやすい分野ですが、古典文法の中では助動詞と並んで最も重要な項目の一つです。助詞の種類を覚えておくと品詞分解もしやすくなるので、「助詞の知識はいらない」というのは間違いです。格助詞・接続助詞・副助詞・終助詞・係助詞・間投助詞、これらをきちんと覚える必要があります。しかし、「どこまで覚えるのか」「何を覚えるのか」よくわからない方も多いかと思いますので、ここで古典文法の助詞の覚え方を解説します。覚えるためのキーワードは音読です。
目次
古文の助詞の覚え方
今回、解説するのは「助詞(じょし)」です。教科書的な単語の分類は下の図のとおりです。
いまはこの表を覚える必要ありません。これから説明する内容が、古典文法全体のどの位置にあるのか、なんとなく知っていただくためにお見せしただけです。
さて、古文の助詞には種類が6つあります。
・格助詞(かくじょし)
・接続助詞(せつぞくじょし)
・副助詞(ふくじょし)
・終助詞(しゅうじょし)
・係助詞(けいじょし)
・間投助詞(かんとうじょし)
以上の6種類です。
助詞の覚え方は、とにかく音読することです。
音読すると五感が刺激されて、だまって読むよりも頭に入りやすくなります。声に出して読めば当然、口を動かしますし、自分の声を聞くことにより聴覚も刺激されます。それでも覚えられない場合は、手を動かして何度も書いてみると良いです。いろいろな刺激を脳に与えて記憶を定着させるのです。
力技に見えるかもしれませんが、基本的なことを覚えないと次に進めないので、だまされたと思ってためしてみてください。
それでは、それぞれの助詞をくわしく見てみましょう。
格助詞
まずは音読です。30回、声に出して言ってみましょう。
が・の・を・に・へ・と・より・にて・から・して
その中でも重要な格助詞を解説します。
格助詞「の」
意味はつぎの5つです。
①主格(しゅかく)
②連体修飾(れんたいしゅうしょく)
③同格(どうかく)
④体言(たいげん)の代用(だいよう)
⑤連用修飾(れんようしゅうしょく)
以上の5つです。それぞれをくわしく見てみましょう。
①主格
これは「が」と同じような使い方で、述語の主語を示します。ただし、「が」とちがう点があります。それは、使えるのは「○○の~する△△」という場合のみで、文の主語を示す時に使えないことです。以下に例を挙げます。例文は現代文ですが、古文でも同じです。
たとえば、「この中で車を持っている人はいますか?」ときかれて、「はい、わたしが持っています」と言うことはできるけれど、「わたしの持っています」と言うのは不自然だということです。
主格の「の」が使えるのは、「私の持っている車」というように、うしろに名詞がつづく場合です。これは「が」に言いかえることができますね。
②連体修飾
これは現代文と同じです。「父の車」「母の自転車」など、だれかが持っているものを表わすので、所有格(しょゆうかく)とも言います。
③同格
古文で出てくる特徴的な使い方なので、重要です。次のような形です。
名詞 + の + ~ + 連体形 + (名詞の省略) + 格助詞
訳す時は「~で…、」と訳します。
例文は下記のとおりです。百人一首の中の恵慶法師(えぎょうほうし)の和歌です。
八重むぐらしげれる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり
訳)
たくさんの雑草が生えている宿で、荒れはてているように感じられる宿に、人は見えないが、秋はやってきたのだ。
※歌のくわしい解説はこちらをご覧ください。
また、形容詞のまとめはこちらでご覧になれます。
④体言の代用
現代文と使い方は同じです。一度使われた名詞の代わりになる「の」です。
例)
わたしの車は赤い。君のは白い。
⑤連用修飾
古文で出てくる特徴的な使い方で、重要です。「~のように」と訳します。例文は百人一首の崇徳院(すとくいん)の和歌です。
瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ
訳)
川の浅いところは流れが速いので、岩にせき止められる急流が二つにわかれても最後には一つになるように、いつかは一緒になろうと思うのだ。
※歌のくわしい解説はこちらをご覧ください。
ちなみに、「瀬をはやみ」の形を「ミ語法」と言います。「名詞+を+形容詞の語幹+み」で「○○が……なので」と訳します。上の例の場合、「川の浅いところは流れが速いので」と訳します。百人一首には他にも「とまをあらみ(とまの編み目が粗いので)」や「かぜをいたみ(風がつよいので)」などの例があります。
