71~80番歌

百人一首の意味と文法解説(76)わたのはら漕ぎ出でて見ればひさかたの雲居にまがふ沖つ白波┃法性寺入道前関白太政大臣

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-76

投稿日:2018年3月12日 更新日:

わたの原漕ぎ出でて見ればひさかたの雲居に紛ふ沖つ白波

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小倉百人一首から、法性寺入道前関白太政大臣(ほっしょうじにゅうどうさきのかんぱくだいじょうだいじん)(藤原忠通)の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

目次

原文

ogura-hyakunin-isshu-76

百人一首(76)わたのはら漕ぎ出でて見ればひさかたの雲居にまがふ沖つ白波

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-76

百人一首(76)わたのはら漕ぎ出でて見ればひさかたの雲居にまがふ沖つ白波

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

法性寺入道前関白太政大臣
わたの原 漕ぎ出でて見れば ひさかたの 雲居に紛ふ 沖つ白波
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-76

百人一首(76)わたのはら漕ぎ出でて見ればひさかたの雲居にまがふ沖つ白波

現代語訳(歌意)・文法解説

崇徳院(すとくいん)が天皇の位にいらっしゃったころ、「海上(かいじょう)の望遠(ぼうえん)」ということをよませなさった時によんだ歌。

広々とした海に舟を漕ぎだして見ると、雲と見分けのつかない沖の白波であることだ。

わたのはら漕ぎ出でて見ればひさかたの雲居にまがふ沖つ白波

わたのはら漕ぎ出でて見ればひさかたの雲居にまがふ沖つ白波

体言止め(たいげんどめ)。和歌を体言(名詞)でしめくくることを言います。

※枕詞(まくらことば)。意味や音から特定の言葉を導きだす言葉のことです。「ひさかたの」は「雲・光・月」など、空に関係する言葉をみちびきます(例:「ひさかたの光のどけき春の日に」)。

※「已然形 + ば」の形で「~なので」「~すると」などの意味を表します。それぞれの意味は文脈によって判断します。

順接確定条件

順接確定条件

助詞の解説は「古文の助詞の覚え方」にまとめましたのでご確認ください。

 
※「沖つ白波」の「つ」は「~の」を意味します(例:「あまつかぜ」)。

あまつかぜ:連体修飾の「つ」

あまつかぜ:連体修飾の「つ」

 

本歌取り

わたの原漕ぎいでて見れば久方の雲ゐも波のうちにぞありける(御室五十首・藤原家隆

※訳
広々とした海に舟を漕ぎだして見ると、雲も波のうちにまぎれて見えることだ。

※引用は『新日本古典文学大系 金葉和歌集 詞花和歌集』(川村晃生・柏木由夫・工藤重矩、1989年、岩波書店、340ページ)によります。
 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌のよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前に置かれます。

新院(しんゐん)位(くらゐ)におはしましし時、海上望遠といふことをよませ給(たまひ)けるによめる(※崇徳院(すとくいん)が天皇の位にいらっしゃった頃、「海上の望遠」ということをよませなさった時によんだ歌)

※注
○新院 崇徳院

※詞書本文と注の引用は『新日本古典文学大系 金葉和歌集 詞花和歌集』(340ページ)によります。
 

わたのはら

●わた【海】
うみ。「―の底沖つ深江の海上(うなかみ)の子負(こふ)の原に」〈万八一三〉

●わたのはら【海の原】
《後にワダノハラと濁音にも》
広広とした海。大海。「―八十島かけて漕ぎ出でぬと人には告げよあまの釣舟」〈古今四〇七〉。「―と云ふ時は、たを濁る。また清んでも読むぞ」〈古活字本日本書紀抄下〉

●わたのはら【海原】

「わたのそこ(海底)」は『万葉集』にあるが、「わたなか(海中)」「わたのはら」は『古今集』以後に用いられるようになったようである。広々とした大海のこと。隠岐へ流される時に小野篁がよんだという「わたの原八十島(やそしま)かけて漕ぎ出でぬと人には告(つ)げよ海人(あま)の釣舟」(古今集・羇旅、百人一首)はあまりにも有名であり、以後もその影響を受けた歌が多かった。「わたの原漕ぎ出でて見ればひさかたの雲居にまがふ沖つ白浪」(詞花集・雑下・忠通)「わたの原はるかに波をへだて来て都に出でし月を見るかな」(千載集・羇旅・西行)なども例外ではない。
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

ひさかたの【久方の】

〔枕詞〕
①「天(あめ)」、転じて「雨」にかかる。「―天金機(あめかなばた)」〈紀歌謡五九〉。「―雨は降りしく」〈万四四四三〉
②「月」「雲」「光」など、天空に関するものにかかる。「―月は照りたり」〈万三六七二〉。「―光のどけき」〈古今八四〉
 

くもゐ【雲居】

①空。「時つ風―に吹くに」〈万二二〇〉
③雲。「我家(わぎへ)の方よ―立ち来(く)も」〈記歌謡三二〉
 

まがふ

●まが・ひマガイ【紛ひ】
一〘四段〙
①目がちらちらするほどに散り乱れる。入り乱れる。「乎布(をふ)の崎花散り―・ひ」〈万三九九三〉。「麟の―(ほしし)豹の胎(はらこもり)玉畳に紛綸(まが)へり」〈遊仙窟(醍醐寺本)鎌倉期点〉
②まじりあって見分けがつかなくなる。「菅原や伏見のくれに見渡せば霞に―・ふをはつせの山」〈後撰一二四三〉
 

沖つ白波

(※沖の白波)
 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。

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あきぜにぎりすはるぎて
あきたのこころてにはるよの
ぬればこころかたの
あさふのひとをひといさ
あさぼらけたびはひとをし
あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

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