31~40番歌

百人一首の意味と文法解説(34)誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに┃藤原興風

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-34

投稿日:2018年3月11日 更新日:

たれをかも知る人にせむ高砂の松もむかしの友ならなくに

小倉百人一首から、藤原興風の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

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原文

ogura-hyakunin-isshu-34

百人一首(34)誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-34

百人一首(34)誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに

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釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

藤原興風
誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-34

百人一首(34)誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに

現代語訳(歌意)・文法解説

いったい誰を本当の友人にしようか。あの高砂の松も古いとはいえ、昔からの私の友人というわけではないのだ。

たれをかも知る人にせむ

たれをかも知る人にせむ

高砂の松も昔の友ならなくに

高砂の松も昔の友ならなくに

二句切れ(にくぎれ)。係り結びや終止形のところで、和歌の意味の切れ目となる場合が多いです。

※係助詞と係り結びに関しては「古典の助詞の覚え方」にまとめてあります。

※「なくに」は「~でないのに」と訳します。「に」は、格助詞、接続助詞、断定「なり」の連用形など、諸説あります。

※未然形接続の助動詞は、「る・らる・す・さす・しむ・ず・じ・む・むず・まし・まほし・ふ・ゆ」の13種類です。そのほかの助動詞は「古典の助動詞の活用表の覚え方」をご覧ください。
 

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語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

(※疑問の係助詞。係り結びは連体形。)
 

知る人

心の通じる人、親友の意。(『新日本古典文学大系 古今和歌集』小島憲之・新井栄蔵、岩波書店、1989年、274ページ)
 

たかさご【高砂】

 一般的には播磨国の歌枕として、今の兵庫県高砂市のこととする。高砂は本来加古川(かこがわ)の河口にできた三角洲で、「たか・いさご(高砂)」が約されたものかといわれている。しかし、和歌でよまれる場合は、本来的には、固有名詞ではなく普通名詞として小高い丘をいったようである。「高砂の尾上(をのへ)」と続けるのもそのためであり、『後撰集』にある素性法師の歌「山守(やまもり)は言はば言はなむ高砂の尾上(をのへ)の桜折りてかざさむ」が京都の花山にてよんだ歌であることによってもそれはわかる。なお、このことは『俊成髄脳』『奥義抄』『袖中抄』などの平安期の歌学書がすでに指摘しているところである。
 それでは、播磨国の地名として高砂をよんだ最初の歌は何か。「身のいたづらになりはてぬることを思ひなげきて、播磨にたびたびかよひはべりけるに、高砂の松を見て」という詞書を持つ『後拾遺集』雑三・藤原義定の「我のみと思ひこしかど高砂の尾上の松もまだ立てりけり」がそれだともいえようが、早く『古今集』の仮名序に「高砂・住の江の松も相生のやうにおぼえ(※高砂の松も、住の江の松も、一つの根から二つの幹が生えて、一緒に成長するように思われて 引用者補)」と「住の江」と対照させている「高砂」はすでに地名であったと思わざるを得ないのである。
 この『古今集』仮名序が言うように「高砂」の場合でも「高砂の尾上」の場合でも、「松」をよむことが多く、「かくしつつ世をや尽くさむ高砂の尾の上に立てる松ならなくに」(古今集・雑上・読人不知)「誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに」(古今集・雑上・興風、百人一首)など、常緑樹の松に託して不変のイメージを表現するのが普通であった。今も結婚式などで謡われることの多い謡曲「高砂」は世阿弥の作であるが、前掲の『古今集』仮名序の「高砂・住の江の松も相生のやうにおぼえ」によって松の寿命の長さを称して人の世を寿(ことほ)ぐことをテーマにしたものである。(後略)
歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

▽「『高砂の松』は、かな序(一〇頁)では親しさをいう景物」(『新日本古典文学大系 古今和歌集』274ページ)

▽「高砂の松こそ…古きことを語らふべきと思ふに、それも又昔の友ならねば…といふにや」(両度聞書)。(『新日本古典文学大系 古今和歌集』274ページ)
 

なくに

〘連語〙
《打消の助動詞ズのク語法ナクと助詞ニとの複合》
…でないのに。「明日香川川淀(かはよど)去らず立つ霧の思ひ過ぐべき恋にあら―」〈万三二五〉。「花だにもまだ咲か―うぐひすの鳴く一声を春と思はむ」〈後撰三六〉
 

作者:藤原興風(ふじわらのおきかぜ)について

生没年未詳。藤原興風の生まれた年と死んだ年はよくわかっていません。

官位はあまり高くありませんでした。昌泰(しょうたい)3年(900)に相模掾(さがみのじょう)、延喜(えんぎ)14年(914)に下総権大掾(しもうさのごんのだいじょう)になりました。

「じょう」とは、官庁の幹部を「かみ・すけ・じょう・さかん」の4階級に分けたなかの、上から3番目の地位です。相模はいまの神奈川県、下総はいまの千葉県です。

四等官(かみ・すけ・じょう・さかん)

四等官(かみ・すけ・じょう・さかん)

上総・下総

上総・下総

興風は、『寛平御時后宮歌合』(かんぴょうのおおんとき きさいのみや うたあわせ)にも歌が残っているので、宇多(うだ)天皇の周辺で和歌をよくよんだ人物と思われます。

※『寛平御時后宮歌合』は、宇多天皇の母親(すなわち光孝天皇の后)の班子(はんし)が主催した歌合(うたあわせ)(左右にわかれて和歌の優劣をきそう遊び)です。
 

三十六歌仙(さんじゅうろっかせん)

藤原興風は三十六歌仙の一人にあげられます。

三十六歌仙とは、平安時代中期に藤原公任(ふじわらのきんとう)(966~1041年)がつくった『三十六人集』(『三十六人撰』とも言う)にもとづく36人のすぐれた歌人のことです。

人麿・貫之・躬恒・伊勢・家持・赤人・業平・遍昭・素性・友則・猿丸大夫・小町・兼輔・朝忠・敦忠・高光・公忠・忠岑・斎宮女御・頼基・敏行・重之・宗于・信明・清正・順・興風・元輔・是則・元真・小大君・仲文・能宣・忠見・兼盛・中務

人麿・貫之・躬恒・伊勢・家持・赤人・業平・遍昭・素性・友則・猿丸大夫・小町・兼輔・朝忠・敦忠・高光・公忠・忠岑・斎宮女御・頼基・敏行・重之・宗于・信明・清正・順・興風・元輔・是則・元真・小大君・仲文・能宣・忠見・兼盛・中務

 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

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あきぜにぎりすはるぎて
あきたのこころてにはるよの
ぬればこころかたの
あさふのひとをひといさ
あさぼらけたびはひとをし
あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

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都内の私立大学 文学部国文学専攻出身
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その他、趣味で始めたプログラミングに関することや、通信制大学(放送大学)、各種資格試験の体験談などについても、記事にまとめております。


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