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古文の助動詞「す・さす・しむ」の意味や活用、見分け方を例文つきで解説

古文の助動詞「す・さす・しむ」の意味や活用、見分け方を例文つきで解説

投稿日:2021年2月7日 更新日:

古文の助動詞の「す」「さす」「しむ」には、使役・尊敬の2つの用法があると解説されますが、「見分け方が難しい」「使い分けがわからない」という声はよく聞かれます。

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そこで、今回は、古典の「す」「さす」「しむ」の意味と判別方法、活用、接続などを、例文と現代語訳をまじえながら解説します。

【POINT】

  • 基本的には使役の助動詞と考える
  • 「せ給ふ」「させ給ふ」「しめ給ふ」の形で最高敬語(※いわゆる二重敬語)を表す場合がある
  • 最高敬語が使われるのは天皇・后のみ
  • 「散らす」「着す」「見す」などは一つの動詞

 

「す・さす・しむ」の活用

下二段型(下二段動詞と同じ)

基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
する すれ せよ
さす させ させ さす さする さすれ させよ
しむ しめ しめ しむ しむる しむれ しめよ

 

「す・さす・しむ」の接続

す  四段・ナ変・ラ変の未然形
さす 四段・ナ変・ラ変以外の未然形
しむ 未然形

 

「す・さす・しむ」の意味

  • 使役しえき「~せる・~させる」
  • 尊敬そんけい最高さいこう敬語けいご)「お~になる・~なさる」 ※「せたまふ」「させたまふ」「しめたまふ」の形で最高敬語を表す

 

①使役(しえき)「~せる・~させる」

「す」「さす」「しむ」の前に、使役される動作主(多くの場合「に」で示される)がある、または補える場合、使役の意味と解釈します。

【例】竹取物語・石上の中納言と燕の子安貝
中納言ちゅうなごんは、わらげたるわざしてむことを、人聞かじとしたまけれど、
す・さす・しむ_使役_人に聞かせじ
(訳)中納言は、子供じみたことをして、かぐや姫への求婚の結末がついたことを、「人に聞かせまい」とされたが、

 

②尊敬(そんけい)「お~になる・~なさる」 ※最高敬語

「す」「さす」「しむ」に尊敬の補助動詞「給ふ」が付いて「せ給ふ」「させ給ふ」「しめ給ふ」の形となる場合は、最高敬語と解釈する場合があります。この時の「す」「さす」「しむ」は尊敬の意味です。

この最高敬語が使われる人物は、天皇やその后に限定されます。

『源氏物語』中に、あれほど素晴らしい人だと絶賛されている紫上でも、最高敬語で遇されるわけではない。光源氏に対しても、大将昇進以前は一切「せ給ふ」が使われない。ここからは、中古(※平安)文学作品における敬語が、人物の身分によってかなり機械的に付与されている実態が浮かび上がってくる。
(※『実例詳解 古典文法総覧』小田勝、和泉書院、2015年、558ページ)

 

【例】源氏物語・桐壺
まどろまたまふことかたし。
す・さす・しむ_尊敬(最高敬語)_まどろませたまふこと
(訳)(帝は)うとうととお眠りになることもおできにならない。

 
「せ給ふ」「させ給ふ」「しめ給ふ」は必ず最高敬語となるわけではなく、前述のように、使役される動作主(多くの場合「に」で示される)がある、または補える場合、使役の意味と解釈します。

【例】伊勢物語・78段「山科の宮」
これをただちにたてまつらばすずろなるべしとて、人々歌よまたまふ。
す・さす・しむ_使役の「せたまふ」_人々に歌よませたまふ
(訳)(藤原常行は)「これを何の工夫もなく差し上げたらつまらないだろう」とお思いになり、人々に歌をお詠ませになる。

 

「す・さす・しむ」の使役と尊敬の識別

古文の助動詞「す・さす・しむ」の使役と尊敬の識別

中古(平安時代)では、尊敬の「す」「さす」「しむ」が、尊敬の補助動詞「給ふ」を伴わずに単独で使われることはありません。

そのため、基本的に、「す」「さす」「しむ」の後ろに「給ふ」がなければ、使役と解釈します。

そして、「す」「さす」「しむ」の後ろに「給ふ」がある場合でも、使役される動作主(多くの場合「に」で示される)がある、または補える場合、使役の意味と解釈します。

 

「す・さす」と「しむ」の違い

「す・さす」は和文、「しむ」は漢文や和漢わかん混淆こんこうぶんで使われます。

「しむ」は上代(※奈良時代)に使役の助動詞として用いられたもので、中古(※平安時代)和文ではほとんど用いられない。しかし「しむ」は漢文訓読文に残り、中世の和漢混淆文で再び用いられるようになった。
(※『実例詳解 古典文法総覧』小田勝、和泉書院、2015年、112ページ)