以上で「の」の説明は終了です。格助詞は「の」をおさえればだいたいOKです。
格助詞一覧
接続助詞
格助詞と同じように、まずは音読です。30回、声に出して言ってみましょう。
で・ば・して・て・つつ・ながら・とも・と・に・を・が・ものの・ものから・ものを・ものゆゑ・ば・ど・ども
「ば」が2回出てくるのは、直前に来る動詞や形容詞の形によって意味が変わるためです。
さて、重要な接続助詞について見て行きましょう。
接続助詞「で」
打消(うちけし)の接続です。前の言葉を否定して、後ろの言葉につづいていきます。未然形に接続します。例文は百人一首の赤染衛門(あかぞめえもん)の和歌です。
やすらはで寝なましものを小夜ふけてかたぶくまでの月を見しかな
訳)
あなたが来ないと知っていたら、ためらわずに寝てしまったのだが。夜が更けて、西の空にかたむくほどの月を見てしまったことだ。
※歌のくわしい解説はこちらをご覧ください。
接続助詞「ば」
重要な文法知識です。
「ば」は直前の動詞や形容詞が未然形の場合と、已然形の場合で意味が変わります。未然形の場合は「~ならば」と仮定の意味を表わすのに対して、已然形の場合は、①「~なので」という原因を表わす使い方、②「~すると」という偶然条件を表わす使い方、③「~するといつも」という恒時条件を表わす使い方にわかれます。已然形の①~③のパターンの区別は、前後の文脈から判断します。
順接仮定条件
未然形+ば
「もし~ならば」
百人一首には式子内親王(しょくしないしんのう)の和歌の例があります。
玉の緒よ絶えなば絶えね長らへば忍ぶることの弱りもぞする
訳)
私の命よ、絶えてしまうならば絶えてしまえ。生き長らえていたら、胸の内に秘める力が弱まって、秘めていられなくなってしまうと困るから。
※くわしい解説はこちらをご覧ください。
順接確定条件
已然形+ば
①「~なので」(原因)
②「~すると」(偶然条件)
③「~するといつも」(恒時条件)
百人一首には権中納言敦忠(ごんちゅうなごん あつただ)の和歌の例があります。
逢ひ見ての後の心にくらぶれば昔はものを思はざりけり
訳)
あなたにお逢いして契りをむすんでから後の、恋しい心にくらべると、それ以前は何の物思いもしなかったと同じことだ。
接続助詞一覧
副助詞
副助詞は、だに・さへ・し・すら・のみ・ばかり・など・まで、です。
重要な副助詞を見ていきましょう。
副助詞「だに」
意味は、①類推「~さえ」と、②最小限の願望「せめて~だけでも」の2つです。
①類推
例)古今和歌集 春歌上・藤原言直(ふじわらのことなお)
春やとき花やおそきとききわかむ鶯だにも鳴かずもあるかな
訳)
春が来るのが早いのか、花が咲くのがおそいのか、声をきいて判断したいと思う、そのうぐいすさえも、まだ鳴かないことだ。
※「とき」は、速いことを意味する形容詞「とし」の連体形です。「仰げば尊し」の歌詞の中に「思えば、いと疾(と)し、この年月(としつき)」とありますが、この「とし」と同じ意味です。「思えば非常にはやかった。この年月は。」ということですね。
②最小限の願望
例)古今和歌集 冬歌・小野篁(おののたかむら)
花の色は雪にまじりて見えずとも香(か)をだににほへ人の知るべく
訳)
梅の花の色は雪にまじって見えないとしても、せめて香りだけでもにおわせておくれ、人にもわかるように。
副助詞「さへ」
「さへ」は、添加の意味「(…に加えて)~までも」の副助詞です。例文は百人一首の藤原義孝(ふじわらのよしたか)の和歌です。
例)
君がため惜しからざりし命さへながくもがなと思ひけるかな
訳)
あなたに会うために、惜しくはないと思った命までも、いまは長く生きていたいと思われることだ。
※歌のくわしい解説はこちらをご覧ください。
副助詞「し」
「し」「しも」の形で見られます。強意の副助詞ですが、あってもなくても意味が変わらないのが特徴です。例文は百人一首の中納言朝忠(ちゅうなごん あさただ)の和歌です。
例)
あふことのたえてしなくはなかなかに人をも身をもうらみざらまし
訳)
逢うということがこの世に絶えて、まったく無いならば、かえって、あなたに対しても自分に対しても、恨むことがないだろうに。
副助詞一覧
終助詞
30回、音読しましょう。
な・なむ・ばや・しか・てしか・にしか・てしかな・にしかな・かな・かもな・もが・もがも・もがな・がな・かし
この中から重要な終助詞について見ていきましょう。
終助詞「な」
禁止の終助詞です。現代語でも「~するな」と言いますよね。この「な」のことです。
