81~90番歌

百人一首の意味と文法解説(86)なげけとて月やは物を思はするかこち顔なるわが涙かな┃西行法師

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-86

投稿日:2018年3月12日 更新日:

嘆けとて月やはものを思はするかこち顔なるわが涙かな

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小倉百人一首から、西行法師の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

原文

ogura-hyakunin-isshu-86

百人一首(86)なげけとて月やは物を思はするかこち顔なるわが涙かな

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-86

百人一首(86)なげけとて月やは物を思はするかこち顔なるわが涙かな

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

西行法師
嘆けとて 月やは物を 思はする かこち顔なる わが涙かな
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-86

百人一首(86)なげけとて月やは物を思はするかこち顔なるわが涙かな

現代語訳(歌意)・文法解説

※「月前(げつぜん)の恋」といったことをよんだ歌。

「嘆け」と言って、月は私に物思いをさせるのか、いや、そうではない。つれない恋人のせいだ。それなのに月のせいにして、うらめしそうな顔つきで流れ落ちる私の涙であることだ。

なげけとて月やは物を思はするかこち顔なるわが涙かな

なげけとて月やは物を思はするかこち顔なるわが涙かな

※三句切れ。係り結びが切れ目となる場合が多いです。

※「とて」は人の話した内容や考えを引用するときに使います。古文を読むときは、「と」「とて」の直前を、「」でくくったり、「。」を打ったりすると、文の意味を把握しやすくなる場合が多いです。

※「やは」は反語(はんご)(~だろうか、いや、…でない)の意味を表す係助詞で、連体形で結びます。「やは・かは・めや」は反語の係助詞としてまとめて覚えます。また、「や・か」も反語の意味を表す場合があります。
 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌がよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前につけられます。

月前恋といへる心をよめる(※「月前(げつぜん)の恋」といったことをよんだ歌。)

※詞書の引用は『新日本古典文学大系 千載和歌集』(片野達郎・松野陽一、1993年、岩波書店、278ページ)によります。
 

やは

(※反語の係助詞:~だろうか、いや、…ではない)
 

もの

●もの【物・者】
一〘名〙
➊物体・物品などを一般的にとらえて指す。「いとのきて短き―の端(はし)切ると言へるが如く」〈万八九二〉。「みどり児の乞ひ泣くごとに取り与ふる―し無ければ」〈万二一〇〉。「内蔵寮(くらづかさ)納殿(をさめどの)の―(品物)をつくして、いみじうせさせ給ふ」〈源氏桐壺〉。「さるは、たよりごとに―(贈物)も絶えず得させたり」〈土佐二月十六日〉。「散るまでも我が―にして花は見てまし」〈後撰一〇一〉
➌《対象の性質や状態が、はっきりとは言えないが、ともかく意識の対象となる存在》
①いろいろの状態・事態。「ねもころに―や悲しききりぎりす草のやどりにこゑたえず鳴く」〈後撰二五八〉。「右近は―も覚えず、君につと添ひ奉りて、わななき死ぬべし」〈源氏夕顔〉

●ものおも・ひ ‥オモイ 【物思ひ】
一〘四段〙
胸のうちで思いにふける。物ごとを、悩み煩う。「春山の霧に惑(まと)へる鶯も我にまさりて―・はめや」〈万一八九二〉
二〘名〙
思い悩むこと。心配すること。「光なき谷には春もよそなれば咲きてとく散る―もなし」〈古今九六七〉。「―絶ゆまじき身かなと思ふ」〈和泉式部日記〉
 

かこち顔なる

他のせいにするような様子で。月がもの思いをさせるかのように。(『新日本古典文学大系 千載和歌集』278ページ)
 

かこち顔

●かこ・ち【託ち】
〘四段〙
《カコトの動詞化。相手に関係があるとして、自分の行為の口実にし、また、相手に原因や責任をかぶせるように言うのが原義》
①口実にする。かこつける。「酔ひに―・ちて苦しげにもてなして、明くるも知らず顔なり」〈源氏藤裏葉〉
③相手に愚痴・不平を言う。「例の物の怪の入りたるなめりなど、いと若くをかしき顔して―・ち給へば」〈源氏横笛〉

●―がほ ガオ 【託ち顔】
うらめしそうな顔つき。「嘆けとて月やは物を思はする―なる我が涙かな」〈千載九二五〉
 

なる

(※断定の助動詞「なり」連体形)
 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

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いまむと ちぎりきし やまはに
いまただ ちぎり やまとは
りける やぶる されば
みわび みれば のとを
やまに ばねの よのなか
にきく ながらむ よのなか
おほやま ながへば すがら
おほなく なげつつ こめて
ひわび なげとて わがほは
とだに のよは わがでは
さぎの なにおはば わするる
かぜよぐ なには わすじの
かぜいたみ なには わたのはら
きみがため はなそふ わたのはら
きみがため はないろは ぬれば
らやま

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都内の私立大学 文学部国文学専攻出身
お菓子メーカー勤務のサラリーマン
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