古文の形容詞の活用を覚える方法を、一覧表を使ってご紹介します。ク活用・シク活用・補助活用、それぞれの種類の違いについても解説いたしますので、古典文法が苦手な方でも大丈夫です。覚え方は簡単で、音読が非常に効果的です。
目次
古文の形容詞の活用
まず、形容詞が古典文法の分類のどのあたりにあるのかご覧ください。下の表は覚えなくても大丈夫です。
古典の形容詞を覚えるための準備
形容詞の活用を覚えるために、まずはこれを順番どおりに言えるようになりましょう。すでに覚えている方は、この部分はとばしてOKです。
・未然(みぜん)
・連用(れんよう)
・終止(しゅうし)
・連体(れんたい)
・已然(いぜん)
・命令(めいれい)
「みぜん・れんよう・しゅうし・れんたい・いぜん・めいれい」と30回、音読しましょう。
また、音読にあわせて指を使うと覚えやすいです。私の場合は左手を使って、握りこぶしからスタートして、小指から順番に上げていきます。古文を読んでいて、品詞分解をするときも指を動かして考えることが多いです。
指に関しては、覚えるためというよりも、実際に古文を読む時に考えやすくするための方法です。終止形と中指が対応していたり、連体形と人差し指が対応していたりすると考えやすいんです。
上の順番が頭に入ったら、形容詞の活用を見ていきましょう。
形容詞のク活用
古文の形容詞にはク活用とシク活用がありますが、覚えるのはク活用だけでOKです。
以下のク活用を呪文のように30回、声に出して言ってみてください。自分の口を動かして、同時に自分の声を耳で聞くことにより、脳に刺激を与えることができるので、記憶に残りやすくなります。だから、音読は暗記に効果があります。
く、く、し、き、けれ、マル、から、かり、マル、かる、マル、かれ
「○(まる)」とは「そこには何もない」ということを示すものだと考えてください。何もないことがわかるなら、「○」でなくて、「×」でも「-」でも良いです。ただ、私は「○」で覚えましたし、助動詞の活用も「○」を使って覚えているので、「○」で解説します。
形容詞シク活用は覚えない
シク活用のほうは、上で覚えたク活用の頭に「シ」をくっつけるだけです(終止形はのぞく)。
例)
・く→しく
・かる→しかる
だから、ク活用が頭に入っていればシク活用を覚える必要はありませんね。
形容詞の活用表
以上をふまえて形容詞の活用表をご覧ください。
もちろん、形容詞にはほかにもたくさん種類があります。たとえば次のようなものです。
●ク活用
・あかし(赤し)
・しろし(白し)
●シク活用
・うつくし(美し)
・うれし(嬉し)
そのほかにもありますから、古文を読んでいて形容詞を見つけたら自分で調べてみてください。
補助活用(カリ活用)
活用表の下の部分、つまり「から、かり、○、かる、○、かれ」の部分を補助活用(ほじょかつよう)と言います。これは形容詞のうしろに助動詞がつく場合の活用です。
ク活用・憂し
ク活用の形容詞「憂(う)し」(※つらいことを意味する)を例にあげて見てみましょう。
●百人一首・藤原清輔(ふじわらのきよすけ)の和歌
ながらへばまたこの頃やしのばれむ憂しと見し世ぞ今は恋しき
訳)
生き長らえたら、やはり今この時が思い出されるのだろうか。つらいと思った世の中も、今ではなつかしく思われるのだから。
※歌のくわしい解説はこちらをご覧ください。
古文を読んでいると「と」を見かけることがありますが、これは、ここで誰かが言ったセリフが切れることを示します。つまり、「と」の前に「。」を打つようなイメージです。
言いきることによって文が終わるので、ここは終止形ですね。
次は連体形の例です。
●百人一首・壬生忠岑(みぶのただみね)の和歌
有明(ありあけ)のつれなく見えし別れより暁(あかつき)ばかり憂きものはなし
例)
月が空に残っているうちに夜明けになったそのころに、つめたく見えたあなたとの無情な別れ以来、暁の時間帯ほどつらいものはない。
