11~20番歌

百人一首の意味と文法解説(17)ちはやぶる神代もきかず竜田川韓紅に水くくるとは┃在原業平朝臣

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-17

投稿日:2018年3月11日 更新日:

ちはやふるかみよも聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは

小倉百人一首から、在原業平朝臣の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

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原文

ogura-hyakunin-isshu-17

百人一首(17)ちはやぶる神代もきかず竜田川韓紅に水くくるとは

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-17

百人一首(17)ちはやぶる神代もきかず竜田川韓紅に水くくるとは

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釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

在原業平朝臣
ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-17

百人一首(17)ちはやぶる神代もきかずたつたがは韓紅に水くくるとは

現代語訳(歌意)・文法解説

神代の昔にも聞いたことがない。竜田川の水の流れを深紅にくくり染めにするとは。

ちはやぶる神代も聞かず

ちはやぶる神代も聞かず

からくれないにみずくくるとは

からくれないにみずくくるとは

枕詞(まくらことば)とは、意味や音に関して、ある言葉をみちびきだす言葉のことを言います。「ちはやふる」については「『ちはやふる』の意味とは?」にまとめました。

※二句切れ。「聞か」と終止形になっているのでここで切れます。

倒置(とうち)。倒置とは、強調するために言葉の順番を逆に入れかえることです。五句目「水くくるとは」が、一・二句目「ちはやぶる神代も聞かず」につながります。「くくり染めにするなんて神代のむかしにも聞いたことがない」の意味。

※動詞の活用は「古典の動詞の活用表の覚え方」でご確認ください。
 

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語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

ちはやぶる(ちはやふる)

「ちはやふる」と「ふ」を清音でよむこともあった。「……ちはやぶる 宇治の渡(わた)り……」(万葉集・巻十三)「ちはやぶる宇治の橋守汝(なれ)をしぞあはれとは思ふ年のへぬれば」(古今集・雑上・読人不知)のように「宇治」に掛かる例もあるが、おおむねは「ちはやぶる神の持たせる命をば誰(た)が為にかも長く欲(ほ)りせむ」(万葉集・巻十一)のように「神」に掛かったり、「ちはやぶる神無月こそ悲しけれ我が身時雨にふりぬと思へば」(後撰集・冬・読人不知)「ちはやぶる神垣山の榊葉は時雨に色も変らざりけり」(同)のように「神無月」「神垣山」「神無備」など「神」を含んだ語に掛かったり、「ちはやぶる賀茂の社の姫小松よろづ代ふとも色は変らじ」(古今集・東歌・敏行)「ちはやぶる香椎の宮のあや杉は神のみそぎに立てるなりけり」(新古今集・神祇・読人不知)のように有名な神社の名に掛かったりしているのである。
歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

 

たつた【竜田】

「立田」とも書く。大和国の歌枕。奈良県生駒郡斑鳩町竜田。「竜田山」は『万葉集』に「大伴の御津(みつ)の泊(とまり)に船泊(は)てて竜田の山を何時か越え行(い)かむ」(巻十五)とあるように河内国から大和国への重要な交通路であった。同じく『万葉集』に「かりがねの来鳴(きな)きしなへに韓衣(からころも)たつ田の山はもみちそめたり」(巻十)とあるように早くから「もみぢ」がよまれていたが、「竜田山見つつ越(こ)え来し桜花散りか過ぎなむ吾が帰るとに」(巻二十)と「桜」もよまれぬわけではなかった。しかし、平安時代以後になると、「からころも立田の山のもみぢ葉は物思ふ人の袂なりけり」(後撰集・秋下・読人不知)「秋霧の峰にも尾にも竜田山紅葉の錦たまらざりけり」(拾遺集・秋・能宣)のように「もみぢ」と完全に結合してしまうのである。
 ところで、『万葉集』にはなかった「竜田川」が『古今集』以後には頻出し、むしろ「竜田山」を数量的に圧倒するようになるが、やはり紅葉の名所としてのみとらえられている。「竜田川もみぢ乱れて流るめり渡らば錦中や絶えなむ」(古今集・秋下・読人不知)「ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは」(古今集・秋下・業平、百人一首)など、有名な歌が多い。
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年

(※竜田川の様子は奈良県観光公式サイトをご覧ください。)
 

からくれなゐ【韓紅】

《韓から渡来の紅の意》
深紅。「白玉と見えし涙も年ふれば―に移ろひにけり」〈古今五九九〉
 

くく・り【括り】

一〘四段〙
①糸や紐・縄などを巻きつけてきつく締める。「玉こそは緒の絶えぬれば―・りつつまたも合ふと言へ」〈万三三三〇〉。「腰を―・られてほかへはえ行かで」〈宇治拾遺九六〉。「結願の日、首を―・りて臨終せんと思ひ企(くはた)て」〈沙石集四ノ六〉
②括染めにする。「ちはやぶる神世もきかず龍田川唐紅(からくれなゐ)に水―・るとは」〈古今二九四〉
 

