71~80番歌

百人一首の意味と文法解説(71)夕されば門田の稲葉おとづれて葦のまろやに秋風ぞ吹く┃大納言経信

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-71

投稿日:2018年3月12日 更新日:

ゆふされば門田の稲葉おとづれて葦のまろやに秋風ぞ吹く

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小倉百人一首から、大納言経信の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

目次

原文

ogura-hyakunin-isshu-71

百人一首(71)夕されば門田の稲葉おとづれて葦のまろやに秋風ぞ吹く

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-71

百人一首(71)夕されば門田の稲葉おとづれて葦のまろやに秋風ぞ吹く

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

大納言経信
夕されば 門田の稲葉 おとづれて 葦のまろやに 秋風ぞ吹く
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-71

百人一首(71)夕されば門田の稲葉おとづれて葦のまろやに秋風ぞ吹く

現代語訳(歌意)・文法解説

※梅津にある藤原師賢(ふじわらのもろかた)の山荘に人々がやってきて、「田家の秋風」といったことを題にしてよんだ歌。

夕方になると、門前の田の稲の葉に音を立てさせ、葦(あし)の仮小屋に秋風が吹いてくるのだ。

夕されば門田の稲葉おとづれて葦のまろやに秋風ぞ吹く

夕されば門田の稲葉おとづれて葦のまろやに秋風ぞ吹く

※「已然形 + ば」の形で、「~なので」「~すると」などの意味を表します。それぞれの意味は文脈によって判断します。「夕されば」は「夕方になると」の意味となります。

順接確定条件

順接確定条件

※係助詞「ぞ」は連体形で結びます。係り結びは「ぞ・なむ・や・か=連体、こそ=已然形」と覚えます。

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ

そのほかの助詞の解説は「古典の助詞の覚え方」を、動詞の活用は「古典の動詞の活用表の覚え方」をそれぞれご覧ください。
 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌のよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前につけられます。

師賢(もろかた)朝臣(あそん)の梅津(うめづ)に人々まかりて、田家秋風といへることをよめる(※梅津にある藤原師賢の山荘に人々がやってきて、「田家の秋風」といったことを題にしてよんだ歌。)

※注
○梅津 師賢の山荘があった。

※詞書と注の引用は『新日本古典文学大系 金葉和歌集 詞花和歌集』(川村晃生・柏木由夫・工藤重矩、1989年、岩波書店、50ページ)によります。
 

さり

●さ・り【去り・避り】
一〘四段〙
❶《自動詞。こちらの気持にかかわりなく、移動して来たり、移動して行ったりする意。古くは、時や色などの変化にいうことが多い》
①(時・季節が)移りめぐってくる。「夕―・れば風吹かむとそ木の葉さやげる」〈記歌謡二一〉。「春―・らば逢はむと思ひし梅の花」〈万八三五〉
 

かどた【門田】

門前の田。家の近くにある田。「妹が家の―を見むと」〈万一五九六〉。「―の稲刈るとて」〈源氏手習〉

○門田
門前の田。万葉語。「橘を守部の里の門田早稲刈る時過ぎぬ来じとすらしも」(万葉集・巻十)(『新日本古典文学大系 金葉和歌集 詞花和歌集』50ページ)

●かどた【門田】

門の近くにある田。『万葉集』巻八の家持の歌「妹が家の門田を見むとうち出(い)で来(こ)し心もしるく照る月夜かも」の影響か平安時代末期以降多くよまれるようになった。「夕されば門田の稲葉おとづれて葦のまろやに秋風ぞ吹く」(金葉集・秋・経信、百人一首)「山里の門田の稲のほのぼのと明くるも知らず月を見るかな」(同・顕隆)などがその例である。
歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

おとづれ

●おとづ・れ【訪れ】
一〘下二〙
①(いつも)相手を訪ねる。「物さびしき御つれづれを絶えず―・れ給ふに、慰むることども多かり」〈源氏夕霧〉
③声をかける。音を聞かせる。「雲井に郭公(くわくこう)二声三声―・れてぞ通りける」〈平家四・鵼〉
 

あし【葦・蘆】

イネ科の多年草。水辺に生える。茎は屋根をふき、また垣・簾(すだれ)を作るのに使う。奈良時代には難波のアシが有名だった。「―刈ると海士(あま)の小舟は」〈万四〇〇六〉。「―を伊勢には浜荻(はまをぎ)と云ふ也。摂津国には―といひ、東(あづま)にはよしといふなど云へり」〈仙覚抄四〉
 

まろや

●まろや【丸屋】
葦や茅(かや)などで蔽って作った仮小屋。「屋は。―、あづまや」〈枕二八九〉。「旅人の茅刈り蔽ひ作るてふ―は人を思ひ忘るる」〈拾遺八八六〉
 

あしのまろ屋

蘆(あし)で葺(ふ)いた仮小屋(かりごや)。まろ屋は、経信の好んだ用語。(『新日本古典文学大系 金葉和歌集 詞花和歌集』50ページ)
 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。

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あきぜにぎりすはるぎて
あきたのこころてにはるよの
ぬればこころかたの
あさふのひとをひといさ
あさぼらけたびはひとをし
あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

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