※歌のくわしい解説はこちらをご覧ください。
うしろの体言(たいげん)(名詞のこと)に連(つら)なるので、連体形ですね。上の場合は「もの」という名詞にかかるので、これは連体形です。
それでは、補助活用の例を見てみましょう。
●百人一首・源俊頼(みなもとのとしより)の和歌
憂かりける人を初瀬(はつせ)の山おろしよはげしかれとは祈らぬものを
訳)
つれなくなった人を、初瀬の山おろしよ、その風がはげしく吹きつけるようにあの人がますますつれない態度をとるようにとは、いのらなかったのだが。
※歌のくわしい解説はこちらをご覧ください。
形容詞「憂し」の後ろに、過去(詠嘆)の助動詞「けり」が来るので、補助活用の形になります。そして、「けり」は連用形接続の助動詞なので、「憂し」は補助活用の連用形「憂かり」に変化して、「憂かりける」となります。けっして「憂くける」とは変化しません。
ちなみに、「はげしかれ」は「し」が入っているのでシク活用です。「はげしくなれ」という意味の命令形です。助動詞には命令形の接続はありませんし、形容詞の命令形は補助活用にしかありません。だからこのような形になるのです。
シク活用・惜し/愛し
さて、こんどはシク活用の形容詞「惜(を)し」「愛(を)し」(※もったいないこと、いとしいことを意味する)を例にあげて見てみましょう。
●百人一首・後鳥羽院(ごとばいん)の和歌
人も惜(を)し人もうらめしあぢきなく世を思ふゆゑ(え)にもの思ふ身は
訳)
どうにもならないと世の中を思うために、あれこれと物思いにふける私にとっては、人がいとしくも、うらめしくも思われる。
※歌のくわしい解説はこちらをご覧ください。
これは終止形なので、ここだけ見るとク活用かシク活用かわかりません。見分け方としては、後ろに否定(打消)を意味する「ず」、あるいは文が切れずに続くことを意味する「て」をつけてみるのがわかりやすいです。
今回は「て」をつけてみましょう。すると、もしもク活用なら「をくて」となって少し変です。一方、「をしくて」にすると自然に見えるので、シク活用と判断できます。
次に、補助活用の例を見てみましょう。
●百人一首・藤原義孝(ふじわらのよしたか)の和歌
君がため惜(を)しからざりし命さへながくもがなと思ひけるかな
訳)
あなたに会うために、惜しくはないと思った命までも、いまは長く生きていたいと思われることだ。
※歌のくわしい解説はこちらをご覧ください。
今回は「し」がはっきり見えるのでシク活用と判断しやすいです。「をし」の後ろに、助動詞があるので補助活用です。「ざり」は、否定(打消)の助動詞「ず」の連用形で、未然形接続です。したがって、「をし」は補助活用の未然形「をしから」になるというわけです。
音読が重要
形容詞はク活用を覚えればシク活用を覚えなくて良いので、とにかくク活用を何度も音読して覚えてしまいましょう。
補助活用の使い方も古文を読んでいるうちにわかるようになってきます。学校の授業でならう古文の文章も、何度も音読すると古文のリズムに慣れてきて、補助活用の使われ方もなんとなくわかるようになるのです。音読は暗記に効果があるので、ぜひためしてみてください。
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古典が苦手な方はこちらの記事もご確認ください。
>> 古典文法の勉強法(基礎編)わかりやすい覚え方で用言の活用形から学ぶ
また、百人一首を品詞分解して現代語訳と文法解説をつけたページもございますので、勉強のテキストとしてご利用ください。
>> 百人一首の現代語訳一覧(わかりやすい意味と解説で恋の歌も簡単に理解)
●参考文献
・『精選古典改訂版』北原保雄、平成21年、大修館書店
・『吉野の古典文法スーパー暗記帖』吉野敬介、2008年、学習研究社