しかし、古文の場合は「な」の位置が前のほうにある場合もあります。その場合は「そ」とセット、つまり「な~そ」の形で使われ、文末で使われる「な」よりもおだやかな禁止表現です。ただし、このときの「な」は副詞のあつかいで、「そ」が終助詞という分類になります。
例文は『竹取物語』です。かぐや姫のもとに月から使いの者がやってきて、早く天の羽衣を着て天に帰るようにせかしますが、かぐや姫は手紙を書きたいので、「おそい」と文句を言う使者にちょっと待ってほしいと言う場面です。
かぐや姫、「物知らぬこと、なのたまひそ」とて、いじみく静かに、朝廷(おほやけ)に御文(おんふみ)たてまつりたまふ。
訳)
かぐや姫は、「わからないことをおっしゃるな」と言って、たいへん静かに、天皇にお手紙を書き申しあげる。
けっして~するな
「な」が文末に来る禁止表現には、ほかの言葉とセットで使って禁止の意味をつよくする場合があります。
・あなかしこ~な
・ゆめゆめ~な
・ゆめ~な
例)
●平家物語・咸陽宮
この事あなかしこ、人に披露すな
訳)
このことは、決して他人に言いふらすな
●大和物語・139段
ゆめこの雪おとすな
訳)
けっしてこの雪をおとすな
終助詞「なむ」と「ばや」
・未然形+ばや 自分の願望(~したい)
・未然形+なむ 他者に対する願望(~してほしい)
なお、「なむ」の直前が連用形の場合、強意の助動詞「ぬ」未然形+推量の助動詞「む」終止形(あるいは連体形)で、「きっと~だろう」の意味となります。
終助詞一覧
係助詞
係助詞は、係り結びをおさえましょう。
また、「こそ+已然形」の後に文が切れずにつづく場合、逆説(~だが・~けれど)の意味になります。
「ぞ・なむ・や・か・連体(れんたい)、こそ・已然形(いぜんけい)」と30回、音読しましょう。
例文は百人一首の崇徳院(すとくいん)の和歌です。
瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ
訳)
川の浅いところは流れが速いので、岩にせき止められる急流が二つにわかれても最後には一つになるように、いつかは一緒になろうと思うのだ。
※歌のくわしい解説はこちらをご覧ください。
なお、係助詞「や」「か」の反語とは、後ろに否定の表現がかくれている使い方です。「~だろうか、いや、~でない」というように訳します。
反語の係助詞
反語の係助詞はほかにもあります。
「やは・かは・めや」です。
これも「やわ・かわ・めや・反語(はんご)」と30回音読しましょう。
例文は百人一首の右大将道綱母(うだいしょう みちつなのはは)
なげきつつひとりぬる夜の明くる間(ま)はいかに久しきものとかは知る
訳)
あなたが来ないのを嘆きながら、一人で寝る夜が明けるまでの間は、どれほど長いものなのか、あなたは知っているだろうか、いや、知らないだろう。
※くわしい歌の解説はこちらをご覧ください。
係り結びのない係助詞
係助詞の中には係り結びをともなわないものもあります。「は」と「も」です。どちらも「強意」の意味で、使い方は現代文と同じです。
係助詞一覧
間投助詞
さいごに間投助詞の解説です。
や・を・よ
以上の3つで、詠嘆(~な・~だよ・~だなあ)の意味です。あってもなくても意味が変わらないのが特徴です。
間投助詞一覧
実際に古文を読んで練習
くわしく説明したもの以外にも助詞にはそれぞれ意味があるので、文中で見つけた場合、そのたびに確認するようにしましょう。
古文が苦手な方はこちらの記事をチェック
古典が苦手な方はこちらの記事をご覧ください。
>> 古典文法の勉強法(基礎編)わかりやすい覚え方で用言の活用形から学ぶ
また、百人一首を品詞分解して現代語訳や文法解説をつけたページもございますので、勉強のテキストとしてぜひご利用ください。
>> 百人一首の現代語訳一覧(わかりやすい意味と解説で恋の歌も簡単に理解)
おすすめの参考書
この本は私が受験生時代に使っていた参考書です。助詞だけでなく、助動詞や動詞のわかりやすい解説がたくさんのっているのでおすすめです。
●参考文献
・『精選古典改訂版』北原保雄、平成21年、大修館書店
・『吉野の古典文法スーパー暗記帖』吉野敬介、2008年、学習研究社
・『新日本古典文学大系 古今和歌集』小島憲之・新井栄蔵、1989年、岩波書店
・『新編日本古典文学全集 竹取物語 伊勢物語 大和物語 平中物語』片桐洋一・高橋正治・福井貞助・清水好子、1994年、小学館
・『新編日本古典文学全集 平家物語』市古貞次、1994年、小学館