61~70番歌

百人一首の意味と文法解説(62)よをこめて鳥のそらねははかるともよに逢坂の関は許さじ┃清少納言

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-62

投稿日:2018年3月12日 更新日:

夜をこめて鳥の空音ははかるともよにあふ坂の関は許さじ

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小倉百人一首から、清少納言の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

原文

ogura-hyakunin-isshu-62

百人一首(62)夜をこめて鳥のそらねははかるともよに逢坂の関は許さじ

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-62

百人一首(62)よをこめて鳥のそらねははかるともよに逢坂の関は許さじ

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

清少納言
夜をこめて 鳥の空音は はかるとも よにあふ坂の 関は許さじ
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-62

百人一首(62)よをこめて鳥のそらねははかるともよに逢坂の関は許さじ

現代語訳(歌意)・文法解説

※この歌の作者である清少納言(せいしょうなごん)が、藤原行成(ふじわらのゆきなり)とお話などしておりましたが、行成が「帝(みかど)の御物忌みなので、おそばに控えていなければなりません」と言って、夜ふけに急いで帰っていったその翌朝、行成が「鶏が朝を告げる鳴き声にうながされて、名残り惜しいと思いながらも急いで帰ったのです」と手紙をよこしましたので、清少納言は「夜ふけに鳴いた鶏の声は、あの函谷関の故事のように、うそ偽りの鳴き声なのでしょうね」と書いて送ったところ、行成からすぐに返事が届いて、「これは函谷関ではなく、逢坂の関ですよ」と書いてあったので、よみました歌。

夜が深いうちに、鶏の鳴きまねをしてだまそうとしても、函谷関で通行が許されたのとは異なって、私があなたと逢うという、その逢坂の関は、決してお通りになれますまい。

夜をこめて鳥のそらねははかるともよに逢坂の関は許さじ

夜をこめて鳥のそらねははかるともよに逢坂の関は許さじ

※「」は打消意志・打消推量の助動詞で、未然形に接続します。未然形接続の助動詞は「る・らる・す・さす・しむ・ず・じ・む・むず・まし・まほし・ふ・ゆ」の13種類です。助動詞の解説は「古典の助動詞の活用表の覚え方」をご覧ください。

※「よに」は呼応(こおう)の副詞です。後ろに否定表現を伴って、「まったく~ない」「けっして~ない」の意味を表します。否定を意味する呼応の副詞は、「あへて・おほかた・かけて・さらに・すべて・たえて・つやつや・ゆめゆめ・つゆ・よに」です。ヨドバシカメラのCMソングでまとめて覚えます。

まったく・けっして~ない

まったく・けっして~ない

 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌のよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前につけられます。

大納言(だいなごん)行成(ゆきなり)物語りなどし侍(はべり)けるに、内の御物忌(おんものいみ)に籠(こも)ればとて、急ぎ帰りてつとめて、鳥の声に催されてといひおこせて侍ければ、夜(よ)深(ふか)かりける鳥の声は函谷関(かんこくかん)のことにやといひにつかはしたりけるを、立ち帰り、これは逢坂の関に侍りとあれば、よみ侍りける

※詞書の訳
この歌の作者である清少納言が、藤原行成とお話などしておりましたが、行成が「帝の御物忌みなので、おそばに控えていなければなりません」と言って、夜ふけに急いで帰っていったその翌朝、行成が「鶏が朝を告げる鳴き声にうながされて、名残り惜しいと思いながらも急いで帰ったのです」と手紙をよこしましたので、清少納言は「まだ深夜の内に鳴いた鶏の声は、あの函谷関の故事のように、うそ偽りの鳴き声なのでしょうね」と書いて送ったところ、行成からすぐに返事が届いて、「これは函谷関ではなく、逢坂の関ですよ」と書いてあったので、よみました歌。

※注
○内の御物忌 内裏の物忌。(※天皇の物忌。侍臣はその間殿上の間に伺候している。(『新編日本古典文学全集 枕草子』松尾聡・永井和子、1997年、小学館、244ページ))
○鳥の声に催されて 鶏の声に促されて。(※わざと後朝(きぬぎぬ)の文(ふみ)めかしたのである。(『新編日本古典文学全集 枕草子』244ページ))
○夜深かりける鳥の声 まだ深夜のうちに鳴いた鶏の声。
○函谷関 中国河南省北西部の交通の要衝。秦を逃れた孟嘗君(もうしょうくん)が、鶏鳴を巧みに真似る食客(しょっかく)の働きで関門を開けさせ、通過したという故事(史記・孟嘗君伝)によって著名。

