古文(古典)の打消の助動詞「ず」の活用・意味・接続・用例について、詳しく分かりやすく解説します。
- 後ろにほかの助動詞がつく時は補助活用を使う(基本的には)
- 「え~ず」の形で不可能を表す使い方がある
- 「ずは」は「~ないで」「~ないならば」の意味
目次
「ず」の活用
特殊型
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
(な) | (に) | (○) | (ぬ) | (ね) | (○) |
(ず) | ず | ず | ぬ | ね | ○ |
ざら | ざり | ○ | ざる | ざれ | ざれ |
古語の打消の助動詞は、「な・に・○・ぬ・ね・○」の活用の系統が最も古く(※上代=奈良時代)、その後に「ず」の系統が、さらにその後に「ざら・ざり・○・ざる・ざれ・ざれ」の系統が成立したと考えられています。
「ず」は、『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎、岩波書店、1990年)によれば、「古い打消の『に』に『す』(※サ変動詞)が結合してnisu→nzu→zuという変化によって」成立しました。
一方、「ざり」は、旺文社の『古語辞典』(松村明・山口明穂・和田利政、1960年)によれば、「他の助動詞との接続を補う意味で、連用形『ず』に動詞『あり』が付いた」ことで成立したとされます。
ちなみに、ラ変型活用語に当たる「ざり」系統には終止形がありません。なぜなら、終止形接続の助動詞(べし・らし・まじ・らむ・めり・なり)は、ラ変型活用語には連体形(「ざる」の形)に接続するからです。
「ず」の接続
未然形
「ず」の意味
- 打消「~ない、~ぬ、~せず」
後ろに助動詞が付く場合は補助活用を使う
打消の助動詞「ず」の後ろに助動詞を続ける場合は、主に補助活用(「ざり」の列)を使います(平安時代では)。
打消を強める表現
副詞の後ろに打消の語を伴って、強い打消(まったく~ない、けっして~ない)を表すことがあります。
- 敢へて(あへて) … 「まったく~ない」「いっこうに~ない」
- 大方(おほかた) … 「まったく~ない」「少しも~ない」
- 掛けて(かけて) … 「決して~ない」「少しも~ない」
- 更に(さらに) … 「まったく~ない」「決して~ない」
- 総て(すべて) … 「まったく~ない」「全然~ない」
- 絶えて(たえて) … 「まったく~ない」「いっこうに~ない」
- つやつや … 「まったく~ない」「いっこうに~ない」
- 努努(ゆめゆめ) … 「まったく~ない」「決して~ない」
- 露(つゆ) … 「まったく~ない」「少しも~ない」
- 世に(よに) … 「決して~ない」「全然~ない」
「え~ず」(不可能)
副詞の「え」に打消や反語の語を伴って、不可能(とても~できない、じゅうぶんに~しない)を表すことがあります。
ちなみに「え」は、ア行下二段動詞「得」の連用形が副詞化した語です。
「ずは」
「ずは」には「~ないで」と「~ないならば」という二つの意味があります。
- 「~ないで、~ずに」
- 「~ないならば」
①「~ないで」
なかなかに人とあらずは桑子にもならましものを玉の緒ばかり (中々二 人跡不在者 桑子尓毛 成益物乎 玉之緒許) | |
(訳)なまじ、人として生きずに、むしろ、蚕にでもなるほうがましだ。玉の緒のように短い命であっても。 |
②「~ないならば」
※参考:「ずは」の成り立ちについて
「ずは」の成り立ちについては、主に次のような説に分かれます。
- ①②のどちらの意味も「ず(連用形)+ は(係助詞)」と解釈する説 … (A)
- ①の意味は「ず(連用形)+ は(係助詞)」、②の意味は「ず(未然形)+ は(接続助詞「ば」の清音化)」と解釈する説 … (B)
旺文社の『古語辞典』や『岩波 古語辞典』などは、前者(A)の説を採用しています。
一方で、『実例詳解 古典文法総覧』(小田勝、和泉書院、2015年)では、後者(B)の説が採用されています。特に、①「~ないで、~ずに」の意味については、「上代特有の語法といえる」(470ページ)としています。
「抜いて」と「脱いで」はともに接続助詞「て」、「をば」の「ば」は係助詞「は」の濁音化したものとみるのだから、このような扱い(※「ずは」の「は」を清音化した接続助詞「ば」と解釈すること)もそれほど無理なものではない
(※『実例詳解 古典文法総覧』小田勝、和泉書院、2015年、267・268ページ)
※参考:「未然形+ば」と「已然形+ば」
「未然形+ば」は、順接仮定条件(~ならば)を意味します。
一方、「已然形+ば」は、順接確定条件(~ので、~から/~すると/~するといつも)を意味します。
「なくに」
基本的に、「なくに」は「~ないのに」と訳します(※ク語法)。
※ク語法…活用語の語尾に「く」がついて名詞になる語法
※参考文献
・『実例詳解 古典文法総覧』小田勝、和泉書院、2015年
・『改訂増補 古文解釈のための国文法入門』松尾聰、筑摩書房(ちくま学芸文庫)、2019年
・『吉野式古典文法スーパー暗記帖 完璧バージョン』吉野敬介、学研プラス、2014年
※本文引用
・『新編日本古典文学全集 萬葉集』小島憲之・木下正俊・東野治之、小学館、1994年
・『新編日本古典文学全集 (12) 竹取物語 伊勢物語 大和物語 平中物語』片桐洋一・高橋正治・福井貞助・清水好子、小学館、1994年
・『新編日本古典文学全集 源氏物語』阿部秋生・今井源衛・秋山虔・鈴木日出男、小学館、1994年
・『新編日本古典文学全集 (26) 和泉式部日記 紫式部日記 更級日記 讃岐典侍日記』藤岡忠美・中野幸一・犬養廉・石井文夫、小学館、1994年