思ひわびさても命はあるものをうきにたへぬは涙なりけり
小倉百人一首から、道因法師の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。
また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。
ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。
目次
原文
画像転載元国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162
翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)
釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)
道因法師
思ひわび さても命は あるものを 憂きに堪へぬは 涙なりけり
字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)
現代語訳(歌意)・文法解説
※この和歌の題やよまれた事情はあきらかでない。
つれない恋人を思いつづけて、もはや物思いにふける気力すら失っても、それでも命はあるのだが、つらさにこらえきれないのは涙で、たえずこぼれ落ちつづけることだ。
※連用中止法。連用形で文が切れずにつづくことを言います。接続助詞の「て」を補っても意味は変わりません。
※過去の助動詞「けり」が和歌で使われる場合、一般的に、詠嘆(えいたん)(~だなあ)の意味で訳します。
語釈(言葉の意味)
※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
詞書(ことばがき)
※詞書とは、和歌がよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前につけられます。
題不知(だいしらず)(※和歌の題やよまれた事情が明らかでないこと。)
※詞書の引用は『新日本古典文学大系 千載和歌集』(片野達郎・松野陽一、1993年、岩波書店、247ページ)によります。
思ひわび
恋人の薄情さを恨みわが身の憂さを歎き悲しんで。(『新日本古典文学大系 千載和歌集』247ページ)
わぶ
一〘上二〙
《失意・失望・困惑の情を態度・動作にあらわす意》
①気落ちした様子を外に示す。落胆した様子を見せる。「吾無しとな―・びわが背子ほととぎす鳴かむ五月は玉を貫かさね」〈万三九九七〉。「言はむすべもなくせむすべも知らに、悔しび賜ひ―・び賜ひ」〈続紀宣命五一〉
⑧《動詞連用形について》…する気力を失う。…する力がぬける。「里遠み恋ひ―・びにけりまそ鏡面影さらず夢に見えこそ」〈万二六三四〉
さても
一〘接続〙
それにしても。それはそうと。ところで。話題を変える時に用いる。「愛敬のはじめは日選(え)りして聞こし召すべきことにこそ。―、ねのこは幾つか仕うまつらすべうはべらむ」〈源氏葵〉
百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認
こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。