61~70番歌

百人一首の意味と文法解説(64)朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬々の網代木┃権中納言定頼

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-64

投稿日:2018年3月12日 更新日:

朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬々の網代木

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小倉百人一首から、権中納言定頼の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

原文

ogura-hyakunin-isshu-64

百人一首(64)朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬々の網代木


画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-64

百人一首(64)朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬々の網代木

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

権中納言定頼
朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに あらはれわたる 瀬々の網代木
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-64

百人一首(64)朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬々の網代木

現代語訳(歌意)・文法解説

※宇治にやってきたときによんだ歌。

夜がほんのりと明けて、物がほのかに見える頃、宇治川にたちこめた霧の切れ間切れ間から、一面にあらわれる浅瀬のあちらこちらの網代であるよ。

朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬々の網代木

朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬々の網代木

体言止め(たいげんどめ)。和歌を体言(名詞)でしめくくることを体言止めと言います。上の和歌は「あじろぎ」という体言(名詞)でしめくくられています。

※格助詞「の」には、①主格、②連体修飾、③同格、④体言の代用、⑤連用修飾の5つの用法がありますが、この和歌で使われるのは連体修飾のみです。格助詞「の」のその他の用法は「古典の助詞の覚え方」でくわしく解説しておりますので、ご確認ください。
 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌がよまれた事情を説明した短い文のことで、和歌の前につけられます。

宇治にまかりて侍(はべり)けるときよめる(※宇治にやってきたときによんだ歌。)

※詞書の引用は『新日本古典文学大系 千載和歌集』(片野達郎・松野陽一、1993年、岩波書店、128ページ)によります。
 

あさぼらけ【朝ぼらけ】

夜がほんのりと明けて、物がほのかに見える状態。また、その頃。多く秋や冬に使う。春は多くアケボノという。「―有明けの月と見るまでに吉野の里に降れる白雪」〈古今三三二〉。「夜明けぬ。ほのぼのとをかしき―に」〈源氏真木柱〉
 

うぢ【宇治】

現在の京都府宇治市付近、平安京の東南にあたる。和歌では「宇治川」「宇治橋」「宇治山」の形でよくよまれた。初瀬(長谷寺)参詣をはじめ大和地方へおもむく人が通るので都の人には親しみ深いところであり、貴族の別荘なども作られた。今の平等院鳳凰堂は一代の権力者藤原道長の別荘を子の頼通が寺に改めたものである。
 その鳳凰堂の扉絵には網代(あじろ)が描かれているが、まさしく網代こそは宇治の名物の一つであり、人々は網代が絵に描かれているのを見れば、それが宇治の景を描いたものであることを直ちに知ったはずである。網代とは、冬、竹や木を編んだものを網を引くような形に立てて、その終端に簀(す)を設けて氷魚(ひお)(鮎の稚魚)を取るように仕掛けたものだが、都の人々には珍しかったのでこれを景物としてよみ込んだ歌が多い。早く『万葉集』に「もののふの八十(やそ)うぢ川の網代木(あじろぎ)にいさよふ浪のゆくへ知らずも」(巻三・人麻呂)があるが、平安時代に入ると、「宇治川の瀬々にありてふ網代木に多くの日をもわびさするかな」(古今六帖)「数ならぬ身を宇治川の網代木に多くのひをも過ぐしつるかな」(拾遺集・恋三・読人不知)などのように「日を」と「氷魚」を掛詞にしてよんだものが多くなる。
 「網代」とともに宇治川の景物をなすものに「霧」「川霧」がある。『百人一首』にもとられた「朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬々の網代木」(千載集・冬・定頼)のほか、平安時代後期から極度に多くよまれるようになってくるが、「宇治の川風」「宇治の川浪」「宇治の川舟」「宇治の柴舟」「宇治の川長(かはをさ)」なども、平安時代末期から中世にかけて多くよまれた景物である。(後略)
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

補足:宇治の地図

※宇治は京都府南部に位置しています。『源氏物語』の後半の十巻、「宇治十帖」(うじじゅうじょう)と呼ばれる物語の舞台にもなりました。

宇治・宇治川

宇治・宇治川

(※宇治川の様子は京都観光Naviからご覧ください。)
 

