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百人一首の意味と文法解説(6)かささぎの渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞふけにける┃大伴家持

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-6

投稿日:2018年3月10日 更新日:

かささぎの渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞふけにける

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小倉百人一首から、大伴家持の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

原文

ogura-hyakunin-isshu-6

百人一首(6)かささぎの渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞふけにける


画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-6

百人一首(6)かささぎの渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞふけにける

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

中納言家持
かささぎの 渡せる橋に 置く霜の 白きを見れば 夜ぞふけにける
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-6

百人一首(6)かささぎの渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞふけにける

現代語訳(歌意)・文法解説

1.「鵲の渡せる橋」を「天の川(あまのがわ)」と解釈する場合

鵲(かささぎ)がつばさをならべてかけた橋、すなわち天の川に、霜が置いて白々とさえわたっているのを見ると、はやくも夜がふけたことだ。
 

2.「鵲の渡せる橋」を「宮中の御橋(みはし)」と解釈する場合

鵲が天の川につばさをならべてかけた橋ではないけれど、宮中の階(きざはし)に置いた霜が白いのを見ると、はやくも夜がふけたことだ。
 

鵲の渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞ更けにける

鵲の渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞ更けにける

※「渡せる」の「る」は存続完了の助動詞「り」の連体形です。接続は、サ行変格活用動詞の未然形と、四段活用動詞の已然形です。「さみしいリ(サ未四已)」と覚えます。

さみしい「リ」:存続・完了の「り」

さみしい「リ」:存続・完了の「り」

見分けるポイントは、直前が母音の「e(エ)」で終わっているかどうかです。「e(エ)」のうしろに「ら・り・る・れ」が続いていたら、存続・完了の助動詞「り」ではないか、と考えるようにします。

e + ら・り・る・れ:存続・完了

e + ら・り・る・れ:存続・完了

訳すときは、まず存続(~している)の意味でとります。それで意味が合わないと感じたら、完了(~した)の意味で訳します。

※「已然形 + ば」は、「~なので」「~すると」などと訳します。「見れば」は「見ると」と訳します。

順接確定条件

順接確定条件

※係助詞と係り結びについては「古典の助詞の覚え方」をご覧ください。
 

二通りの訳し方

「鵲の渡せる橋」の解釈によって、訳が二種類にわかれると思われます。

「鵲の渡せる橋」を、

1.「天の川(あまのがわ)」とする。
2.「宮中の御橋(みはし)」とする。

以上の二通りの解釈が考えられます。

『新日本古典文学大系 新古今和歌集』(田中裕・赤瀬信吾、1992、岩波書店、186ページ)は、(1)の「天の川」の解釈です。以下引用。

「かささぎの橋」に同じ。奥義抄・中は「天の河に鵲といふ鳥の羽をちがへて並び連りて橋となることのあるなり」と注し、八雲御抄五は「天河なり」とする。多くは七夕の場合であるが、夏冬にも天の川の意で詠む。源流はこの歌か。▽天の川の白々と見えるのを霜が置くと譬えたもの。

※『奥義抄』(おうぎしょう)…藤原清輔(ふじわらのきよすけ)(1104~1177年)が書いた歌学書(かがくしょ)。

※『八雲御抄』(やくもみしょう)…順徳天皇(じゅんとくてんのう)(1197~1242)が編纂した歌学書。

天の川は秋(旧暦7~9月)の景物(けいぶつ)なので、基本的に秋の歌によまれます。

月の異名:睦月・如月・弥生・卯月・皐月・水無月・文月・葉月・長月・神無月・霜月・師走

月の異名:睦月・如月・弥生・卯月・皐月・水無月・文月・葉月・長月・神無月・霜月・師走

そして、旧暦7月7日の夜、牽牛(けんぎゅう)(※彦星)と織女(しょくじょ)(※織姫)の二星があう時、かささぎが天の川の上につばさをならべて織女を渡すという故事があります。

したがって、「鵲の渡せる橋」はその故事をふまえた表現だととらえて、「天の川」と解釈するのが自然なのですが、この歌は『新古今和歌集』の冬の部立(ぶだて)に含まれています。

おそらく『新古今和歌集』の撰者(せんじゃ)(書物をまとめた人)は、主に冬の景物である「霜」に注目し、「霜」をよんだ歌だから冬の部立に入れたのではないかと考えられます。

『新古今和歌集』がつくられた頃(1205年)には、「鵲の渡せる橋」を「階(きざはし)」に見立てる表現がすでにありました。それは『大和物語』(やまとものがたり)です。

『大和物語』125段

●原文

泉(いづみ)の大将、故(こ)左(ひだり)のおほいどのにまうでたまへりけり。ほかにて酒などまゐり、酔(ゑ)ひて、夜いたくふけて、ゆくりもなくものしたまへり。大臣おどろきたまひて、「いづくにものしたまへるたよりにかあらむ」など聞えたまひて、御格子(みかうし)あげさわぐに、壬生忠岑(みぶのただみね)、御ともにあり。御階(みはし)のもとに、松ともしながらひざまづきて、御消息(せうそこ)申す。