くくりぞめ【括染】

布の所所を糸でくくって模様を染め出す染色法。しぼりぞめ。纐纈〈かうけち〉。「旅姿どもの、色色の襖(あを)のつきづきしき縫物、―のさまも、さるかたにをかしう見ゆ」〈源氏関屋〉

(※公益社団法人 京都染織文化協会のサイトで「絞染」の画像を見られます。)
(※NHK新日本風土記アーカイブスで「絞り染め」の動画を見られます。)
 

作者:在原業平(ありわらのなりひら)

天長(てんちょう)2年(825)~元慶4年(880)。平城(へいぜい)天皇の皇子、阿保親王(あぼしんのう)の五男。母は桓武(かんむ)天皇の皇女、伊都内親王(いずないしんのう)。

在原業平の系図

在原業平の系図

「在五中将(ざいごのちゅうじょう)」「在中将(ざいちゅうじょう)」などと呼ばれます。

兄は在原行平(ありわらのゆきひら)。業平の異母兄かと考えられています。また、藤原敏行(ふじわらのとしゆき)は妻の親戚にあたります。

901年に完成した歴史書の『日本三代実録(にほんさんだいじつろく)』には、「業平ハ体貌(たいぼう)閑麗(かんれい)、放縦(ほうしょう)拘(かかは)ラズ、略(ほ)ボ才学無ク、善(よ)ク倭歌(わか)ヲ作ル」(※業平は、すがたかたちはもの静かで美しく、勝手気ままで自由にふるまい、すこし漢詩の素養に欠けるが、和歌をよむのは得意だった。)と書いてあるので、当時から美男で歌をよむのが上手だったと評価されています。
 

六歌仙(ろっかせん)

在原業平は六歌仙の一人です。

六歌仙とは、905年につくられた『古今和歌集』の仮名序(かなじょ)(漢文ではなく仮名文で書いた序文だから「仮名序」と言う)に、紀貫之(きのつらゆき)がすぐれた歌人として名前をあげた6人のことを指します。貫之が仮名序に書いた業平の歌の評価は次のとおりです。本文引用は『新日本古典文学大系 古今和歌集』(13ページ)によります。

在原業平は、その心余りて、言葉足らず。萎(しぼ)める花の、色無くて、匂ひ残れるがごとし。(※在原業平は、情感はあふれるほどだが、表現する言葉がじゅうぶんではない。たとえて言えば、色が悪くなって、香りばかりが残っているしぼんだ花のようなものだ。)

六歌仙は業平のほかに、小野小町(おののこまち)、僧正遍昭(そうじょうへんじょう)、喜撰法師(きせんほうし)、大友黒主(おおとものくろぬし)、文屋康秀(ふんやのやすひで)があげられています。
 

三十六歌仙(さんじゅうろっかせん)

在原業平は三十六歌仙の一人にかぞえられます。

三十六歌仙とは、平安時代中期に藤原公任(ふじわらのきんとう)(966~1041年)がつくった『三十六人集』(『三十六人撰』とも言う)に基づく36人のすぐれた歌人を指します。

人麿・貫之・躬恒・伊勢・家持・赤人・業平・遍昭・素性・友則・猿丸大夫・小町・兼輔・朝忠・敦忠・高光・公忠・忠岑・斎宮女御・頼基・敏行・重之・宗于・信明・清正・順・興風・元輔・是則・元真・小大君・仲文・能宣・忠見・兼盛・中務

人麿・貫之・躬恒・伊勢・家持・赤人・業平・遍昭・素性・友則・猿丸大夫・小町・兼輔・朝忠・敦忠・高光・公忠・忠岑・斎宮女御・頼基・敏行・重之・宗于・信明・清正・順・興風・元輔・是則・元真・小大君・仲文・能宣・忠見・兼盛・中務

 

伊勢物語(いせものがたり)

在原業平は『伊勢物語』の主人公とされ、さらには作者であるとする説もあります。

物語は「歌物語(うたものがたり)」と言われる形式です。和歌がよまれた背景や事情を説明する文章のうしろに、和歌がつづくかたちで物語が展開していきます。短い話がいくつも入っている短編集のような形式です。

このような歌物語は和歌の詞書(ことばがき)から成立したと考えられています。詞書とは、和歌がよまれた背景を説明する短い文です。この説明がしだいに長くなり、歌物語に発展しました。

そのほかの代表的な歌物語に、『大和物語(やまとものがたり)』と『平中物語(へいちゅうものがたり)』があげられます。

文学史は「古文と現代文の対策をする文学史参考書」で基本的なことをまとめましたのでご確認ください。
 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。

●関連記事:同じく竜田川を詠んだ和歌はこちら
嵐吹く三室の山の紅葉葉は竜田の川の錦なりけり(能因法師)
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あきぜにぎりすはるぎて
あきたのこころてにはるよの
ぬればこころかたの
あさふのひとをひといさ
あさぼらけたびはひとをし
あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

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