たえだえ【絶え絶え】

〘副〙
①今にも途切れそうに。途切れ途切れに。「ねぶたげなる読経(どきやう)の、―すごく聞ゆるなど」〈源氏若紫〉
②切れ間切れ間に。「霞の―に、梢ばかり見ゆ」〈源氏浮舟〉
 

わたる

●わた・り【渡り】
一〘四段〙《水面や空間を直線的に横切って、向う側に到着する意。移行の経路がはっきりしているので、出発点と到着点との二つの方面にかかわる意も表し、平面的な広がりに関してもいうようになった。また、時間的に、過去から現在まで引き続いて存在する意》
➊海や川などの水面を通路にして、直線的に通って対岸へゆく。
①(海や川などの水の上を、馬や舟などを使って)向う側へ移る。「神無備(かむなび)のこの山辺からぬばたまの黒馬(くろま)に乗りて川の瀬を七瀬―・りて」〈万三三〇三〉。「大船に真楫(まかぢ)繁(しじ)貫(ぬ)き海原を漕ぎ出て―・る月人壮子(つきひとをとこ)」〈万三六一一〉
➎②《他の動詞の連用形について、その動作が、広い場面にわたって行なわれたり、時間的に長く続いたりする意を表わす》
㋑広く及ぶ。あまねく…する。一面に…する。「狭井河よ雲立ち―・り、畝火山(うねびやま)木の葉さやぎぬ」〈紀歌謡二〇〉。「軒のしのぶぞ所得顔に青み―・れる」〈源氏橋姫〉
 

せ【瀬】

①川の浅い所。多く、川を渡るのにここを通る。「しましくも行きて見てしか神名火の淵は浅(あせ)にて―にかなるらむ」〈万九六九〉
 

あじろぎ【網代木】

●あじろ【網代】
①魚をとる仕掛け。川の流れを横切って杭を並べて立て、杭の間を、竹や木で細かく編んで魚が通れなくする。その一部分を開けて簀(す)を網の代りに水面に平らに置く。流水と共に来た魚は、簀の上にかかる。宇治川・田上川のが有名。冬期に、氷魚(ひお)・鮎などを取ったが、弘安七年(※1284年 引用者補)に宇治の網代は停止された。「宇治人のたとへの―」〈万一一三七〉。「十月ついたち頃―もをかしき程ならむ」〈源氏総角〉。「すさまじきもの。昼ほゆる犬、春の―」〈枕二五〉

●あじろ【網代】

川に杭を並べて打ち、その杭に簀(す)をわたして簀に堰かれた魚を取るもの。初冬、宇治川や田上(たなかみ)川で「氷魚(ひを)」をとるのに用いられて有名。(中略)なお「網代木」は網代の杭の意であったのだろうが、多くは単なる「網代」と同じ意で用いられている。「もののふの八十うぢ川の網代木にいさよふ浪のゆくへ知らずも」(万葉集・巻三・人麻呂)は有名。
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

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あきぜに ぎりす はるぎて
あきたの こころてに はるよの
ぬれば こころ かたの
あさふの ひとを ひといさ
あさぼらけ たびは ひとをし
あさぼらけ すてふ くからに
ひきの やこの ととぎす
あはしま びしさに みかもり
あはとも ぶれど みかはら
みての つゆに ばやな
あふとの みのえの のくの
あまかぜ をはやみ しのの
あまはら さごの らさめの
あららむ のおとは ぐりあひて
あらふく のうらに しきや
ありけの わかれ ともに
ありやま のをよ らはで
しへの をかも むぐら
いまむと ちぎりきし やまはに
いまただ ちぎり やまとは
りける やぶる されば
みわび みれば のとを
やまに ばねの よのなか
にきく ながらむ よのなか
おほやま ながへば すがら
おほなく なげつつ こめて
ひわび なげとて わがほは
とだに のよは わがでは
さぎの なにおはば わするる
かぜよぐ なには わすじの
かぜいたみ なには わたのはら
きみがため はなそふ わたのはら
きみがため はないろは ぬれば
らやま

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都内の私立大学 文学部国文学専攻出身
お菓子メーカー勤務のサラリーマン
趣味は歌舞伎鑑賞(2012年~)
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