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百人一首の意味と文法解説(8)わがいほは都の巽しかぞ住む世を宇治山と人は言ふなり┃喜撰法師

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-8

投稿日:2018年3月10日 更新日:

我が庵はみやこのたつみしかぞ住む世を宇治山と人は言ふなり

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小倉百人一首から、喜撰法師の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

目次

原文

ogura-hyakunin-isshu-8

百人一首(8)わが庵は都の巽しかぞ住む世を宇治山と人は言ふなり

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-8

百人一首(8)我が庵は都の巽しかぞ住む世を宇治山と人は言ふなり

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

喜撰法師
わが庵は 都のたつみ しかぞ住む 世をうぢ山と 人は言ふなり
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-8

百人一首(8)わがいほは都の巽しかぞ住む世を宇治山と人は言ふなり

現代語訳(歌意)・文法解説

私の仮の住まいは都の東南にあり、その「巽」という名の通り慎ましく住んでいる。しかし、世間の人はここを、世間を避けて住む山、宇治山と言うらしい。

方位・方角:たつみは南東(東南)

方位・方角:たつみは南東(東南)

わが庵は都の巽しかぞ住む

わが庵は都の巽しかぞ住む

世を宇治山と人は言ふなり

世を宇治山と人は言ふなり

※係り結びは「古典の助詞の覚え方」でご確認ください。

※断定「なり」と伝聞「なり」の見分け方は「古典の助動詞の活用表の覚え方」にまとめてあります。
 

語釈(言葉の意味

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

いほ(イオ)【庵・蘆】

草木を結んで作った仮の小屋。農事のための仮小屋。世を遁(のが)れた者の仮住居。また、自分の家を卑しめていう。「難波の小江に―作り」〈万三八八六〉。「わが―は都の巽(たつみ)」〈古今九八三〉。「蘆、農人作蘆以便田事、和名、伊保(いほ)」〈和名抄〉
 

たつみ【辰巳・巽】

①方角の名。辰と巳との間。東南。「わが庵(いほ)は都の―しかぞ住む世をうぢ山と人はいふなり」〈古今九八三〉

●辰巳 東南の方向で漢語「巽位(そんい)」に当る。妙義抄「巽 タツミ」。「巽」は、論語子罕(※しかん)「巽与之言(※そんよのげん)」、同何晏集解「馬曰、巽 恭也。謂恭孫謹敬之言」。(『新日本古典文学大系 古今和歌集』小島憲之・新井栄蔵、岩波書店、1989年、295ページ)

●巽与之言(※そんよのげん) 馬融は、「巽は恭」と注し、恭遜謹敬の言と説明した。おだやかな、きびしくない言。朱子は「婉にして之を導く」と注した。婉曲な耳ざわりのいい言葉。(『新釈漢文大系 論語』吉田賢航、明治書院、昭和35年、212ページ)
 

しか【然】

〘副〙《代名詞シと、状態を示す接尾語カとの複合。すでに述べた状態を指示する語。上代では歌にも使われたが、平安時代には漢文訓読に使い、平安女流文学ではこれに当る語は「さ」で、「しか」は男性の言葉として使われることが多い。→さ》
①そう。そのように。「黄楊小櫛(つげをぐし)―刺しけらし」〈万四二一一〉。「それ―あらじ」〈源氏帚木〉
 

世をうぢ山

世をきらうというその「憂(う)」と地名の「うぢ(山)」を掛ける。
▽ただ慎ましく生きているのに、世間は世を嫌ったのだと大げさに騒ぐらしいの意。「たつみ」は「宮こ(都)の」を承けて東南の意、「恭」の意に転じて「しかぞ」の内容を示す。(『新日本古典文学大系 古今和歌集』小島憲之・新井栄蔵、岩波書店、1989年、295ページ)
 

うぢ【宇治】

 現在の京都府宇治市付近、平安京の東南にあたる。和歌では「宇治川」「宇治橋」「宇治山」の形でよくよまれた。初瀬(長谷寺)参詣をはじめ大和地方へおもむく人が通るので都の人には親しみ深いところであり、貴族の別荘なども作られた。今の平等院鳳凰堂は一代の権力者藤原道長の別荘を子の頼通が寺に改めたものである。(中略)
 川や橋について字数をとりすぎたが、宇治山についても一言しておかなければならない。宇治山をよんだ歌で最も有名なのは、いうまでもなく、喜撰の「わが庵は都のたつみしかぞ住む世を宇治山と人はいふなり」(古今集・雑上、百人一首)である。鴨長明の『無名抄』には「また、御室戸(みむろど)の奥に二十余町(ちやう)ばかり山中に入りて、宇治山の僧喜撰が住みける跡(あと)あり。家はなけれど、堂のいしずゑなど定かにあり」と記されている。いま喜撰山と呼ばれている山のことであり、確かに洞窟も残っているが、喜撰が住んだという確証はもちろんない。おそらくは後人の付会であろう。
 さて、喜撰の歌の「しかぞ住む」は、「然ぞ住む」であり、「このように住んでいる」という意であるが、「秋といへば都のたつみ鹿ぞ鳴く名もうぢ山の夕暮の空」(順徳院集)のように「鹿ぞ住む」と解されていたらしく同趣の例は多い。また「跡(あと)絶(た)えて幾重も霞めながくわが世をうぢ山の奥の麓に」(式子内親王集)「おのづから身をうぢ山に宿かればさもあらぬ空の月も澄みけり」(拾遺愚草)のように、「世を宇治山」「身を宇治山」という形でよまれることも多かった。(後略)
歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

なり

(※伝聞推定の助動詞。「~らしい」の意。)
 

作者:喜撰法師(きせんほうし)について

伝未詳。喜撰法師については、生まれた年も死んだ年もよくわかっていません。宇治に住んでいたらしいことが伝わるのみです。

六歌仙(ろっかせん)

喜撰法師は六歌仙の一人です。

六歌仙とは、905年に編まれた『古今和歌集』の仮名序(かなじょ)(漢文ではなく仮名文で書いた序文なので「仮名序」と言う)に、紀貫之(きのつらゆき)がすぐれた歌人として名前をあげた6人のことを言います。喜撰法師の歌に対する貫之の評価は次のとおりです。本文引用は『新日本古典文学大系 古今和歌集』(14ページ)によります。

宇治山の僧喜撰は、言葉微(かす)かにして、始め、終り、確かならず。言はば、秋の月を見るに、暁(あかつき)の雲に、遭(あ)へるがごとし。(宇治山に住んだ僧侶、喜撰は、言葉がはっきりせず、始めから終わりまで筋が通らない。たとえて言えば、秋の月を見ようとするけれど、明け方の雲にさえぎられるようなものだ。)

六歌仙は喜撰法師のほかに、在原業平(ありわらのなりひら)、僧正遍昭(そうじょうへんじょう)、文屋康秀(ふんやのやすひで)、大友黒主(おおとものくろぬし)、小野小町(おののこまち)があげられています。
 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。

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あきぜにぎりすはるぎて
あきたのこころてにはるよの
ぬればこころかたの
あさふのひとをひといさ
あさぼらけたびはひとをし
あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

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