71~80番歌

百人一首の意味と文法解説(72)音に聞く高師の浜のあだ波はかけじや袖の濡れもこそすれ┃祐子内親王家紀伊

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-72

投稿日:2018年3月12日 更新日:

音に聞くたかしの浜のあだ波はかけじや袖の濡れもこそすれ

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小倉百人一首から、祐子内親王家紀伊の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

原文

ogura-hyakunin-isshu-72

百人一首(72)音に聞く高師の浜のあだ波はかけじや袖の濡れもこそすれ


画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-72

百人一首(72)音に聞く高師の浜のあだ波はかけじや袖の濡れもこそすれ

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

祐子内親王家紀伊
音に聞く たかしの浜の あだ波は かけじや袖の 濡れもこそすれ
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-72

百人一首(72)音に聞く高師の浜のあだ波はかけじや袖の濡れもこそすれ

現代語訳(歌意)・文法解説

※藤原俊忠(ふじわらのとしただ)に贈られた歌に、答えてよんだ歌(※後述)。

評判の高い高師の浜のいたずらに立ち騒ぐ波のように、有名な浮気者のあなたを心に掛けることはいたしません。涙で袖を濡らすことになるといけないから。

音に聞く高師の浜のあだ波はかけじや袖の濡れもこそすれ

音に聞く高師の浜のあだ波はかけじや袖の濡れもこそすれ

掛詞(かけことば)。音が同じことを利用して、二つの意味を表すことを言います。

※縁語(えんご)。ある言葉と縁(関係)のある言葉を強引によみこむことを言います。

※係助詞「こそ」は已然形で結びます。係り結びは「ぞ・なむ・や・か=連体、こそ=已然形」とまとめて覚えます。

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ


 

藤原俊忠の歌

堀河院御時(ほりかはゐんのおほんとき)の艶書合(けさうぶみあはせ)によめる

人しれぬ思ひありその浦風(うらかぜ)に波のよるこそ言はまほしけれ

現代語訳

堀河(ほりかわ)天皇の時代の、康和(こうわ)四年(1102)閏(うるう)五月、内裏(だいり)艶書(けそうぶみ)歌合(うたあわせ)でよんだ歌。

人知れぬ恋の思いがありますが、荒磯の浦風によって波が寄る、そのような夜にこそ、あなたにこの思いを打ち明けたいのです。

※注
○ありその浦 荒磯の浦。普通名詞か。地名とも。「思ひあり」を懸ける。
○波のよる 「波の」までが序詞。「寄る」に夜を懸ける。

※詞書と歌、そして注の引用は『新日本古典文学大系 金葉和歌集 詞花和歌集』(川村晃生・柏木由夫・工藤重矩、1989年、岩波書店、133ページ)によります。
 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌のよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前に置かれます。

返し(※贈られた歌に答えてよむ歌。返歌。返し歌。)

※詞書の引用は『新日本古典文学大系 金葉和歌集 詞花和歌集』(133ページ)によります。
 

音に聞く

●おと【音】
①響き。「沖辺(おきへ)の方に楫の―すなり」〈万三六二四〉。「風の―、虫のね」〈源氏桐壺〉
③噂。風聞。「―のみも名のみも聞きて」〈万四〇〇〇〉

○音に聞く
有名な。音が波の縁語。(『新日本古典文学大系 金葉和歌集 詞花和歌集』133ページ)
 

たかしのはま【高師浜】

『万葉集』に「大伴の高師の浜の松が根を枕に寝(ぬ)れど家し偲ばゆ」(巻一)とよまれ、『古今集』に「沖つ浪高師の浜の浜松の名にこそ君を待ちわたりつれ」(雑上・貫之)とよまれたのは和泉国、今の大阪府高石市の海岸であろう。今は臨海工業地帯になっているが、以前は白砂青松の景勝地として有名であった。『百人一首』で有名な「音に聞く高師の浜のあだ浪はかけじや袖の濡れもこそすれ」(金葉集・恋下・祐子内親王家紀伊)もここをよんだものであろう。(後略)
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

補足:高師の浜の地図

※高師の浜(高師の浦)と考えられている大阪府高石市の地図です。

高師浜:大阪府高石市

高師浜:大阪府高石市


 

あだなみ【徒波】

いたずらに立ち騒ぐ波。恋の歌で相手のうわついた心によそえていう事が多い。「浅き瀬にこそ―は立て」〈古今七二二〉
 

かけ

(※波を「かけ」と、思いを「かけ」を掛ける。)
 

●そで【袖】

 (前略)しかし、「袖」によって連想されるものは、やはり「涙」である。「天の川恋しき瀬にぞ渡りぬるたきつ涙に袖は濡れつつ」(後撰集・秋上・読人不知)「つれづれのながめにまさる涙川袖のみ濡れて逢ふよしもなし」(古今集・恋三・敏行)のように「涙」に「濡れ」、「契りきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山浪越さじとは」(後拾遺集・恋四・元輔、百人一首)のように「袖をしぼり」、「我ながら思ふか物をとばかりに袖にしぐるる庭の松風」(新古今集・雑中・有家)のように「袖」が「時雨」に濡れそぼち、「ぬばたまの夜渡る月をおもしろみ吾が居る袖に露ぞおきにける」(万葉集・巻七)のように「時雨」や「露」が袖を濡らし、「袖の雫(しづく)」(伊勢物語・七十五段)「袖の滝つせ」(新拾遺集・恋一)などにもたとえられたが、いっぽうそのように落ちる涙をとめるものとして「袖」を「柵(しがらみ)」(拾遺集・恋四)として用いたりもした。(後略)
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

●袖を絞・る
涙でぬれた袖をしぼる。袖をしぼるほど涙を流して泣く。「上一人より下万人に至るまで―・らぬはなかりけり」〈保元下・為義の北の方〉
 

もこそ

〘助〙
《不確実な推量や、打消と呼応する係助詞モと、強調を示す係助詞コソとの複合。将来に対する危惧・懸念を表わす。 →もぞ》
…するといけないから。…があるといけないから。「あるまじき恥―と心づかひして」〈源氏桐壺〉。「人怪しみとがめ―すれと思してまかで給ふべき日参り給へり」〈源氏賢木〉
 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。

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あさぼらけ たびは ひとをし
あさぼらけ すてふ くからに
ひきの やこの ととぎす
あはしま びしさに みかもり
あはとも ぶれど みかはら
みての つゆに ばやな
あふとの みのえの のくの
あまかぜ をはやみ しのの
あまはら さごの らさめの
あららむ のおとは ぐりあひて
あらふく のうらに しきや
ありけの わかれ ともに
ありやま のをよ らはで
しへの をかも むぐら
いまむと ちぎりきし やまはに
いまただ ちぎり やまとは
りける やぶる されば
みわび みれば のとを
やまに ばねの よのなか
にきく ながらむ よのなか
おほやま ながへば すがら
おほなく なげつつ こめて
ひわび なげとて わがほは
とだに のよは わがでは
さぎの なにおはば わするる
かぜよぐ なには わすじの
かぜいたみ なには わたのはら
きみがため はなそふ わたのはら
きみがため はないろは ぬれば
らやま

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都内の私立大学 文学部国文学専攻出身
お菓子メーカー勤務のサラリーマン
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