※詞書本文と注の引用は特記のない限り『新日本古典文学大系 後拾遺和歌集』(久保田淳・平田喜信、1994年、岩波書店、302ページ)によります。

※『枕草子』の該当箇所はこちらからご覧になれます。

枕草子「頭の弁の、職に参り給ひて」現代語訳 – 百人一首のとりのそらね


 

こめて

こ・め【込め・籠め】
〘下二〙《コミ(込)の他動詞形》
①深くしまう。つつむ。「貌(かほ)が花な咲き出でそね―・めて偲はむ」〈万三五七五東歌〉
②あたりをすっかりおおう。いっぱいになる。「霞―・めたる眺めのたどたどしさ」〈十六夜日記〉
 

とりのそらね

●そらね【空音】
①偽ってまねる声。「夜をこめて鳥の―ははかるともよに逢坂の関はゆるさじ」〈後拾遺集九四〇〉。「―か正音(まさね)か、現(うつつ)なの鳥の心や」〈閑吟集〉

●とりのそらね【鳥の空音】
鶏の鳴きまね。「夜をこめて―ははかるともよに逢坂の関はゆるさじ。心かしこき関守はべり」〈枕一三六〉
▽鶏鳴までは開門しないきまりの函谷関で、従者に鶏の鳴きまねをさせて関守をだまし、夜中に開門させた孟嘗君の故事による。
 

はかる

はか・り【計り・量り】
一〘四段〙《ハカ(量・捗)の動詞化。仕上げようと予定した仕事の進捗状態がどんなかを、広さ・長さ・重さなどについて見当をつける意》
①予測する。推測する。見当をつける。「みづから忖(はか)るに、衆の病を救療するに堪能しぬべしとおもひぬ」〈金光明最勝王経平安初期点〉。「あに―・りきや、太政官の地の今やかうの庭とならむことを」〈枕一六一〉
⑥だます。「誠はいと少なからむを、…すずろごとに心を移し、―・られ給ひて」〈源氏螢〉
 

よに【世に】

〘副〙
①《打消の語を伴って》決して。断じて。「我が妻はいたく恋ひらし飲む水に影(かご)さへ見えて―忘られず」〈万四三二二〉。「すきがましきさまには―見え奉らじ。思ふ事すこし聞ゆべきぞ」〈源氏帚木〉
 

あふさか【逢坂・相坂(おうさか)】

 一般には「逢坂」と書くが、藤原定家は「相坂」と書くことが多かった。『五代集歌枕』『八雲御抄』等、古来の歌枕書は近江国とするが、近江・山城の国境の山が逢坂山である。ただしその中心をなす逢坂の関はまさしく近江国にある。
 逢坂の関は大化二年(六四六)の設置であるが、延暦十四年(七九五)平安遷都の頃に一時廃止され(日本紀略)、その後天安元年(八五七)に再び設置された(文徳実録)。(中略)
 さて、平安時代の歌の常として、この「逢坂」、あるいは「逢坂の関」をも恋の歌のテクニカル・タームにしてしまう。当時、男女が逢うことはすなわち契りをかわすことであったので、「逢坂の関」を越えるということは、許されない男女が一線を越えて結ばれるということであった。「思ひやる心は常にかよへども逢坂の関越えずもあるかな」(後撰集・恋一・三統公忠)「人知れぬ身はいそげども年をへてなど越えがたき逢坂の関」(同・恋三・伊尹)など、例は多い。(後略)
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

補足:逢坂の関の地図

※逢坂の関は京都府と滋賀県の境にありました。

逢坂の関

逢坂の関

(※逢坂山の周辺地図は公益社団法人 びわこビジターズビューローで見られます。)
 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

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あきぜに ぎりす はるぎて
あきたの こころてに はるよの
ぬれば こころ かたの
あさふの ひとを ひといさ
あさぼらけ たびは ひとをし
あさぼらけ すてふ くからに
ひきの やこの ととぎす
あはしま びしさに みかもり
あはとも ぶれど みかはら
みての つゆに ばやな
あふとの みのえの のくの
あまかぜ をはやみ しのの
あまはら さごの らさめの
あららむ のおとは ぐりあひて
あらふく のうらに しきや
ありけの わかれ ともに
ありやま のをよ らはで
しへの をかも むぐら
いまむと ちぎりきし やまはに
いまただ ちぎり やまとは
りける やぶる されば
みわび みれば のとを
やまに ばねの よのなか
にきく ながらむ よのなか
おほやま ながへば すがら
おほなく なげつつ こめて
ひわび なげとて わがほは
とだに のよは わがでは
さぎの なにおはば わするる
かぜよぐ なには わすじの
かぜいたみ なには わたのはら
きみがため はなそふ わたのはら
きみがため はないろは ぬれば
らやま

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都内の私立大学 文学部国文学専攻出身
お菓子メーカー勤務のサラリーマン
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