31~40番歌

百人一首の意味と文法解説(32)山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり┃春道列樹

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-32

投稿日:2018年3月11日 更新日:

山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬもみぢなりけり

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小倉百人一首から、春道列樹の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

目次

原文

ogura-hyakunin-isshu-32

百人一首(32)山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-32

百人一首(32)山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

春道列樹
山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-32

百人一首(32)山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり

現代語訳(歌意)・文法解説

※滋賀(しが)の山をこえる道で、よんだ和歌。

山を流れる川に風がかけている柵(さく)だと思ったのは、流れきらずにいる紅葉の葉であったことよ。

山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり

山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり

※連用形接続の助動詞は「き・けり・つ・ぬ・たり・たし・けむ」の7種類です。助動詞の解説は「古典の助動詞の活用表の覚え方」でご確認ください。
 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌がよまれた背景や事情を説明する短い文のことで、和歌の前につけられます。

滋賀(しが)の山越(やまごえ)にて、よめる(※滋賀の山を越える道で、よんだ歌。)

※詞書の引用は『新日本古典文学大系 古今和歌集』(小島憲之・新井栄蔵、岩波書店、1989年、101ページ)によります。
 

山川

●やまがは ‥ガワ 【山川】
山にある川。「―に鴛鴦(をし)二つ居て」〈紀歌謡一一三〉
 

かけ

●か・け【懸け・掛け】
一〘下ニ〙
《起源を同じくする四段活用動詞「掻き」「懸き」が意味分化するにつれて、下ニ段活用に転じて成立した語。物の端を目ざす対象の(側面の)一点にくっつけ、食い込ませ、あるいは固定して、物の重みのすべてをそこにゆだねる意》
❶①ひっかけてさげる。「斎杙(いくひ)には鏡を―・け、真杙(まくひ)には真玉を―・け」〈紀歌謡九〇〉。「千引の岩を七ばかり首に―・けむも」〈万七四三〉
⑤しっかり設ける。設置する。「天の川しがらみ―・けてとどめなむあかず流るる月やよどむと」〈後撰三二九〉。「くくりを―・けて鹿をとりけるほどに」〈著聞五六〇〉
 

しがらみ

●しがら・み【柵み】
一〘四段〙
①数多くからませる。からみつける。「萩の枝を―・み散らしさを鹿は妻呼び響(とよ)む」〈万一〇四七〉。「秋萩を―・み伏せて鳴く鹿の」〈古今二一七〉
二〘名〙
①流れる水を塞(せ)くため、杭を打ち渡して竹や木の枝を横にからませたもの。「水ならば―越えて行くべく思ほゆ」〈万二七六九〉

●しがらみ【柵】

「しがらむ」の名詞形。川の中に杭(くい)を並べて打ち柴や竹などをからみつけたりして水流をせきとめるもの。「明日香川しがらみ渡し塞(せ)かませば流るる水ものどにかあらまし」(万葉集・巻二・人麻呂)のように古くから歌によまれているが、「しがらみ」以外のものを「しがらみ」に見立てる「山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり」(古今集・秋下・列樹、百人一首)のような例も後には多くなった。
歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

あへぬ

●あ・へ【敢へ】
〘下二〙
①(事態に対処して)どうにかやりきる。どうにか持ちこたえる。「かく恋ひば老いづく吾が身けだし―・へむかも」〈万四二二〇〉。「〔京ニ出ルノハ無理ダロウガ〕ここまでは―・へなむ」〈源氏手習〉
④《動詞連用形に続いて》
㋺すっかり…する。「織る機(はた)を君が御衣(みけし)に縫ひ―・へむかも」〈万二〇六五〉。「つつみも―・へず(辛抱シキレズ)泣かれて」〈源氏御法〉

●ぬ
(※打消の助動詞「ず」連体形)
 

作者:春道列樹(はるみちのつらき)について

生年未詳。春道列樹の生まれた年はよくわかっていません。延喜(えんぎ)20年(920)に没しました。

列樹は主税頭(ちからのかみ)新名宿禰(にいなすくね)の長男で、醍醐天皇の時代の人です。

※醍醐天皇は光孝天皇の孫で、『古今和歌集』の編纂を命じました。天皇の命令を受けて、紀貫之(きのつらゆき)、紀友則(きのとものり)、凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)、壬生忠岑(みぶのただみね)らが撰者になりました。

春道列樹:醍醐天皇の時代の人

春道列樹:醍醐天皇の時代の人

延喜10年(910)に文章生(もんじょうしょう)になりました。

延喜20年(920)には壱岐守(いきのかみ)になりましたが、赴任前に亡くなったとされます。
 

主税守(ちからのかみ)

主税守とは、主税寮(しゅぜいりょう/ちからのつかさ)という役所の長官のことです。主税寮は民部省に属し、諸国の租税(米などの穀物)を管理しました。
 

文章生(もんじょうしょう)

大学寮(だいがくりょう)で文学と歴史を学ぶ学生のことです。
 

壱岐守(いきのかみ)

壱岐の国は現在の長崎県にある島です。「かみ」とは、役所の幹部を「かみ・すけ・じょう・さかん」の4つの階級に分けたなかの最上位です。現在の県知事のような役職です。

四等官(かみ・すけ・じょう・さかん)

四等官(かみ・すけ・じょう・さかん)

壱岐の国

壱岐の国

 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。

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あきぜにぎりすはるぎて
あきたのこころてにはるよの
ぬればこころかたの
あさふのひとをひといさ
あさぼらけたびはひとをし
あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

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