71~80番歌

百人一首の意味と文法解説(75)契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋もいぬめり┃藤原基俊

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-75

投稿日:2018年3月12日 更新日:

契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋も往ぬめり

小倉百人一首から、藤原基俊の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

Sponsored Link

原文

ogura-hyakunin-isshu-75

百人一首(75)契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋もいぬめり

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-75

百人一首(75)契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋もいぬめり

Sponsored Link

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

藤原基俊
契りおきし させもが露を 命にて あはれ今年の 秋もいぬめり
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-75

百人一首(75)契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋もいぬめり

現代語訳(歌意)・文法解説

※作者が、自分の子供の律師(りっし)光覚(こうかく/こうがく)を維摩会(ゆいまえ)の講師(こうじ)に任命してほしいと申しあげたが、何度も人選に漏れてしまったので、藤原忠通(ふじわらのただみち)に恨み言を申しあげたところ、忠通は「しめぢの原の」という歌で返して期待させていたのだけれど(※後述)、ふたたびその年も光覚は人選に漏れてしまったので、作者がよんで、使者に持たせて送った歌。

お約束くださったお言葉、させも草の露のようにはかない言葉をたよりに、命長らえましたが、願いがかなうこともなく、ああ今年の秋も去って行くようです。

契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋もいぬめり

契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋もいぬめり

※「いぬ(去ぬ/往ぬ)」はナ変動詞です。変格活用の動詞は種類が少ないです。動詞の解説は「古文の動詞の活用と覚え方」をご覧ください。

※「めり」は視覚的な推量を意味する助動詞です。いっぽう、「なり」は聴覚的な推量を意味する助動詞です(例:「衣うつなり」)。
 

Sponsored Link

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌がよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前に置かれます。

律師(りっし)光覚維摩会(ゆいまゑ)の講師の請を申(まうし)けるを、度々(たびたび)洩(も)れにければ、法性寺入道前太政大臣に恨み申けるを、しめぢの原のと侍(はべ)りけれども、又その年も洩れにければ、よみてつかはしける

※詞書の訳
作者が、自分の子供の律師光覚(こうかく/こうがく)を維摩会(ゆいまえ)の講師(こうじ)に任命してほしいと申しあげたが、何度も人選に漏れてしまったので、藤原忠通(ふじわらのただみち)に恨み言を申しあげたところ、忠通は「しめぢの原の」という歌で返して期待させていたのだけれど、ふたたびその年も光覚は人選に漏れてしまったので、作者がよんで、使者に持たせて送った歌。

※注
○律師光覚 作者の子。興福寺僧。
○維摩会 興福寺の維摩経講読の法会。十月十日から一週間行われる。この歌「九月尽日惜秋之志詩進殿下」(基俊集)と注あり。
○法性寺入道前関白太政大臣 藤原忠通
○しめぢの原の 「なほ頼めしめぢが原のさしも草我世の中にあらむ限りは」(袋草紙・清水寺観音)に拠った忠通の回答。

※詞書本文と注の引用は『新日本古典文学大系 千載和歌集』(片野達郎・松野陽一、1993年、岩波書店、307ページ)によります。
 

藤原忠通が回答として贈った歌(新古今集)

なほ頼(たの)めしめぢが原(はら)のさしも草(ぐさ)わが世の中にあらむかぎりは(新古今和歌集・釈教歌・1916)

※訳
そのまま私を頼みにしつづけなさい。しめじが原のさせも草のように、胸を焦がすように思い悩むことがあっても、私がこの世にいるかぎりは(望みが叶うこともあるでしょう)。

※注
○なを頼め 「ただ頼め」とも伝承された(沙石集五本)。
○しめぢが原 下野国(しもつけのくに)(※いまの栃木県)の歌枕。させも草の名所。
○させも草 艾(もぐさ)。「さしも草」(前田本ほか)。後世、この歌から「一切衆生」「人間」をあらわす語とされた。
▽袋草紙に、「もの思ひける女の、はかばかしかるまじくは(願いを聞き届けてもらえないようなら)、死なむと申しけるに、示しける」と伝える。