「かささぎのわたせる橋の霜の上を夜半(よは)にふみわけことさらにこそ

となむのたまふ」と申す。あるじの大臣、いとあはれにをかしとおぼして、その夜(よ)、夜(よ)ひと夜(よ)、大御酒(おおみき)まゐり、遊びたまひて、大将も物かづき、忠岑も禄(ろく)たまはりなどしけり。(後略)

●現代語訳

泉の大将(藤原定国)が、故左大臣(藤原時平)のやしきに参上なさった。よそで酒などを召しあがり、酔って、夜おそくになってから、とつぜん参上なさった。左大臣はおどろきなさって、「どこにいらっしゃったついでなのでしょうか」などと申し上げなさって、御格子(みこうし)を上げるさわぎになったが、壬生忠岑が泉の大将のお供としてそこにいた。寝殿の階段の下に、たいまつをともしながらひざまずき、ごあいさつを申し上げる。

「寝殿の上に置いた霜を、この夜にふみわけて、わざわざうかがったので、よそへ行ったついでではございません。

と大将がおっしゃっております」と申し上げる。主人の左大臣は、大変しみじみとして面白いとお思いになって、その夜は一晩中、お酒を召しあがり、管弦の遊びをなさり、大将も贈り物をいただき、忠岑もご褒美をいただきなどした。(後略)

「かささぎの橋」は、『新編日本古典文学全集 竹取物語 伊勢物語 大和物語 平中物語』(片桐洋一・高橋正治・福井貞助・清水好子、1994年、小学館、345ページ)が示すとおり、「ここから、宮中や貴人の邸宅を天上になぞらえて、その階段をいうようになる」ので、『新古今和歌集』の撰者も『大和物語』のこの章段を念頭に置いて、家持のよんだ和歌を冬の部立に入れたのだと考えられます。
 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

かささぎ

●かささぎ
①【鵲】七夕の伝説で有名になった鳥。今のカチガラスという。「鵲、加佐佐木(かささぎ)」〈和名抄〉

●―のはし【鵲の橋】
①七夕の夜、牽牛(けんぎゅう)・織女の二星が逢う時、「かささぎ」(1)が翼を並べて天の河を渡すという想像上の橋。「天の河逢瀬に渡す―」〈詞花八五〉
②宮中を天上に見立て、その御階(はし)にいう。「鵲の渡せるはしに置く霜の」〈新古今六二〇〉

●かささぎ【鵲】

鳥の名。中国や朝鮮半島には多いが、わが国では九州地方に時々飛来するだけである。一見烏(からす)に似ているが、尾は長く胸や腹が白いのですぐわかる。奈良や京都では見られないので和歌によまれているのは漢詩文の影響によるものと見てよい。その中でも、陰暦七月七日の夜、牽牛(けんぎゅう)・織女の二星が逢う時、鵲が天の川の上に羽を並べて織女を渡すという故事は有名。「鵲の行合(ゆきあひ)の橋」(新勅撰集・秋上・師氏)「鵲の寄羽(よりは)の橋」(同・秋上・殷富門院大輔)「鵲の渡せる橋」(新古今集・冬・家持)「鵲の雲のかけはし」(同・秋下・寂蓮)などとよまれた。なお、『大和物語』一二五段に見える、禁中を天上に見立てて壬生忠岑がよんだ「鵲の渡せる橋の霜の上を夜半に踏み分けことさらにこそ」によって、「暮を待つ雲井のほどもおぼつかなふみみまほしき鵲の橋」(栄花物語・輝く藤壺)のように宮中の御階(みはし)を「鵲の橋」ということもあった。なお「笠鷺」は混同しやすいが別の鳥である。
歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

(※公益財団法人 日本野鳥の会でカササギの画像を見られます。)
 

作者:大伴家持(おおとものやかもち)について

現在編集中につき、しばらくお待ちください。
 

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みての つゆに ばやな
あふとの みのえの のくの
あまかぜ をはやみ しのの
あまはら さごの らさめの
あららむ のおとは ぐりあひて
あらふく のうらに しきや
ありけの わかれ ともに
ありやま のをよ らはで
しへの をかも むぐら
いまむと ちぎりきし やまはに
いまただ ちぎり やまとは
りける やぶる されば
みわび みれば のとを
やまに ばねの よのなか
にきく ながらむ よのなか
おほやま ながへば すがら
おほなく なげつつ こめて
ひわび なげとて わがほは
とだに のよは わがでは
さぎの なにおはば わするる
かぜよぐ なには わすじの
かぜいたみ なには わたのはら
きみがため はなそふ わたのはら
きみがため はないろは ぬれば
らやま

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都内の私立大学 文学部国文学専攻出身
お菓子メーカー勤務のサラリーマン
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