61~70番歌

百人一首の意味と文法解説(63)今はただ思ひ絶えなむとばかりを人づてならで言ふよしもがな┃左京大夫道雅

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-63

投稿日:2018年3月12日 更新日:

今はただ思ひ絶えなむとばかりを人づてならで言ふよしもがな

小倉百人一首から、左京大夫道雅の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

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原文

ogura-hyakunin-isshu-63

百人一首(63)今はただ思ひ絶えなむとばかりを人づてならで言ふよしもがな

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-63

百人一首(63)今はただ思ひ絶えなむとばかりを人づてならで言ふよしもがな

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釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

左京大夫道雅
今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで 言ふよしもがな
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-63

百人一首(63)今はただ思ひ絶えなむとばかりを人づてならで言ふよしもがな

現代語訳(歌意)・文法解説

※前斎宮(さきのさいぐう)当子内親王(とうしないしんのう)のもとに、人目をしのんで通っていたことを、帝(みかど)もお聞きになって、内親王に守り役などをお付けになり、歌の作者は内親王のもとへ隠れて通うこともできなくなったので、よみました歌。

逢っていただけない今となっては、「あなたに対する思いもきっと途切れさせてしまいましょう」とだけ、人づてではなく、直接お目にかかって言う方法があればなあ。

今はただ思ひ絶えなむとばかりを人づてならで言ふよしもがな

今はただ思ひ絶えなむとばかりを人づてならで言ふよしもがな

※「もがな」は願望の終助詞(~だったら良いなあ)の意味を表します。「もが・もがも・もがな・がな」は同じ意味の終助詞です(例:「常にもがもな」・「逢ふこともがな」・「ながくもがな」・「命ともがな」・「くるよしもがな」など)。助詞の解説は「古典の助詞の覚え方」をご覧ください。
 

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語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌がよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前につけられます。

伊勢(いせ)の斎宮(さいぐう)わたりよりのぼりて侍りける人に忍(しの)びて通(かよ)ひけることをおほやけも聞(きこ)しめして、守(まも)り女(め)など付けさせ給ひて、忍びにも通はずなりにければ、よみ侍(はべ)りける

※詞書の訳
前斎宮(さきのさいぐう)当子内親王(とうしないしんのう)のもとに、人目をしのんで通っていたことを、帝(みかど)もお聞きになって、内親王に守り役などをお付けになり、歌の作者は内親王のもとへ隠れて通うこともできなくなったので、よみました歌。

※注
○伊勢の斎宮わたりよりのぼりて侍りける人 前斎宮当子内親王。三条院の皇女。長和(ちょうわ)元年(1012)十二月斎宮(さいぐう)に卜定(ぼくじょう)され、同五年父天皇の譲位に伴って退下、九月帰京した。その後道雅との事が世評にのぼるようになった。栄花物語(えいがものがたり)・玉の村菊に詳しい。治安(じあん)二年(1022)九月十二日没、二十三歳。

※詞書本文と注の引用は『新日本古典文学大系 後拾遺和歌集』(久保田淳・平田喜信、1994年、岩波書店、244ページ)によります。
 

思ひたえなん

断念しよう。「あやしくもいとふにはゆる心かないかにしてかは思ひ絶ゆべき」(拾遺・恋五・よみ人しらず)。(『新日本古典文学大系 後拾遺和歌集』244ページ)
 

絶ゆ

●た・え
〘下二〙
①中途で切れる。「設弦(うさゆづる)―・えば継がむを」〈紀歌謡四六〉。「草枕旅の丸寝の紐―・えば」〈万四四二〇〉
 

なむ

(※強意の助動詞「ぬ」未然形+意志の助動詞「む」終止形。「きっと〜しよう」の意。)
 

ばかり

(※だけ)
 

ひとづて【人伝て】

他人を通してことばなどを伝えること。「この御文を―ならで奉れ」〈源氏夢浮橋〉

○人づてならで
他人を介さず。直接。「いかにしてかく思ふてふことをだに人づてならで君に語らん」(後撰・恋五・藤原敦忠)。
 

なら

(※断定の助動詞「なり」未然形)
 

(※〜ないで)
 

よし【由】

①口実。かこつけ。「妹が門(かど)行き過ぎかねつひさかたの雨も降らぬか其(そ)を―にせむ」〈万二六八五〉
③手がかり。手段。「うつつには逢ふ―も無しぬばたまの夜の夢にを継ぎて見えこそ」〈万八〇七〉。「をちこちの磯の中なる白玉を人に知られず見む―もがも」〈万一三〇〇〉
 

もがな

〘助〙《奈良時代のモガモの転。終助詞のモは平安時代にナに代られるのが一般であった》
①…が欲しい。「ながらへて君が八千代に逢ふよし―」〈古今三四七〉
②…でありたい。「世の中にさらぬ別れの無く―千代とも嘆く人の子の為」〈古今九〇一〉
 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。

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あきたのこころてにはるよの
ぬればこころかたの
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あさぼらけたびはひとをし
あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

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