夜もすがら物思ふ頃は明けやらで閨のひまさへつれなかりけり
小倉百人一首から、俊恵法師の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。
また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。
ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。
目次
原文
画像転載元国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162
翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)
釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)
俊恵法師
夜もすがら 物思ふ頃は 明けやらで 閨の暇さへ つれなかりけり
字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)
現代語訳(歌意)・文法解説
一晩中、胸のうちでつれない人を思いつづけるころは、「早く朝になってほしい」と思うけれど明けきらずに、恋人だけでなく、なかなか白んでこない寝室の戸のすきままでもが、無情に思われることだ。
※副助詞「さへ」は添加(てんか)(AだけでなくBまでも)の意味を表します。ここでは、「恋人だけでなく、なかなか白んでこない(朝を告げない)戸のすきままでも」という意味です。助詞の解説は「古文の助詞の覚え方」にまとめましたのでご確認ください。
※過去の助動詞「けり」が和歌の中で使われる場合は基本的に、詠嘆(えいたん)(~だなあ・~ことだ)の意味を表します。
※参考:形容詞の活用表
語釈(言葉の意味)
※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
夜もすがら
(※一晩中)
もの思ふころは
「ころは」とあるので、幾夜も物思いをしている意。(『新日本古典文学大系 千載和歌集』片野達郎・松野陽一、1993年、岩波書店、232ページ)
物思ふ
●ものおも・ひ ‥オモイ 【物思ひ】
一〘四段〙
胸のうちで思いにふける。物ごとを、悩み煩う。「春山の霧に惑(まと)へる鶯も我にまさりて―・はめや」〈万一八九二〉
やらで
●や・り【遣り】
〘四段〙《先行きがどうなるか構わずに人をつかわしたり、物事を進めたりする意》
①思い切って行かせる。命じて行かせる。「わが背子を大和へ―・るとさ夜更けて暁露にわが立ち濡れし」〈万一〇五〉。「人言を繁みと君に玉梓の使も―・らず忘ると思ふな」〈万二五八六〉。「かかるべしとだに知りたらば、今井を勢田へは―・らざらましを」〈平家九・河原合戦〉
⑨《動詞の連用形について》㋺《「―・らず」の形で》思い切ってその動作をしおおす。…しきる。「えも乗り―・らず」〈源氏桐壺〉。「うしろのみ顧みてさきへは進みも―・らざりけり」〈平家七・福原落〉
●で
(※~しないで)
閨のひまさへ
恋人がつれないだけでなく閨の隙間までも。(『新日本古典文学大系 千載和歌集』232ページ)
ねや【閨】
(※寝室)
ひま【隙・暇】
①物と物との割れ目。孔。すきま。「他の家の嚮(まど)の孔(ひま)の中に看ること」〈願経四分律平安初期点〉。「谷風にとくる氷の―ごとに打ち出づる波や春の初花」〈古今一二〉。「見ゆやと思せど―もなければ、しばし聞き給ふに」〈源氏帚木〉
さへ
(※副助詞:~までも)
つれな・し
〘形ク〙《「連れ無し」の意。二つの物事の間に何のつながりも無いさま》
①(働きかけに対して)何の反応もない。無情である。「我は物思ふ―・きものを」〈万二二四七〉。「いみじう聞え給へど、いと―・し」〈源氏夕霧〉
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