古文の助動詞「る」「らる」には、受身・尊敬・可能・自発の4つの用法がありますが、「自発と可能、どっちの意味なのか区別がつかない」、「他の助動詞との違いが分からない」という悩みはよく聞かれます。
今回は、古典の「る」「らる」のそれぞれの意味を整理したうえで、その判別方法や使い分け、覚え方、接続、活用などについて、例文をまじえながら解説します。
- 「れ給ふ」「られ給ふ」の「る」「らる」は尊敬ではない
- 平安時代の「る」「らる」が可能の意味になるのは、打消し表現を伴う場合のみ(と一般的に考えられている)
- 「思ふ」「思す」などの感情を表す動詞といっしょに使われる自発の用例は多い(それぞれ「思はる」「思さる」の形)
目次
「る・らる」の活用
下二段型(下二段動詞と同じ)
基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
る | れ | れ | る | るる | るれ | れよ |
らる | られ | られ | らる | らるる | らるれ | られよ |
「る・らる」の接続
る 四段・ナ変・ラ変の未然形
らる 四段・ナ変・ラ変以外の未然形
「る・らる」の意味
- 受身「~れる・~られる」
- 尊敬「お~になる・~なさる」
- 可能「~れる・~られる・~ことができる」
- 自発「~れる・~られる・~自然と~れる」
①受身(うけみ)「~れる・~られる」
「る」「らる」の前に「…に」がある、または「…に」を補える場合は、受身と解釈します。
②尊敬(そんけい)「お~になる・~なさる」
高貴な人・身分が高い人(例:天皇・后・親王・公卿など)が動作の主体の時の「る」「らる」は、尊敬と解釈します。
また、尊敬の「る」「らる」が「給ふ」に接続して使われることはないと考えられています。そのため、「れ給ふ」「られ給ふ」という形で使われる「る」「らる」は、受身・可能・自発のいずれかの意味と解釈します。
③可能(かのう)「~れる・~られる・~ことができる」
可能の「る」「らる」は、平安時代以前の場合、打消・反語・「なし」の語と一緒に使われます。
可能の「る」「らる」が打消を伴わずに単独で使われるのは、中世になってからです(通説では)。
④自発(じはつ)「~れる・~られる・~自然と~れる」
感情を表す動詞(例:思ふ・偲ぶ・泣く)につく「る」「らる」は、自発の意味と解釈します。
また、自分の動作を表す場合も、自発と解釈するのが一般的です。この場合は、「(自然と)〜れる、〜られる」と訳せるので、可能表現とも考えられます。
自発と可能の区別があいまいであることは、文法書などでも指摘されています。
松尾聰は『改訂増補 古文解釈のための国文法入門』(改訂増補版・ちくま学芸文庫)の中で、源氏物語の二つの用例、「白たへの衣打つ砧の音もかすかにこなたかなた聞きわたされ(※砧の音もかすかに、あちらこちら自然と耳にして)」と、「いといたく荒れて人目もなくはるばると見渡されて(※荒れ果てて人目もなく、はるばると自然に見渡されて)」を引いて次のように述べています。
この後者の二例は、可能(可能の肯定)と解くことができるかもしれない、大体現代語で可能の意をあらわす「できる」という語も、「出で来る」から生まれた語で、「自然に発生出現する」意が本来であろうから、可能と自発が近いことは推察できよう。
(※『改訂増補 古文解釈のための国文法入門』松尾聰、2019年、ちくま学芸文庫、54ページ)
「る・らる」の意味の見分け方・識別方法
「る・らる」の四つの意味の識別方法をまとめると次のとおりです。
- 「…に」がある、補える → 受身
- 身分の高い人が主語 → 尊敬
- 感情を表す動詞に付く → 自発
- 打消表現と一緒 → 可能(不可能)
- 上記以外の肯定文 → 自発(中世以後なら可能と解釈してよい)
よく見られる「る・らる」の例
尊敬
- 仰せらる(おほせらる) …… 「おっしゃる」「命じる」
- 思さる(おぼさる) …… 「お思いになる」
自発(感情を表す動詞)
- 思はる(おもはる) …… 「自然に思われる」
- 思ひ出でらる(おもひいでらる) …… 「自然と思い出される」
- 思ひ嘆かる(おもひなげかる) …… 「悲しく思われる」
- 偲ばる(しのばる) …… 「自然となつかしく思い出される」
- 泣かる(なかる) …… 「泣かないではいられない」
自発(感情以外の動詞・可能表現に近い)
- 見やらる(みやらる) …… 「自然と遠くまで見える/視界が開けている」
可能(打消を伴って不可能の意味)
- 寝も寝られず(いもねられず) …… 「眠ることもできない」
存続・完了の助動詞「り」との区別など
存続・完了の助動詞「り」の接続は、サ変の未然形・四段の已然形です。どちらも「e (エ)」の母音で終わります。
そのため、「e + ら・り・る・れ」の形を見たら、まっさきに「存続・完了の『り』ではないか」と疑うことができます。
また、先ほど例示した「見やらる」を「見や + らる」と解釈するのは間違いです。このような間違いを防ぐには、動詞の活用と、「る」「らる」の接続を正確に覚えておく必要があります。
特に助動詞については、「活用は覚えているけれど、接続はうろ覚え」という場合がよくあります。
未然形接続・連用形接続・終止形接続(ラ変型には連体形接続)・それ以外、と接続ごとにまとめて覚えるのがおすすめです。
助動詞の接続・動詞については、以下からご確認いただけます。↓
>>古文(古典)の助動詞の意味と覚え方 – 活用表の一覧でまず接続を暗記
>>古文の動詞の活用と覚え方 – 見分け方のコツは種類の少ないものを暗記すること
※参考文献
・『実例詳解 古典文法総覧』小田勝、和泉書院、2015年
・『改訂増補 古文解釈のための国文法入門』松尾聰、筑摩書房(ちくま学芸文庫)、2019年
・『吉野式古典文法スーパー暗記帖 完璧バージョン』吉野敬介、学研プラス、2014年
※本文引用
・『新編日本古典文学全集 (26) 和泉式部日記 紫式部日記 更級日記 讃岐典侍日記』藤岡忠美・中野幸一・犬養廉・石井文夫、小学館、1994年
・『新編日本古典文学全集 (18) 枕草子』松尾聡・永井和子、小学館、1997年