また、「す」と「さす」では接続が異なります。「す」は四段・ナ変・ラ変の未然形(アの音で終わるもの)に付き、「さす」は四段・ナ変・ラ変以外の未然形(ア以外の音で終わるもの)に付きます。

 

奉らす・聞こえさす・参らす

謙譲語は、動作の目的語に敬意をはらいます。以下の3つは謙譲語です。

  • 奉る(たてまつる) …… 「差し上げる」「~申し上げる」
  • 聞こゆ(きこゆ) …… 「申し上げる」「差し上げる」「~申し上げる」
  • 参る(まる) …… 「して差し上げる」「奉仕する」

この3つの語に、「す」「さす」を付け、より強い敬意をはらう表現となるのが、「奉らす」「聞こえさす」「参らす」です。これらは一般的に、1語の動詞として扱います。

  • 奉らす(たてまつらす) …… 「差し上げる」
  • 聞こえさす(きこえさす) …… 「申し上げる」「差し上げる」「~申し上げる」
  • 参らす(まらす) …… 「差し上げる」「~申し上げる」
【例】源氏物語・賢木
みかども、いと悲しとおぼして、さらに違へたがえきこえさすまじきよしを、かへすがへす聞こえさせたまふ。
す・さす・しむ_きこえさす_違へきこえさす
す・さす・しむ_きこえさす_聞こえさせたまふ
(訳)帝(朱雀帝すざくてい)も、たいへん悲しいと思われて、けっしてご遺言に背き申し上げぬことを、(桐壺院きりつぼいんに)繰り返し繰り返し、お答え申し上げなさる。

 
ただし、使役の意味の場合は、2語(動詞+助動詞)として扱います。

【例】竹取物語・かぐや姫、帝の召しに応ぜず昇天す
壺の薬そへて、頭中将とうのちゆうじやう呼び寄せて奉ら
す・さす・しむ_たてまつらす_頭中将に奉らす
(訳)(かぐや姫はその手紙に)壺に入っている不死の薬を添えて、頭中将を呼び寄せて、帝に献上させる。

 

「習はす・散らす・悩ます・驚かす・着す・見す」は一語の動詞

以下のような「す」は四段活用動詞の一部と解釈されます。使役の助動詞と解釈することはありません。

  • 習はす(ならす) …… 「習わせる」「学ばせる」
  • 散らす(ちらす) …… 「ちりぢりにする」
  • 悩ます(なやます) …… 「悩ませる」「困らせる」
  • 驚かす(おどろかす) …… 「はっとさせる」「起こす」

同様に、以下のような「す」は下二段活用動詞の一部と解釈されます。こちらも使役の助動詞と解釈することはありません。

  • 着す(きす) …… 「着せる」
  • 見す(みす) …… 「見せる」
【例】竹取物語・かぐや姫、帝の召しに応ぜず昇天す
ふとあま羽衣はごろもうち着せたてまつりつれば、
す・さす・しむ_着す_天の羽衣うち着せたてまつり
(訳)(天人がかぐや姫に)さっと天の羽衣を着せて差し上げると、

 
「着る」は上一段動詞なので、もしもこれに使役の助動詞を付けるとすれば、「さす」(※四段・ナ変・ラ変以外の未然形に接続)が適当です。すると、「着さす」「着させたてまつり」となるはずですが、竹取物語の用例では「着せたてまつり」の形なので、下二段動詞「着す」一語に「たてまつる」が付いたと解釈するのが適当と考えられます(※「うち」は接頭語)。

※「着す」の活用

基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
きす する すれ せよ

※「着る」の活用

基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
きる きる きる きれ きよ

 
>>上一段活用の覚え方 – ひいきにみゐる(ひいきにみいる)で覚える古文の動詞

>>古文の敬語の覚え方 – 一覧で種類や対象を確認するのが見分け方の基本

 
※参考文献
・『実例詳解 古典文法総覧』小田勝、和泉書院、2015年


 
・『改訂増補 古文解釈のための国文法入門』松尾聰、筑摩書房(ちくま学芸文庫)、2019年


 
・『吉野式古典文法スーパー暗記帖 完璧バージョン』吉野敬介、学研プラス、2014年


 
※本文引用
・『新編日本古典文学全集 (12) 竹取物語 伊勢物語 大和物語 平中物語』片桐洋一・高橋正治・福井貞助・清水好子、小学館、1994年
・『新編日本古典文学全集 源氏物語』阿部秋生・今井源衛・秋山虔・鈴木日出男、小学館、1994年

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