71~80番歌

百人一首の意味と文法解説(80)ながからむ心も知らず黒髪の乱れて今朝はものをこそ思へ┃待賢門院堀河

小倉百人一首解説:和歌の現代語訳・古文単語の意味・文法解説・品詞分解-80

投稿日:2018年3月12日 更新日:

長からむ心も知らず黒髪のみだれて今朝は物をこそ思へ

小倉百人一首から、待賢門院堀河の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。

また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。

ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。

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原文

ogura-hyakunin-isshu-80

百人一首(80)ながからむ心も知らず黒髪の乱れて今朝はものをこそ思へ

画像転載元
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162

翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)

hyakuni-isshu-honkoku-80

百人一首(80)ながからむ心も知らず黒髪の乱れて今朝はものをこそ思へ

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釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)

待賢門院堀河
長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れて今朝は 物をこそ思へ
 

字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)

hyakunin-isshu-jibo-80

百人一首(80)ながからむ心も知らず黒髪の乱れて今朝はものをこそ思へ

現代語訳(歌意)・文法解説

私に対するお心が長く続くかもわからず、お逢いして別れた今朝の私の心は、黒髪のように乱れて思い悩むことです。

ながからむ心も知らず黒髪の乱れて今朝はものをこそ思へ

ながからむ心も知らず黒髪の乱れて今朝はものをこそ思へ

※縁語(えんご)。ある言葉と縁(関係)のある言葉を強引によみこむことを言います。

※「ながからむ」の「む」は婉曲(えんきょく)(~のような)の意味を表す助動詞です。助動詞「む」にはさまざまな意味がありますが、うしろに名詞がつづく場合は、基本的に婉曲の意味と判断します(例:「かひなく立たむ名こそ惜しけれ」)。助動詞の解説は「古文の助動詞の意味と覚え方」にまとめましたのでご確認ください。

※二句切れ?「知らず」の「ず」を終止形と判断すれば、ここで和歌が切れるので、二句切れと言うこともできます。また、連用形と考えれば、連用中止法となり、そのまま文が続いていくと考えることもできます。

連用中止法

連用中止法

※「黒髪の」の「の」は連用修飾(~のように)の意味を表します。格助詞「の」には、①主格、②連体修飾、③同格、④体言の代用、⑤連用修飾、の5つの用法があります。ここでは、「黒髪のように」という連用修飾の意味をとります。百人一首にはこの歌以外に、「滝川の」・「しだり尾の」などの例が見られます。格助詞「の」のその他の用法は「古文の助詞の覚え方」でご確認ください。

※係助詞「こそ」は已然形(いぜんけい)で結びます。係り結びは「ぞ・なむ・や・か=連体、こそ=已然形」とまとめて覚えます。

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ

係助詞:ぞ・なむ・や・か・こそ

 

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語釈(言葉の意味)

※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
 

(※婉曲の助動詞「む」連体形。「〜のような」)
 

くろかみ【黒髪】

●くろかみ【黒髪】
黒くつやのある髪。男女ともにつかう。「置きて行かば妹恋ひむかも敷栲の―敷きて長きこの夜を」〈万四九三〉

●―の【黒髪の】
〔枕詞〕「みだれ」「ながき」「とけ」などにかかる。「―みだれてけさは物をこそ思へ」〈千載八〇一〉。
 

もの

●もの【物・者】
一〘名〙
➊物体・物品などを一般的にとらえて指す。「いとのきて短き―の端(はし)切ると言へるが如く」〈万八九二〉。「みどり児の乞ひ泣くごとに取り与ふる―し無ければ」〈万二一〇〉。「内蔵寮(くらづかさ)納殿(をさめどの)の―(品物)をつくして、いみじうせさせ給ふ」〈源氏桐壺〉。「さるは、たよりごとに―(贈物)も絶えず得させたり」〈土佐二月十六日〉。「散るまでも我が―にして花は見てまし」〈後撰一〇一〉
➌《対象の性質や状態が、はっきりとは言えないが、ともかく意識の対象となる存在》
①いろいろの状態・事態。「ねもころに―や悲しききりぎりす草のやどりにこゑたえず鳴く」〈後撰二五八〉。「右近は―も覚えず、君につと添ひ奉りて、わななき死ぬべし」〈源氏夕顔〉

●ものおも・ひ ‥オモイ 【物思ひ】
一〘四段〙
胸のうちで思いにふける。物ごとを、悩み煩う。「春山の霧に惑(まと)へる鶯も我にまさりて―・はめや」〈万一八九二〉
二〘名〙
思い悩むこと。心配すること。「光なき谷には春もよそなれば咲きてとく散る―もなし」〈古今九六七〉。「―絶ゆまじき身かなと思ふ」〈和泉式部日記〉
 

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。

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あきぜにぎりすはるぎて
あきたのこころてにはるよの
ぬればこころかたの
あさふのひとをひといさ
あさぼらけたびはひとをし
あさぼらけすてふくからに
ひきのやこのととぎす
あはしまびしさにみかもり
あはともぶれどみかはら
みてのつゆにばやな
あふとのみのえののくの
あまかぜをはやみしのの
あまはらさごのらさめの
あららむのおとはぐりあひて
あらふくのうらにしきや
ありけのわかれともに
ありやまのをよらはで
しへのをかもむぐら
いまむとちぎりきしやまはに
いまただちぎりやまとは
りけるやぶるされば
みわびみればのとを
やまにばねのよのなか
にきくながらむよのなか
おほやまながへばすがら
おほなくなげつつこめて
ひわびなげとてわがほは
とだにのよはわがでは
さぎのなにおはばわするる
かぜよぐなにはわすじの
かぜいたみなにはわたのはら
きみがためはなそふわたのはら
きみがためはないろはぬれば
らやま

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