滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こえけれ
小倉百人一首から、大納言公任の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。
また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。
ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。
目次
原文
画像転載元国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162
翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)
釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)
大納言公任
滝の音は 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ
字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)
現代語訳(歌意)・文法解説
※大覚寺(だいかくじ)に人々がたくさんやってきて、古い滝を歌によみましたとき、よんだ歌。
滝の流れ落ちる音は、聞えなくなってから長い時間が経ったが、その評判は世間に流れて今も知られている。
※係助詞「こそ」は已然形で結びます。係り結びは「ぞ・なむ・や・か=連体、こそ=已然形」とまとめて覚えます。その他の助詞の解説は「古典の助詞の覚え方」をご覧ください。また、助動詞の活用や接続は「古典の助動詞の活用表の覚え方」にまとめましたので、あわせてご覧ください。
※長保(ちょうほう)元年(999)九月十二日、藤原道長(みちなが)嵯峨遊覧の折の歌。(『新日本古典文学大系 拾遺和歌集』小町谷照彦、岩波書店、1990年、127ページ)
語釈(言葉の意味)
※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
詞書(ことばがき)
※詞書とは、和歌のよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前に置かれます。
大学寺に人々あまたまかりたりけるに、古き滝を詠(よ)み侍(はべり)ける(※大覚寺に人々がたくさんやってきて、古い滝を歌によみましたとき、よんだ歌。)
※注
○大学寺
大覚寺。嵯峨天皇(さがてんのう)の御所があった所。その滝殿は景勝を誇ったが、この頃は既に無かった。
※詞書と注の引用は『新日本古典文学大系 拾遺和歌集』(127ページ)によります。
絶ゆ
●た・え
〘下二〙
①中途で切れる。「設弦(うさゆづる)―・えば継がむを」〈紀歌謡四六〉。「草枕旅の丸寝の紐―・えば」〈万四四二〇〉
な【名】
①物・人・観念を他と区別するために呼ぶ語。まなえ。「酒の―聖(ひじり)と負ほせし古への大き聖の言(こと)のよろしさ」〈万三三九〉。「妹が―呼びて袖そ振りつる」〈万二〇七〉
③世間への聞え。評判。「妹が―も我が―も立たば惜しみこそ」〈万二六九七〉
きこゆ
●きこ・え【聞え】
一〘下二〙
➊《聞キの自発・可能・受身の形。エは自然にそうなる意》
①(自然に)耳に入る。「恋ふれども〔恋人ノ〕ひと声だにもいまだ―・えず」〈万四二〇九〉
②(人人の)耳に入る。広く評判である。「神の如(ごと)―・ゆる滝の白浪の」〈万三〇一五〉。「これむかし名だかく―・えたるところなり」〈土佐二月九日〉
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