91~100番歌

百人一首の意味と文法解説(98)風そよぐならの小川の夕暮れはみそぎぞ夏のしるしなりける┃従二位家隆

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-98

投稿日:2018年3月12日 更新日:

風そよぐ楢の小川の夕暮れはみそぎぞ夏のしるしなりける

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小倉百人一首から、従二位家隆の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

目次

原文

ogura-hyakunin-isshu-98

百人一首(98)風そよぐならの小川の夕暮れはみそぎぞ夏のしるしなりける

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-98

百人一首(98)風そよぐならの小川の夕暮れはみそぎぞ夏のしるしなりける

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

正三位(従二位)家隆
風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-98

百人一首(98)風そよぐならの小川の夕暮れはみそぎぞ夏のしるしなりける

現代語訳(歌意)・文法解説

※寛喜(かんぎ)元年(1229)、女御(にょうご)が入内(じゅだい)するときの屏風歌。

風が吹いてそよそよと楢(なら)の葉が鳴る、楢の小川(上賀茂神社の小川)の夕暮れは涼しくて、夏を忘れるほどだけれど、みそぎが行われているのが夏の証拠であることだ。

風そよぐ楢の小川の夕暮れはみそぎぞ夏のしるしなりける

風そよぐ楢の小川の夕暮れはみそぎぞ夏のしるしなりける

※係助詞「ぞ」は連体形で結びます。係り結びは「ぞ・なむ・や・か=連体、こそ=已然形」とまとめて覚えます。

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ

※過去の助動詞「けり」が和歌の中で使われる場合は基本的に、詠嘆(えいたん)(~だなあ・~ことだ)の意味で訳します。

 

本歌

本歌「みそぎするならの小河の河風に祈りぞわたる下に絶えじと」(新古今・恋五・八代女王)。(『和歌文学大系 新勅撰和歌集』中川博夫、2005年、明治書院、41ページ)

参考「夏山の楢の葉そよぐ夕暮は今年も秋の心地こそすれ」(後拾遺・夏・頼綱)(『和歌文学大系 新勅撰和歌集』41ページ)

▽「風そよぐ楢(なら)」と詠み出す形は平安末から新古今時代に、「風そよぐ楢の葉陰(はかげ)の苔筵(こけむしろ)夏を忘るるまとゐをぞする」(教長集・納涼の心を)を初め「風そよぐ楢の木陰(こかげ)のゆふ涼み涼しくもゆる蛍(ほたる)なりけり」(秋篠月清集(※藤原良経撰)・夏・蛍)等、参考の頼綱歌の影響下に納涼の趣(おもむき)で少しく詠まれている。この歌もその流れの中にある。(『和歌文学大系 新勅撰和歌集』283ページ)
 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌がよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前に置かれます。

寛喜元年、女御入内屏風(※寛喜(かんぎ)元年(1229)、女御が入内するときの屏風歌。)

※詞書の引用は『和歌文学大系 新勅撰和歌集』(41ページ)によります。
 

楢の小川

山城。上賀茂神社(かみがもじんじゃ)の御手洗川(みたらしがわ)の一名。(『和歌文学大系 新勅撰和歌集』41ページ)

※参考:京都観光Navi「明神川」→ https://kanko.city.kyoto.lg.jp/detail.php?InforKindCode=4&ManageCode=7000059
 

なら

●なら【楢】
ブナ科の落葉喬木。イチイやシイなどを含めてよぶこともある。「―の葉の名に負ふ宮の」〈古今九九七〉。「楢、奈良(なら)、堅木也」〈和名抄〉
 

みそぎ

●みそ・ぎ【禊ぎ】
二〘名〙【潔身】
身の罪やけがれを、川や海の水につかって洗いすてること。多く三月三日の行事としておこない、また除服の際におこなう。「清き河原に―して」〈万二四〇三〉。「やよひのついたちに出で来たる巳(み)の日、『今日なむ、かく思す事ある人は、―し給ふべき』と」〈源氏須磨〉

●なごしのはらへ【夏越祓】
六月の終わりに、四、五、六月の夏の間に体についた穢れを祓(はら)うこと。「夏祓へ」ともいった。祓いの方法としては、①水辺に出て禊(みそ)ぎをし水によって穢れを取ったり、②河社(かわやしろ)を設けて斎串(いぐし)を立て、人形や麻の大幣(おおぬさ)にみずからの穢れを移したり、③茅(ち)の輪をくぐり抜けたりした。「水無月の夏越の祓へする人は千歳(ちとせ)の命延ぶといふなり」(古今六帖・第一)、「清き瀬に夏越の祓へしつるより八百万代は神のまにまに」(和泉式部集)など例は多い。
 

しるし

●しる・し【徴し・標し・記し・銘し】
二〘名〙
《ありありと現われ出て、他とまがう余地のないもの》
①前兆。「剣太刀身に取り副(そ)ふと夢に見つ何の―そも君に逢はむ為」〈万六〇四〉。「古へゆ無かりし―(吉祥)度(たび)まねく申したまひぬ」〈万四二五四〉
④証拠。「永き世に―にせむと、遠き世に語り継がむと」〈万一八〇九〉
 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

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あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

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