古文(古典)の助動詞「まし」の意味や活用について例文を交えながら解説します。
- 反実仮想の基本的な形は「ましかば~まし」「ませば~まし」「せば~まし」「ば~まし」
- 「疑問語/や/か+~まし」でためらい(~かしら)の用法
- 中世以降、単なる推量と解釈できる例も表れる
「まし」の活用
特殊型
基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
まし | ましか | ○ | まし | まし | ましか | ○ |
(ませ) |
上代(※奈良時代)には未然形「ませ」、終止形「まし」、連体形「まし」しかなかったが、中古(※平安時代)に入ると、已然形「ましか」が生じ、それが未然形にも用いられた。
(『改訂増補 古文解釈のための国文法入門』松尾聰、2019年、ちくま学芸文庫、105ページ)
未然形
古文には「未然形+ば(接続助詞)」の形で、「~ならば」という条件を意味する表現があります(※順接仮定条件と言う)。
特に、助動詞「まし」を伴う場合は反実仮想と呼ばれ、事実に反することを仮定します。
「まし」の未然形「ましか」「ませ」は、反実仮想の条件の部分、「ましかば」「ませば」で使われる形です。
「ませば」のほうが古い用法で、奈良時代の表現です。一方、「ましかば」は平安時代になってからの用法です。
「まし」の接続
未然形
「まし」の意味
- 反実仮想「~だったら…だろうに(しかし実際は~でないから…でない)」
- ためらい「(何を/どのように)~しようかしら」
- 実現不可能なことへの希望「~したいものだ」「~だったらよかったのに」
- 推量「~だろう」
①反実仮想(はんじつかそう)
反実仮想の基本的な形は、以下の4種類です。
- ましかば、 ~まし
- ませば、 ~まし
- せば、 ~まし
- 未然形+ば、~まし
前述の通り、「ましか」「ませ」は助動詞「まし」の未然形です。「せば」の「せ」は、過去の助動詞「き」の未然形です。
世中にたえてさくらのなかりせば春の心はのどけからまし | |
(訳)もしも、この世の中にまったく桜がないとするならば、美しい桜の花に心が騒ぐこともなく、春をめでる人の心はのどかであることだろう(しかし実際は、こうして目の前に桜の花が咲いているので、その美しさに心を躍らせもし、また、「花が散りはしないか」と心を悩ませもするのだ)。 |
②ためらい
疑問を表す語(「何・いかに・や・か」など)とともに使われる単独の「まし」は、ためらい(~かしら、~しようかしら)の意味と解釈されます。
- 疑問語/や/か + まし
ためらいの表現の由来
反実仮想とは、現実に反することを仮に想像することです。
小田勝によれば、現実に満足している場合には、反実仮想表現の条件部分に望ましくない事態が、後半部分(「~まし」の部分)に「ためらい」の気持ちが示されると言います。そして、そこから「まし」を単独で用いて、「ためらい」を表す例が生じたとも言います(『実例詳解 古典文法総覧』小田勝、和泉書院、2015年、214ページ)。
③実現不可能なことへの希望
単独の「まし」は、実現不可能なことへの希望(~したいものだ、~だったらよかったのに)の意味と解釈されることもあります。
今日はよろこびとて、心地よげならましをと思ふに、いと口惜しうかひなし。 | |
(訳)今日は昇進の祝いの日だから、(夕霧は)「もしも(柏木の)病状が軽く、気分がすぐれていたのだったら」と思うものの、(柏木が苦しそうな様子をしているのが)非常に残念で、はりあいもなく感じられる。 |
希望の表現の由来
反実仮想とは、現実に反することを仮に想像することです。
小田勝によれば、現実に不満がある場合には、反実仮想表現の条件部分に希望される事態が、後半部分(「~まし」の部分)に「叶わなぬ希望」が示されると言います。そして、そこから「まし」を単独で用いて、「実現不可能なことへの希望」を表す例が生じたとも言います(『実例詳解 古典文法総覧』小田勝、和泉書院、2015年、214ページ)。
はしきやし栄えし君のいましせば昨日も今日も我を召さましを (愛八師 栄之君乃 伊座勢婆 昨日毛今日毛 吾乎召麻之乎) | |
(訳)なんとまあ、あれほど立派な殿が今でもいらっしゃったならば、昨日も今日も、私をお呼びになるだろうのに(しかし実際は、殿はいらっしゃらないのだから、私をお呼びになることはない)。 |
④推量(すいりょう)
「まし」が中世以降、事実に反することを仮定する意味を失い、「む」のような単なる推量を表すことがあります(『改訂増補 古文解釈のための国文法入門』松尾聰、115~116ページ)。
※参考文献
・『実例詳解 古典文法総覧』小田勝、和泉書院、2015年
・『改訂増補 古文解釈のための国文法入門』松尾聰、筑摩書房(ちくま学芸文庫)、2019年
・『吉野式古典文法スーパー暗記帖 完璧バージョン』吉野敬介、学研プラス、2014年
※本文引用
・『新編日本古典文学全集 萬葉集』小島憲之・木下正俊・東野治之、小学館、1994年
・『新編日本古典文学全集 源氏物語』阿部秋生・今井源衛・秋山虔・鈴木日出男、小学館、1994年
・『新編日本古典文学全集 (18) 枕草子』松尾聡・永井和子、小学館、1997年
・『新日本古典文学大系 古今和歌集』小島憲之・新井栄蔵、岩波書店、1989年
・『新編日本古典文学全集 平家物語』市古貞次、小学館、1994年
本田さん
お久しぶりです。中氏です^^
ようやく一段落つきましたので、こうやってコメント残します!
お体お変わりないですが?
私も本田さんのアドバイスどおり色々な創作をして
日々を過ごしています!
このブログ古文や文学を勉強するうえでとっても役にたちますね!
私が高校生の時に出会っていればよかった。。。
また遊びにきますね!!
季節の変わり目でもありますので、お体ご自愛ください。
中氏様
お疲れ様です。コメントをありがとうございます。
お元気そうで何よりです。
気長に、楽しみながら続けて頂きたいなと思います。
面白いものができましたら、ぜひご一報くださいませ。見物に伺います。
中氏様もお体にお気をつけくださいませ。