61~70番歌

百人一首の意味と文法解説(67)春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそ惜しけれ┃周防内侍

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-67

投稿日:2018年3月12日 更新日:

春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそ惜しけれ

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小倉百人一首から、周防内侍の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

原文

ogura-hyakunin-isshu-67

百人一首(67)春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそ惜しけれ

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-67

百人一首(67)春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそ惜しけれ

釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

周防内侍
春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなく立たむ 名こそ惜しけれ
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-67

百人一首(67)春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそ惜しけれ

現代語訳(歌意)・文法解説

※二月ごろ、月が明るい夜に、二条院(にじょういん)に人々がたくさんあつまって、寝ないで一晩中お話などしておりましたところ、周防内侍(すおうのないし)が物に寄りかかって横になり、「枕があれば良いなあ」とひそかに言うのを聞いて、大納言(だいなごん)忠家(ただいえ)が、「これを枕にお使いください」と言って腕を御簾(みす)の下からさし入れましたので、よみました歌。

春の夜の夢のようにはかないものとして、あなたの腕を枕にお借りすることによって、つまらなくも知れわたるような我が浮名(うきな)がもったいなく思われることです。

春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそ惜しけれ

春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそ惜しけれ

※「立たむ」の「む」は婉曲(えんきょく)(~ような)の意味を表します。一般的に、助動詞「む」の後ろに名詞がつづいた場合、婉曲の意味になります。「む」のそのほかの用法の解説は「古典の助動詞の活用表の覚え方」にまとめましたので、ご確認ください。

※係助詞「こそ」は已然形で結びます。係り結びは「ぞ・なむ・や・か=連体、こそ=已然形」とまとめて覚えます。

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ

助詞の解説は「古典の助詞の覚え方」をご覧ください。
 

語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

詞書(ことばがき)

※詞書とは、和歌がよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前につけられます。

二月(きさらぎ)ばかり、月(つき)明(あか)き夜、二条院にて人々あまた居(ゐ)明(あか)して物がたりなどし侍(はべり)けるに、内侍(ないし)周防(すはう)寄り臥(ふ)して枕もがなと忍びやかにいふを聞きて、大納言(だいなごん)忠家(ただいへ)これを枕にとて腕(かひな)を御簾(みす)の下よりさし入れて侍(はべり)ければよみ侍(はべり)ける

※詞書の訳
二月ごろ、月が明るい夜に、二条院に人々がたくさんあつまって、寝ないで一晩中お話などしておりましたところ、周防内侍(すおうのないし)が物に寄りかかって横になり、「枕があれば良いなあ」としずかに言うのを聞いて、大納言忠家が、「これを枕にお使いください」と言って腕を御簾の下からさし入れましたので、よみました歌。

※詞書の引用は『新日本古典文学大系 千載和歌集』(片野達郎・松野陽一、1993年、岩波書店、289ページ)によります。
 

はるのよのゆめ【春の夜の夢】

春の夜に見る夢。短くはかないもののたとえ。「まどろまぬかべにも人を見つるかなまさしからなむ―」〈後撰五一〇〉。「おごれる人も久しからず、ただ―の如し」〈平家一・祇園精舎〉

○春の夜の夢
はかない実現性の無い夢。本来は「春の夜の夢にあふとし見えつるは思ひ絶えにし人を待つかな」(伊勢集)のごとく期待できる意に用いられた。(『新日本古典文学大系 千載和歌集』289ページ)
 

ばかり

(※だけ)
 

なる

(※断定の助動詞「なり」連体形。「〜である」の意。)
 

たまくら

●たまくら【手枕】
《タはテ(手)の古形》
腕を枕にすること。てまくら。多く共寝の相手の場合にいう。「大君の命(みこと)かしこみ愛(かな)し妹が―離れ夜立ち来のかも」〈万三四八〇〉

●たまくら【手枕】

「うるはしき人のまきてししきたへのわが手枕(たまくら)をまく人あらめや」(万葉集・巻三・旅人)「しきたへの手枕まかず間(あひだ)おきて年ぞへにける逢はなく思へば」(同・巻四・安貴王)「あさね髪(がみ)われはけづらじうつくしき人の手枕ふれてしものを」(拾遺集・恋四・人麿)などのように、ほとんどは男女が共寝して相手を腕に枕させることをいっているのであるが、「秋ならでおく白露はねざめするわが手枕のしづくなりけり」(古今集・恋五・読人不知)のように自分の腕に自分が枕する例もまれにはないわけではない。(後略)
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

かひなく

(※「かひなし」に「かひな(腕)」をよみ入れる。)

●かひな カイナ 【肱・腕】
①肩から肘(ひじ)まで。二の腕。また、肘から手首まで。もと、カヒナは肩から肘まで、ウデは肘から手首までにいったらしいが、両者は次第に混同された。「木綿襷(ゆふだすき)―に懸けて」〈万四二〇〉。「枕にとて―を御簾(みす)の下よりさし入れてはべりければ…。春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそ惜しけれ」〈千載九六一〉。「肘、ヒヂ・カヒナ」〈名義抄〉

●かひな・し カイ‥ 【甲斐無し】
〘形ク〙
①実行したり、希望したりするだけの効果がない。「『あな、かひなのわざや』との給ひけるよりぞ、思ふにたがふ事をば―・しといひける」〈竹取〉
②とりたてた価値がない。「―・き身」〈源氏薄雲〉
 

立たむ名

評判になってしまう浮名(うきな)。「む」は仮想(※婉曲)。(『新日本古典文学大系 千載和歌集』289ページ)
 

な【名】

①物・人・観念を他と区別するために呼ぶ語。まなえ。「酒の―聖(ひじり)と負ほせし古への大き聖の言(こと)のよろしさ」〈万三三九〉。「妹が―呼びて袖そ振りつる」〈万二〇七〉
③世間への聞え。評判。「妹が―も我が―も立たば惜しみこそ」〈万二六九七〉
 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。

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あきぜに ぎりす はるぎて
あきたの こころてに はるよの
ぬれば こころ かたの
あさふの ひとを ひといさ
あさぼらけ たびは ひとをし
あさぼらけ すてふ くからに
ひきの やこの ととぎす
あはしま びしさに みかもり
あはとも ぶれど みかはら
みての つゆに ばやな
あふとの みのえの のくの
あまかぜ をはやみ しのの
あまはら さごの らさめの
あららむ のおとは ぐりあひて
あらふく のうらに しきや
ありけの わかれ ともに
ありやま のをよ らはで
しへの をかも むぐら
いまむと ちぎりきし やまはに
いまただ ちぎり やまとは
りける やぶる されば
みわび みれば のとを
やまに ばねの よのなか
にきく ながらむ よのなか
おほやま ながへば すがら
おほなく なげつつ こめて
ひわび なげとて わがほは
とだに のよは わがでは
さぎの なにおはば わするる
かぜよぐ なには わすじの
かぜいたみ なには わたのはら
きみがため はなそふ わたのはら
きみがため はないろは ぬれば
らやま

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都内の私立大学 文学部国文学専攻出身
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