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古文の助動詞「ず」の活用と意味、接続を解説。(ざら・ざり・ざる…)

古文の助動詞「ず」の活用と意味、接続を解説。(ざら・ざり・ざる…)

投稿日:2021年2月11日 更新日:

古文(古典)の打消の助動詞「ず」の活用・意味・接続・用例について、詳しく分かりやすく解説します。

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【POINT】

  • 後ろにほかの助動詞がつく時は補助活用を使う(基本的には)
  • 「え~ず」の形で不可能を表す使い方がある
  • 「ずは」は「~ないで」「~ないならば」の意味

 

目次

「ず」の活用

特殊型

未然形連用形終止形連体形已然形命令形
(な)(に)(○)(ぬ)(ね)(○)
(ず)
ざらざりざるざれざれ

古語の打消の助動詞は、「な・に・○・ぬ・ね・○」の活用の系統が最も古く(※上代=奈良時代)、その後に「ず」の系統が、さらにその後に「ざら・ざり・○・ざる・ざれ・ざれ」の系統が成立したと考えられています。

「ず」は、『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎、岩波書店、1990年)によれば、「古い打消の『に』に『す』(※サ変動詞)が結合してnisu→nzu→zuという変化によって」成立しました。

一方、「ざり」は、旺文社の『古語辞典』(松村明・山口明穂・和田利政、1960年)によれば、「他の助動詞との接続を補う意味で、連用形『ず』に動詞『あり』が付いた」ことで成立したとされます。

ちなみに、ラ変型活用語に当たる「ざり」系統には終止形がありません。なぜなら、終止形接続の助動詞(べし・らし・まじ・らむ・めり・なり)は、ラ変型活用語には連体形(「ざる」の形)に接続するからです。

 

「ず」の接続

未然形

 

「ず」の意味

  • 打消うちけし「~ない、~ぬ、~せず」
【例】更級日記・上洛の旅
おそろしくてられ
ず_打消_いもねられず
(訳)恐ろしくて、眠ることもできない。

 

後ろに助動詞が付く場合は補助活用を使う

打消の助動詞「ず」の後ろに助動詞を続ける場合は、主に補助活用(「ざり」の列)を使います(平安時代では)。

【例】源氏物語・帚木(ははきぎ)
けしうははべらざるべし。
ず・ざる_打消_けしうははべらざるべし
(訳)悪くはございますまい。

 

打消を強める表現

副詞の後ろに打消の語を伴って、強い打消(まったく~ない、けっして~ない)を表すことがあります。

  • 敢へて(あて) … 「まったく~ない」「いっこうに~ない」
  • 大方(おかた) … 「まったく~ない」「少しも~ない」
  • 掛けて(かけて) … 「決して~ない」「少しも~ない」
  • 更に(さらに) … 「まったく~ない」「決して~ない」
  • 総て(すべて) … 「まったく~ない」「全然~ない」
  • 絶えて(たえて) … 「まったく~ない」「いっこうに~ない」
  • つやつや … 「まったく~ない」「いっこうに~ない」
  • 努努(ゆめゆめ) … 「まったく~ない」「決して~ない」
  • 露(つゆ) … 「まったく~ない」「少しも~ない」
  • 世に(よに) … 「決して~ない」「全然~ない」
【例】大和物語・158段「鹿鳴く声」
わがかたにはさらにヽヽヽ
ず_打消_さらに寄り来ず
(訳)自分のほうにはまったく寄りつかない。

 

「え~ず」(不可能)

副詞の「え」に打消や反語の語を伴って、不可能(とても~できない、じゅうぶんに~しない)を表すことがあります。

ちなみに「え」は、ア行下二段動詞「」の連用形が副詞化した語です。

【例】源氏物語・胡蝶
花もえもいはぬ匂ひを散らしたり。
え~ず_打消_えもいはぬにほひ
(訳)花も、えも言われぬ(じゅうぶんに言いつくせない)良い香りを漂わせている。

