91~100番歌

百人一首の意味と文法解説(91)きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかも寝む┃後京極摂政前太政大臣

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-91

投稿日:2018年3月12日 更新日:

きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣片敷きひとりかも寝む

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小倉百人一首から、後京極摂政前太政大臣の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

目次

原文

ogura-hyakunin-isshu-91

百人一首(91)きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかも寝む

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-91

百人一首(91)きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかも寝む

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

後京極摂政前太政大臣
きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣かたしき ひとりかも寝む
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-91

百人一首(91)きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかも寝む

現代語訳(歌意)・文法解説

※百首歌を差しあげたとき、よんだ歌。

こおろぎが鳴く霜の降りる寒い夜の、むしろの上に自分の片袖だけ敷いて、私はただひとり寝るのだろうか。

きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかも寝む

きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかも寝む

※係助詞「か」は連体形で結びます。係り結びは「ぞ・なむ・や・か=連体、こそ=已然形」とまとめて覚えます。

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ

本歌は『伊勢物語』63段

※『新日本古典文学大系 新古今和歌集』(田中裕・赤瀬信吾、1992年、岩波書店、158ページ)によれば、本歌(ほんか)は、『伊勢物語』63段の「さむしろに衣かたしき今宵もや恋しき人にあはでのみ寝む(※敷物の上に衣の片袖を敷いて、今晩も、恋しい人に逢わないでひとり寝をするばかりなのでしょうか)」という。『伊勢物語』の引用は、『新編日本古典文学全集』(片桐洋一・高橋正治・福井貞助・清水好子、1994年、小学館、165ページ)によります。
 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌のよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前に置かれます。

百首歌たてまつりし時(※百首歌を差しあげたとき、よんだ歌。)

※注
正治(しょうじ)二年(1200)院初度百首。

※詞書本文と注の引用は『新日本古典文学大系 新古今和歌集』(158ページ)によります。
 

きりぎりす

●きりぎりす【蟋蟀】
秋虫の一。今のコオロギ。「秋風にほころびぬらしふぢばかまつづりさせてふ―鳴く」〈古今一〇二〇〉。〈新撰字鏡〉

●きりぎりす【蟋蟀】

今のこおろぎを「きりぎりす」といい、今のきりぎりすを「こおろぎ」といったとする説もあるが、不可。『和名抄』に「蟋蟀」の和名を「木里木里須(キリキリス)」とし、「蜻蛚」の和名を「古保呂木(コホロキ)」としているが、中国においては「蟋蟀」と「蜻蛚」は同じもの、つまり同物異名、いずれも今のこおろぎのことであり、今のきりぎりすを「こおろぎ」といった例は知られないからである。(後略)
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

さむしろ

「さ筵」と「寒し」と掛詞(かけことば)。(『新日本古典文学大系 新古今和歌集』158ページ)

●さむしろ【狭筵】
幅のせまい筵、または短い筵。「―五十八枚」〈延喜式掃部寮〉。「―に衣片敷き今宵もや我を待つらむ宇治の橋姫」〈古今六八九〉。

●むしろ【筵・蓆・席】
①藺(い)・蒲(がま)・藁(わら)・竹などで編んだ敷物。また、敷物一般。「稲―敷きても君を見むよしもがも」〈万二六四三〉。「雨のもりければ、―をもひきかへすとて」〈大和八三〉。「精進せむとて上(うは)―、ただの―のきよきに敷きかへさすれば」〈かげろふ中〉

●さむしろ【狭筵】

本来は幅のせまいむしろをいったが、和歌に用いる場合は「さ」は接頭語的になり、「むしろ」の歌語になりきっている。「さむしろに衣片敷き今宵もや我を待つらむ宇治の橋姫」(古今集・恋四・読人不知)が有名であったので「さむしろに思ひこそやれ笹の葉にさゆる霜夜の鴛鴦(をし)のひとり寝」(金葉集・冬・顕季)「きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかも寝む」(新古今集・秋下・良経、百人一首)のように、寒い夜の独り寝というイメージとともによまれた。
『歌枕 歌ことば辞典』

 

かたしき

●かたし・き【片敷き】
〘四段〙
①《昔、男女が共寝するときは二人の衣を重ねて敷くことから》
自分の衣だけを敷く。ひとり寝をする。「衣―・き独りかも寝む」〈万一六九二〉

●かたしく【片敷く】

古代においては、男女が衣の一部分を敷き交わして共寝したということから、その片方だけで寝る独り寝をいうようになった。早く『万葉集』に「我が恋ふる妹は逢はさず玉の浦に衣片敷き独りかも寝む」(巻九)とよまれているが、『古今集』の「さむしろに衣片敷き今宵もや我を待つらむ宇治の橋姫」(恋四・読人不知)によって歌語として定着した。
『歌枕 歌ことば辞典』

 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

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あきたのこころてにはるよの
ぬればこころかたの
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あさぼらけたびはひとをし
あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

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