21~30番歌

百人一首の意味と文法解説(25)名にし負はば逢坂山の真葛人に知られでくるよしもがな┃三条右大臣

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-25

投稿日:2018年3月11日 更新日:

名にしおはば逢坂山のさねかづら人に知られでくるよしもがな

小倉百人一首から、三条右大臣の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

Sponsored Link

原文

ogura-hyakunin-isshu-25

百人一首(25)名にし負はば逢坂山の真葛人に知られでくるよしもがな

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-25

百人一首(25)名にし負はば逢坂山の真葛人に知られでくるよしもがな

Sponsored Link

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

三条右大臣
名にし負はば あふ坂山の さねかづら 人に知られで 来るよしもがな
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-25

百人一首(25)名にし負はば逢坂山の真葛人に知られでくるよしもがな

現代語訳(歌意)・文法解説

※使者に持たせて、女に送った歌。

「逢って寝る」という名を持っているならば、逢坂山のさねかずらよ、それをたぐりよせるように、人に知られずにあなたのところに来る手段があったらなあ。

名にし負はば逢坂山の真葛人に知られでくるよしもがな

名にし負はば逢坂山の真葛人に知られでくるよしもがな

※「名にし負はば」の「し」は強意の副助詞です。あってもなくても意味は変わりません。

※「未然形 + ば」の形で、「~ならば」の意味をあらわします。

順接仮定条件

順接仮定条件

※「で」は打消の接続助詞です。「~ないで、~せずに、」の意味です。助詞の解説は「古典の助詞の覚え方」にまとめたのでご確認ください。

掛詞(かけことば)。音が同じことを利用して二つの意味をあらわすこと。「くる」は「来る」と「繰る」を掛けています。
 

Sponsored Link

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌のよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前に置かれます。

女につかはしける(※使者に持たせて、女に送った歌。)

※詞書の引用は『新日本古典文学大系 後撰和歌集』(片桐洋一、岩波書店、1990年、203ページ)によります。
 

名に負ふ

①名として持つ。「祖(おや)の名絶つな大伴(おほとも)の氏と―・へる大夫(ますらを)の伴(とも)」〈万四四六五〉
 

逢坂山 → あふさか【逢坂・相坂(おうさか)】

 一般には「逢坂」と書くが、藤原定家は「相坂」と書くことが多かった。『五代集歌枕』『八雲御抄』等、古来の歌枕書は近江国とするが、近江・山城の国境の山が逢坂山である。ただしその中心をなす逢坂の関はまさしく近江国にある。
 逢坂の関は大化二年(六四六)の設置であるが、延暦十四年(七九五)平安遷都の頃に一時廃止され(日本紀略)、その後天安元年(八五七)に再び設置された(文徳実録)。(中略)
 さて、平安時代の歌の常として、この「逢坂」、あるいは「逢坂の関」をも恋の歌のテクニカル・タームにしてしまう。当時、男女が逢うことはすなわち契りをかわすことであったので、「逢坂の関」を越えるということは、許されない男女が一線を越えて結ばれるということであった。「思ひやる心は常にかよへども逢坂の関越えずもあるかな」(後撰集・恋一・三統公忠)「人知れぬ身はいそげども年をへてなど越えがたき逢坂の関」(同・恋三・伊尹)など、例は多い。(後略)
歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

○相坂山
逢坂(おうさか)は都と近江(おうみ)との境の関として詠まれ、「逢ふ」という意を籠められるのが一般的であったが、ここはそれを前提にしつつ、その山に生える葛(かずら=蔓草(つるくさ)の総称)を導き出している。(『新日本古典文学大系 後撰和歌集』203ページ)

(※逢坂山の周辺地図は公益社団法人 びわこビジターズビューローで見られます。)

補足:逢坂山

※逢坂山は京都府と滋賀県の境にあります。

逢坂山

逢坂山

 

さねかづら【真葛】(サネカズラ)

●さねかづら【真葛】
①モクレン科の常緑蔓(つる)性灌木。夏の初め、淡黄色の花を開き、紅色球状の実をつくる。茎の粘液は製紙用または髪油の材料。ビナンカズラ。「さなかづら」とも。「逢坂山の―」〈後撰七〇一〉。「五味、作禰加豆良(さねかづら)」〈和名抄〉
②〔枕詞〕蔓が分れてまた会うので、「会ふ」にかかる。「―後もあはむと」〈万二〇七〉