 

「ずは」

「ず」には「~ないで」と「~ないならば」という二つの意味があります。

「ずは」の訳し方

  1. 「~ないで、~ずに」
  2. 「~ないならば」

 

①「~ないで」

【例】万葉集・巻12・3086
なかなかに人とあら桑子にもならましものを玉の緒ばかり

中々なかなか ひと不在あらず 桑子くはこ ならましもの たまばかり

ずは_打消_人とあらずは
(訳)なまじ、人として生きずに、むしろ、かいこにでもなるほうがましだ。玉の緒のように短い命であっても。

 

②「~ないならば」

【例】竹取物語・大伴の大納言と龍の頸の玉
たつくびたま取り得かへな。
ずは_打消_龍の頸の玉取り得ずは
(訳)龍の頸の玉を取ることができなければ(できないならば)帰って来るな。

 
※参考:「ずは」の成り立ちについて
「ずは」の成り立ちについては、主に次のような説に分かれます。

  • ①②のどちらの意味も「ず(連用形)+ は(係助詞)」と解釈する説 … (A)
  • ①の意味は「ず(連用形)+ は(係助詞)」、②の意味は「ず(未然形)+ は(接続助詞「ば」の清音化)」と解釈する説 … (B)

旺文社の『古語辞典』や『岩波 古語辞典』などは、前者(A)の説を採用しています。

一方で、『実例詳解 古典文法総覧』(小田勝、和泉書院、2015年)では、後者(B)の説が採用されています。特に、①「~ないで、~ずに」の意味については、「上代特有の語法といえる」(470ページ)としています。

「抜いて」と「脱いで」はともに接続助詞「て」、「をば」の「ば」は係助詞「は」の濁音化したものとみるのだから、このような扱い(※「ずは」の「は」を清音化した接続助詞「ば」と解釈すること)もそれほど無理なものではない
(※『実例詳解 古典文法総覧』小田勝、和泉書院、2015年、267・268ページ)

 
※参考:「未然形+ば」と「已然形+ば」
「未然形+ば」は、順接じゅんせつ仮定かてい条件じょうけん(~ならば)を意味します。

順接仮定条件

順接仮定条件

一方、「已然形+ば」は、順接じゅんせつ確定かくてい条件じょうけん(~ので、~から/~すると/~するといつも)を意味します。

順接確定条件

順接確定条件

 

「なくに」

基本的に、「なくに」は「~ないのに」と訳します(※ク語法)。

※ク語法…活用語の語尾に「く」がついて名詞になる語法

【例】万葉集・巻3・265
苦しくも降り来る雨か三輪の崎狭野の渡りに家もあらなく

くるしく 零来ふりくるあめ 神之埼みわのさき 狭野さのわたり いへ不有国あらなくに

なくに_打消_家もあらなくに
(訳)困ったことに降ってきた雨だ。三輪の崎の佐野のあたりに、雨やどりする家もないのに。

 
※参考文献
・『実例詳解 古典文法総覧』小田勝、和泉書院、2015年


 
・『改訂増補 古文解釈のための国文法入門』松尾聰、筑摩書房(ちくま学芸文庫)、2019年


 
・『吉野式古典文法スーパー暗記帖 完璧バージョン』吉野敬介、学研プラス、2014年


 
※本文引用
・『新編日本古典文学全集 萬葉集』小島憲之・木下正俊・東野治之、小学館、1994年
・『新編日本古典文学全集 (12) 竹取物語 伊勢物語 大和物語 平中物語』片桐洋一・高橋正治・福井貞助・清水好子、小学館、1994年
・『新編日本古典文学全集 源氏物語』阿部秋生・今井源衛・秋山虔・鈴木日出男、小学館、1994年
・『新編日本古典文学全集 (26) 和泉式部日記 紫式部日記 更級日記 讃岐典侍日記』藤岡忠美・中野幸一・犬養廉・石井文夫、小学館、1994年

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