41~50番歌

百人一首の意味と文法解説(49)みかきもり衛士のたく火の夜はもえ昼は消えつつものをこそ思へ┃大中臣能宣朝臣

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-49

投稿日:2018年3月12日 更新日:

御垣守衛士のたく火の夜はもえ昼は消えつつものをこそ思へ

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小倉百人一首から、大中臣能宣朝臣の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

目次

原文

ogura-hyakunin-isshu-49

百人一首(49)みかきもり衛士のたく火の夜はもえ昼は消えつつものをこそ思へ

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-49

百人一首(49)みかきもり衛士のたく火の夜はもえ昼は消えつつものをこそ思へ

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

大中臣能宣朝臣
みかきもり 衛士の焚く火の 夜は燃え 昼は消えつつ 物をこそ思へ
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-49

百人一首(49)みかきもり衛士のたく火の夜はもえ昼は消えつつものをこそ思へ

現代語訳(歌意)・文法解説

※この和歌の題やよまれた事情はあきらかでない。

内裏(だいり)の御垣守(みかきもり)である衛士(えじ)の焚(た)く火のように、夜は恋の思いに燃えて、昼は心も消え入りそうになって、毎日のように思いわずらっていることだ。

御垣守(みかきもり)衛士のたく火の夜はもえ昼は消えつつものをこそ思へ

御垣守(みかきもり)衛士のたく火の夜はもえ昼は消えつつものをこそ思へ

※「焚く火の」の「の」は、連用修飾(または比喩)の用法で、「~のように」の意味を表します(例:「岩にせかるる滝川の」・「山鳥の尾のしだり尾の」など)。助詞の解説は「古典の助詞の覚え方」にまとめましたのでご確認ください。

連用中止法(れんようちゅうしほう)。「燃え」は、「燃えて」のように接続助詞「て」を補っても意味は変わりません。文が途切れずに続いていくときに使われます。

連用中止法

連用中止法

※係助詞「こそ」は已然形で結びます。係り結びは「ぞ・なむ・や・か=連体、こそ=已然形」とまとめて覚えます。

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ

※「燃ゆ」「消ゆ」はヤ行動詞(※ヤ行:ヤ・イ・ユ・エ・ヨ)。ア行動詞は種類が少なく、「得(う)」・「心得(こころう)」・「所得(ところう)」などの例が見られるのみです。動詞の活用は「古典の動詞の活用表の覚え方」をご覧ください。
 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌がよまれた事情を説明した短い文のことで、和歌の前につけられます。

題不知(だいしらず)(※和歌の題やよまれた事情が明らかでないこと。)

※詞書の引用は『新日本古典文学大系 金葉和歌集 詞花和歌集』(川村晃生・柏木由夫・工藤重矩、1989年、岩波書店、287ページ)によります。
 

みかきもり

●みかき【御垣】
神社・皇居の垣。「宮垣(みかき)崩(やぶ)るれども造らず」〈紀仁徳二年〉

●―もり【御垣守】
皇居の諸門を警固する人。衛士〈ゑじ〉。「外重(とのへ)守(も)る身の―」〈古今一〇〇三〉

○御垣守
「守る」(もる)とする伝本(でんぽん)もある。(『新日本古典文学大系 金葉和歌集 詞花和歌集』287ページ)
 

ゑじ【衛士】

諸国の軍団から選抜し、衛士府(のちに衛門府)に配当された兵士。公事(くじ)の雑役や御殿の清掃に従事し、庭火を焚いた。「車駕出行には兵衛・―先づ按行せよ」〈宮衛令〉。「御垣もる―のたく火の夜は燃え昼は消えつつ物をこそ思へ」〈詞花二二四〉
 

焚く火の

(※焚く火のように)
 

消えつつ

死ぬほどの思い。「音にのみきくの白露夜(よる)はおきて昼は思ひにあへず消(け)ぬべし」(古今・恋一・素性)。(『新日本古典文学大系 金葉和歌集 詞花和歌集』287ページ)

○あへずけぬべし
「け(消)」は、露などが消えるの意と死ぬ意を掛ける。名義抄(みょうぎしょう)「消・死・滅 キユ」(『新日本古典文学大系 古今和歌集』小島憲之・新井栄蔵、岩波書店、1989年、153ページ)

※古今集の歌の訳 … あの人をうわさにだけ聞いていて、あの名高い菊の白露が、夜の間は葉の上に置きながら、昼になると日の光に耐えられずに消えてしまうように、私は、夜は寝られずにずっと起きていて、昼は恋の思いに死んでしまいそうです。
 

つつ

(※~ながら。何度も~して。)
 

もの

●もの【物・者】
一〘名〙
➊物体・物品などを一般的にとらえて指す。「いとのきて短き―の端(はし)切ると言へるが如く」〈万八九二〉。「みどり児の乞ひ泣くごとに取り与ふる―し無ければ」〈万二一〇〉。「内蔵寮(くらづかさ)納殿(をさめどの)の―(品物)をつくして、いみじうせさせ給ふ」〈源氏桐壺〉。「さるは、たよりごとに―(贈物)も絶えず得させたり」〈土佐二月十六日〉。「散るまでも我が―にして花は見てまし」〈後撰一〇一〉
➌《対象の性質や状態が、はっきりとは言えないが、ともかく意識の対象となる存在》
①いろいろの状態・事態。「ねもころに―や悲しききりぎりす草のやどりにこゑたえず鳴く」〈後撰二五八〉。「右近は―も覚えず、君につと添ひ奉りて、わななき死ぬべし」〈源氏夕顔〉

●ものおも・ひ ‥オモイ 【物思ひ】
一〘四段〙
胸のうちで思いにふける。物ごとを、悩み煩う。「春山の霧に惑(まと)へる鶯も我にまさりて―・はめや」〈万一八九二〉
二〘名〙
思い悩むこと。心配すること。「光なき谷には春もよそなれば咲きてとく散る―もなし」〈古今九六七〉。「―絶ゆまじき身かなと思ふ」〈和泉式部日記〉
 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

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あきぜにぎりすはるぎて
あきたのこころてにはるよの
ぬればこころかたの
あさふのひとをひといさ
あさぼらけたびはひとをし
あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

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