由良の門をわたる舟人かぢをたえゆくへも知らぬ恋の道かな
小倉百人一首から、曽祢好忠の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。
また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。
ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。
目次
原文
画像転載元国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162
翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)
釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)
曽祢好忠
由良のとを 渡る舟人 かぢを絶え ゆくへも知らぬ 恋の道かな
字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)
現代語訳(歌意)・文法解説
由良の水路を漕いで渡る舟人がかじを失って困りはてるように、行方もわからない恋の道であることだ。
※助動詞の解説は「古典の助動詞の活用表の覚え方」をご覧ください。
語釈(言葉の意味)
※特記のないかぎり『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
由良の門(ゆらのと)
○由良の門
契沖(けいちゅう)(※1640~1701年)は作者が丹後掾(たんごのじょう)に任じたことから丹後国とするが、八雲御抄(やくもみしょう)(※順徳天皇が書いた歌学書)五は紀伊国(きいのくに)とする。「と」は門で、陸地に挟まれ水路の狭くなった所。海峡、湾口、川口等で、港や渡しがあった。(『新日本古典文学大系 新古今和歌集』田中裕・赤瀬信吾、1992年、岩波書店、319ページ)
●ゆら【由良】
(前略)ところが、『百人一首』にもとられて有名な曾根好忠の歌「由良の門(と)を渡る舟人揖(かぢ)を絶えゆくへも知らぬ恋の道かな」(新古今集・恋一)の「由良の門(と)」に限って丹後国とする説がかなり強いのである。作者曾根好忠が丹後掾になっていることから、丹後国、今の宮津市の由良、すなわち由良川の河口とするわけである。もっとも、丹後掾になったから丹後の由良でなければならぬという理由は何もなく、それ以後も丹後国の歌枕と断定できる用例は全く見出せぬが、源俊頼の『散木奇歌集』に「与謝(よさ)の浦(うら)に島がくれゆく釣舟のゆくへも知らぬ恋もするかな」という、好忠の歌を本歌にしたかと思える歌があり、それが「与謝の浦」すなわち丹後国与謝郡の浦と規定していることを思うと、少なくとも俊頼が「由良(ゆら)の門(と)」を丹後と見ていたことは確かと言わなければなるまい。(後略)
『歌枕 歌ことば辞典』片桐洋一、笠間書院、1999年
●と【戸・門】
①出入口。「後(しり)つ―よ(ヨリ)い行き違ひ」〈紀歌謡二二〉
②狭い通り路。出入りの路。「奈良〔ヘノ〕―よりは跛(あしなへ)・盲(めしひ)あはむ」〈記垂仁〉
③水の出入口。瀬戸。「由良の―の―中のいくり(岩)に」〈記歌謡七四〉
補足:由良の門
※由良の門は丹後の国(今の京都府)と考えるのが一般的です。
(※京都府宮津市の地図は「海の京都」天橋立観光ガイドで見られます。)
(※由良川については京都府のホームページをご覧ください。)
かぢ
●かぢ【梶・楫・檝】
①舟をこぎ進める道具。櫓(ろ)や櫂(かい)の総称。「入江漕ぐなる―の音の」〈万四〇六五〉。「檝、和名加遅(かぢ)、使二舟捷疾一也」〈和名抄〉
○かぢ
櫓(ろ)・櫂(かい)。今の舵(かじ)ではない。(『新日本古典文学大系 新古今和歌集』319ページ)
百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認
こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。