○さねかづら
冬に赤い実をつけるモクレン科の常緑蔓草。蔓草であるので「繰る」と言って「来る」と掛けるとともに「さ寝」の意を響かせている。▽さねかずらは蔓が長く延びるため、万葉集においても「のちに逢ふ」(207・2479)の序詞になっているので、「逢ふ」の意を籠めて「相坂山のさねかづら」と詠んだ。さねかずらに付けて歌を贈ったと見なければ唐突に過ぎる。(『新日本古典文学大系 後撰和歌集』203ページ)
 

知られで

(※知られないで)
 

よし【由】

①口実。かこつけ。「妹が門(かど)行き過ぎかねつひさかたの雨も降らぬか其(そ)を―にせむ」〈万二六八五〉
③手がかり。手段。「うつつには逢ふ―も無しぬばたまの夜の夢にを継ぎて見えこそ」〈万八〇七〉。「をちこちの磯の中なる白玉を人に知られず見む―もがも」〈万一三〇〇〉
 

もがな

〘助〙《奈良時代のモガモの転。終助詞のモは平安時代にナに代られるのが一般であった》
①…が欲しい。「ながらへて君が八千代に逢ふよし―」〈古今三四七〉
②…でありたい。「世の中にさらぬ別れの無く―千代とも嘆く人の子の為」〈古今九〇一〉
 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。

Sponsored Link

-21~30番歌
-, , ,

執筆者:

小倉百人一首検索

▼テーマ別検索

全首一覧下の句決まり字
作者一覧六歌仙三十六歌仙
女性歌人恋の歌四季の歌

>>百人一首の読み上げ

>>五色百人一首一覧

▼初句検索

あきぜにぎりすはるぎて
あきたのこころてにはるよの
ぬればこころかたの
あさふのひとをひといさ
あさぼらけたびはひとをし
あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

和歌の語句・作者などを検索

おすすめ書籍

古文・古典文法の解説

  ➤ 文法基礎動詞
  ➤ 形容詞形容動詞
  ➤ 助詞助動詞
  ➤ 敬語参考書
  ➤ 古文単語単語帳


Sponsored Link


関連記事

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-22

百人一首の意味と文法解説(22)ふくからに秋の草木のしをるればむべ山風を嵐といふらむ┃文屋康秀

吹くからに秋の草木のしをるればむべやまかぜをあらしと言ふらむ 小倉百人一首から、文屋康秀の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。 ▼ 現代 …

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-27

百人一首の意味と文法解説(27)みかの原わきて流るる泉川いつ見きとてか恋しかるらむ┃中納言兼輔

みかのはらわきて流るる泉河いつみきとてか恋しかるらむ 小倉百人一首から、中納言兼輔の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。 ▼ 現代語訳・ …

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-24

百人一首の意味と文法解説(24)このたびは幣も取りあへず手向山紅葉のにしき神のまにまに┃菅家(菅原道真)

このたびはぬさも取りあへずたむけやま紅葉の錦神のまにまに 小倉百人一首から、菅家(菅原道真)の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。 ▼ …

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-29

百人一首の意味と文法解説(29)心あてに折らばや折らむ初霜のおきまどはせる白菊の花┃凡河内躬恒

こころあてに折らばや折らむはつしものおきまどはせる白菊の花 小倉百人一首から、凡河内躬恒の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。 ▼ 現代 …

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-26

百人一首の意味と文法解説(26)小倉山峰のもみぢ葉心あらばいまひとたびのみゆきまたなむ┃貞信公

をぐらやま峰のもみぢば心あらば今ひとたびの行幸待たなむ 小倉百人一首から、貞信公の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。 ▼ 現代語訳・文 …


運営者 : honda
都内の私立大学 文学部国文学専攻出身
お菓子メーカー勤務のサラリーマン
趣味は歌舞伎を見ること(2012年~)
古文や古典を楽しむ人が一人でも増えればよいなと考えながら情報発信しております。
その他、趣味で始めたプログラミングに関することや、通信制大学(放送大学)、各種資格試験の体験談などについても、記事にまとめております。


Sponsored Link