歌と注の引用は『新日本古典文学大系 新古今和歌集』(田中裕・赤瀬信吾、1992年、岩波書店、559ページ)によります。
 

させも

「させもぐさ」の略。「ちぎり置きし―が露を命にてあはれ今年の秋も去ぬめり」〈千載一〇二三〉

●―ぐさ【指焼草・指艾】
「さしもぐさ」の転。「思ひだにかからぬ山の―誰かいぶきのさとはつげしぞ」〈枕三一八〉

●さしもぐさ【艾草】

「させもぐさ」ともいった。「よもぎ(艾)」の異名。「もぐさ」の材料となった。『百人一首』にもとられている「かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを」(後拾遺集・恋一・実方)で有名になったが、すでに『古今六帖』に「あぢきなや伊吹の山のさしも草おのが思ひに身をこがしつつ」という歌があって、「伊吹山」がその産地として知られ、「もぐさ」の縁で「燃ゆる」「思ひ(「火」を掛ける)」「こがす」などをよみ込んで一つの典型を作ってしまっているのである。なお、『新古今集』の釈教歌「なほたのめしめぢが原のさせも草わが世の中にあらむ限りは」を清水観音が、「させも草」に対して衆生済度の誓いを述べた歌として伝承し、「させも草」すなわち「衆生」と解していたために、『日葡辞書』などは「させも草」すなわち「人間」という解を記しているのである。
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

いぬ

い・に【往に・去に】
〘ナ変〙
①その場から消えて行ってしまう。「鶯(うぐひす)そ鳴きて―・ぬなる梅が下枝に」〈万八二七〉。「家刀自…〔男ニ〕つきて人の国へ―・にけり」〈伊勢六〇〉
 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。

Sponsored Link

-71~80番歌
-, , ,

執筆者:

小倉百人一首検索

▼テーマ別検索

全首一覧下の句決まり字
作者一覧六歌仙三十六歌仙
女性歌人恋の歌四季の歌

>>百人一首の読み上げ

>>五色百人一首一覧

▼初句検索

あきぜにぎりすはるぎて
あきたのこころてにはるよの
ぬればこころかたの
あさふのひとをひといさ
あさぼらけたびはひとをし
あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

和歌の語句・作者などを検索

おすすめ書籍

古文・古典文法の解説

  ➤ 文法基礎動詞
  ➤ 形容詞形容動詞
  ➤ 助詞助動詞
  ➤ 敬語参考書
  ➤ 古文単語単語帳


Sponsored Link


関連記事

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-77

百人一首の意味と文法解説(77)瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ┃崇徳院

瀬を早み岩にせかるる滝川のわれてもすゑに逢はむとぞ思ふ 小倉百人一首から、崇徳院の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。 ▼ 現代語訳・文 …

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-71

百人一首の意味と文法解説(71)夕されば門田の稲葉おとづれて葦のまろやに秋風ぞ吹く┃大納言経信

ゆふされば門田の稲葉おとづれて葦のまろやに秋風ぞ吹く 小倉百人一首から、大納言経信の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。 ▼ 現代語訳・ …

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-76

百人一首の意味と文法解説(76)わたのはら漕ぎ出でて見ればひさかたの雲居にまがふ沖つ白波┃法性寺入道前関白太政大臣

わたの原漕ぎ出でて見ればひさかたの雲居に紛ふ沖つ白波 小倉百人一首から、法性寺入道前関白太政大臣(ほっしょうじにゅうどうさきのかんぱくだいじょうだいじん)(藤原忠通)の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて …

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-79

百人一首の意味と文法解説(79)秋風にたなびく雲の絶え間よりもれ出づる月の影のさやけさ┃左京大夫顕輔

秋風にたなびく雲の絶え間より漏れ出づる月の影のさやけさ 小倉百人一首から、左京大夫顕輔の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。 ▼ 現代語 …

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-78

百人一首の意味と文法解説(78)淡路島通ふ千鳥の鳴く声に幾夜ねざめぬ須磨の関守┃源兼昌

淡路島かよふ千鳥の鳴く声にいく夜ねざめぬ須磨の関守 小倉百人一首から、源兼昌の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。 ▼ 現代語訳・文法解 …


運営者 : honda
都内の私立大学 文学部国文学専攻出身
お菓子メーカー勤務のサラリーマン
趣味は歌舞伎を見ること(2012年~)
古文や古典を楽しむ人が一人でも増えればよいなと考えながら情報発信しております。
その他、趣味で始めたプログラミングに関することや、通信制大学(放送大学)、各種資格試験の体験談などについても、記事にまとめております。


Sponsored Link