81~90番歌

百人一首の意味と文法解説(81)ほととぎす鳴きつるかたを眺むればただ有明の月ぞ残れる┃後徳大寺左大臣

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-81

投稿日:2018年3月12日 更新日:

ほととぎす鳴きつる方を眺むればただ有り明けの月ぞ残れる

Sponsored Link

小倉百人一首から、後徳大寺左大臣の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

目次

原文

ogura-hyakunin-isshu-81

百人一首(81)ほととぎす鳴きつるかたを眺むればただ有明の月ぞ残れる

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-81

百人一首(81)ほととぎす鳴きつるかたを眺むればただ有明の月ぞ残れる

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

後徳大寺左大臣
ほととぎす 鳴きつるかたを 眺むれば ただ有り明けの 月ぞ残れる
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-81

百人一首(81)ほととぎす鳴きつるかたを眺むればただ有明の月ぞ残れる

現代語訳(歌意)・文法解説

※「明け方にほととぎすの鳴き声を聞く」といったことをよみました歌。

ほととぎすが鳴いた方角に目を向けると、ただ夜明けの月だけが空に残っていることだ。

ほととぎす鳴きつるかたを眺むればただ有明の月ぞ残れる

ほととぎす鳴きつるかたを眺むればただ有明の月ぞ残れる

※「已然形 + ば」の形で、「~なので」「~すると」などの意味を表します。それぞれの意味は文脈によって判断します。

順接確定条件

順接確定条件

 
※「残れる」の「る」は存続・完了の助動詞「り」の連体形です。助動詞「り」は、サ変動詞の未然形と、四段動詞の已然形に接続するので、「さみしいリ(サ未四已)」と覚えます。

さみしい「リ」:存続・完了の「り」

さみしい「リ」:存続・完了の「り」

見分けるポイントは、直前が「e(エ)」の母音で終わっているかどうかです。「e(エ)」のうしろに「ら・り・る・れ」のいずれかが続いていたら、助動詞「り」ではないか、と考えるようにします。

e + ら・り・る・れ:存続・完了

e + ら・り・る・れ:存続・完了

まず存続(~ている)で訳してみて、意味が通らないと感じたら、完了(~た)で訳します。助動詞「り」の活用は「古文の助動詞の意味と覚え方」でご確認ください。

 
※係助詞「ぞ」は連体形で結びます。係り結びは「ぞ・なむ・や・か=連体、こそ=已然形」とまとめて覚えます。

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ

 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌がよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前につけられます。

暁聞ク郭公ヲ(あかつきにほととぎすをきく)といへる心をよみ侍(はべり)ける(※「明け方にほととぎすの鳴き声を聞く」といったことをよみました歌)

※詞書の引用は『新日本古典文学大系 千載和歌集』(片野達郎・松野陽一、1993年、岩波書店、57ページ)によります。
 

ほととぎす【時鳥・杜鵑・霍公鳥】

①鳥の名。初夏に鳴き、その声が人の叫び声のように感じられ、人恋しさを誘う。古来、冥府の鳥とされ、橘・蓬・菖蒲(あやめ)など、不老不死伝説・復活伝説に於ける生命の木や草と関係して使われることが多い。死出の田長〈たをさ〉。「橘のにほへる香かも―鳴く夜の雨にうつろひぬらむ」〈万三九一六〉
 

かた

(※方角)
 

ながめ

●ながむ【眺む】

 現代語の「眺める」とは違って、ぼんやりと戸外に目をやりながら物思いにふけることをいう。(中略)
 ところで、「ながめつつ人待つ宵の呼子鳥(よぶこどり)いづかたへとかゆきかへるらむ」(後撰集・恋五・寛湛法師母)のように、外を見出しながら宵にかよってくる男を待って、所在なげにぼんやりとしているのが「ながむ」であることによっても類推されるように、「ながむ」は「つれづれ」(※物事が長く続くこと。退屈なこと。 引用者補)という語とともによまれることが多かった。「つれづれとながむる空のほととぎすとふにつけてぞ音(ね)は鳴かれける」(後撰集・夏・読人不知)「つれづれのながめにまさる涙川袖のみ濡れて逢ふよしもなし」(古今集・恋三・敏行)のほか、和泉式部の歌などに特に多い。何も手につかず、所在なげにぼんやりと戸外に目をやる、すなわち「つれづれなる」状態でぼんやりと戸外に視線をやっている、これが「ながむ」であり「ながめ」であったのである。(後略)
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

ありあけ【有明】

月が空に残っているうちに夜明けになること。陰暦の二十日頃の月の場合が多い。男が女のもとへ行って一夜を過ごして帰る時、月はまだ出ているのにあたりはすっかり明るくなったので帰らなけらばならないというつらい気持ちを託してよまれることが多かった。「ありあけのつれなく見えし別れより暁ばかりうきものはなし」(古今集・恋三・忠岑、百人一首)「今来(こ)むと言ひしばかりに長月の有明の月を待ち出(い)でつるかな」(同・恋四・素性、百人一首)などがその例である。
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。

-81~90番歌
-, , ,

執筆者:

小倉百人一首検索

▼テーマ別検索

全首一覧下の句決まり字
作者一覧六歌仙三十六歌仙
女性歌人恋の歌四季の歌

>>百人一首の読み上げ

>>五色百人一首一覧

▼初句検索

あきぜにぎりすはるぎて
あきたのこころてにはるよの
ぬればこころかたの
あさふのひとをひといさ
あさぼらけたびはひとをし
あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

和歌の語句・作者などを検索

おすすめ書籍

古文・古典文法の解説

  ➤ 文法基礎動詞
  ➤ 形容詞形容動詞
  ➤ 助詞助動詞
  ➤ 敬語参考書
  ➤ 古文単語単語帳


Sponsored Links


関連記事

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-90

百人一首の意味と文法解説(90)見せばやな雄島のあまの袖だにも濡れにぞ濡れし色は変はらず┃殷富門院大輔

みせばやなをじまのあまの袖だにも濡れにぞ濡れし色は変はらず Sponsored Link 小倉百人一首から、殷富門院大輔の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識 …

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-86

百人一首の意味と文法解説(86)なげけとて月やは物を思はするかこち顔なるわが涙かな┃西行法師

嘆けとて月やはものを思はするかこち顔なるわが涙かな Sponsored Link 小倉百人一首から、西行法師の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理 …

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-88

百人一首の意味と文法解説(88)難波江の葦のかりねのひとよゆゑみをつくしてや恋ひわたるべき┃皇嘉門院別当

難波江の葦のかりねのひとよゆゑみをつくしてや恋ひわたるべき Sponsored Link 小倉百人一首から、皇嘉門院別当の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識 …

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-89

百人一首の意味と文法解説(89)玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする┃式子内親王

玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることのよわりもぞする Sponsored Link 小倉百人一首から、式子内親王の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識に …

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-85

百人一首の意味と文法解説(85)夜もすがらもの思ふ頃は明けやらでねやのひまさへつれなかりけり┃俊恵法師

夜もすがら物思ふ頃は明けやらで閨のひまさへつれなかりけり Sponsored Link 小倉百人一首から、俊恵法師の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識につい …


運営者 : honda
都内の私立大学 文学部国文学専攻出身
お菓子メーカー勤務のサラリーマン
趣味は歌舞伎を見ること(2012年~)
古文や古典を楽しむ人が一人でも増えればよいなと考えながら情報発信しております。


       スポンサーリンク