91~100番歌

百人一首の意味と文法解説(97)来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ┃権中納言定家

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-97

投稿日:2018年3月12日 更新日:

来ぬ人を松帆の浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ

小倉百人一首から、権中納言定家(藤原定家)の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

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原文

ogura-hyakunin-isshu-97

百人一首(97)来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-97

百人一首(97)来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ

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釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

権中納言定家
来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-97

百人一首(97)来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ

現代語訳(歌意)・文法解説

※建保(けんぽう)6年(1218年)の内裏(だいり)歌合せでよまれた恋の歌。

いつまで経っても来ない恋人を待っております。松帆の浦の風がやんだ夕方、その時に焼く藻塩のように、私の身も恋い焦がれながら。

来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ

来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ

掛詞(かけことば)。音が同じことを利用して二つの意味を表すことです。「まつ」が「待つ」と「松」の二つの意味を表し、「松帆の浦」を導きます。

※「藻塩の」の「の」は連用修飾(~のように)の意味を表す格助詞です。格助詞の「の」には、①主格、②連体修飾、③同格、④体言の代用、⑤連用修飾、の5つの用法がありますが、ここでは連用修飾の意味です。その他の用法は「古文の助詞の覚え方」でご確認ください。

 
▽定家が百人秀歌に撰し百人一首にも入る。歌合では順徳天皇の「よる浪のおよばぬ浦の玉松のねにあらはれぬ色ぞつれなき」に勝つ。衆議判で定家が記した判詞は「及ばぬ浦の玉松、及び難く有り難く侍るよし、右方申し侍りしを、常に耳なれ侍らぬ松帆の浦に、勝の字を付けられ侍りにし、何故とも見え侍らず」で、定家自身「松帆の浦」が万葉以来用例希少な歌枕と認識。(『和歌文学大系 新勅撰和歌集』中川博夫、2005年、明治書院、328ページ)
 

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語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌がよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前につけられます。

建保六年内裏歌合、恋歌(※建保(けんぽう)6年(1218)の内裏(だいり)歌合せの、恋の歌。)

※詞書の引用は『和歌文学大系 新勅撰和歌集』(162ページ)によります。
 

(※打消の助動詞「ず」連体形)
 

ひと【人】

➊物や動物に対する、人間。「わくらばに―とはあるを、人並みに吾も作るを」〈万八九二〉。「―ならば母が最愛子(まなご)そあさもよし紀の川の辺の妹と背の山」〈万一二〇九〉
➌《深い関心・愛情の対象としての人間》①意中の人物。夫。恋人。「わが思ふ―の言(こと)も告げ来ぬ」〈万五八三〉。「人柄は、宮の御―にて、いとよかるべし」〈源氏藤袴〉
 

まつほの浦

(※「待つ」を導く)

●まつほのうら【松帆浦】

淡路島の最北端、岩屋の西の海辺。『万葉集』巻六の笠金村の長歌に「……淡路島 松帆の浦に 朝なぎに 玉藻刈りつつ 夕なぎに 藻塩焼きつつ あま乙女 ありとは聞けど……」とよまれているが、これを踏まえて定家の「こぬ人を松帆の浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ」(新勅撰集・恋三、百人一首)がよまれ有名になった。しかしほかに歌例は必ずしも多くない。
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

夕凪

●ゆふなぎ ユウ‥ 【夕凪】
海岸で、夕方、海風と陸風とが吹きかわる間、しばらく風がやむこと。「―にあさりする鶴(たづ)」〈万一一六五〉
 

焼くや藻塩の

焼く藻塩のような。五句を起こす。「や」は間投助詞。(『和歌文学大系 新勅撰和歌集』328ページ)
 

藻塩

●もしほ ‥シオ 【藻塩】
海藻からとる塩。海藻を簀子(すのこ)の上に積み、海水をかけて塩分を多くし、焼いて水にとかし、その上澄みを釜(かま)で煮つめて作る。「夕なぎに―焼きつつ」〈万九三五〉

●もしほやく【藻塩焼(もしおや)く】

(前略)なお、「須磨の海人」がよまれることが多いのは『古今集』の「須磨の海人の塩焼く煙風をいたみ思はぬ方にたなびきにけり」(恋四・読人不知)が有名だったからである。(後略)
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

焦がれつつ

恋の思いに焦がれながら。「焼く」と縁語で焼く塩が焦がれる意を掛ける。(『和歌文学大系 新勅撰和歌集』328ページ)
 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。

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あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
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しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

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