人もをし人もうらめしあぢきなく世を思ふゆゑに物思ふ身は
小倉百人一首から、後鳥羽院の和歌に現代語訳と品詞分解をつけて、古文単語の意味や、助詞および助動詞の文法知識について整理しました。
また、くずし字・変体仮名で書かれた江戸時代の本の画像も載せております。
ふだん我々が使っている字の形になおした(翻刻と言う)ものと、ひらがなのもとになった漢字(字母)も紹介しておりますので、ぜひ見比べてみてください。
目次
原文
画像転載元国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162
翻刻(ほんこく)(普段使っている字の形になおす)
釈文(しゃくもん)(わかりやすい表記)
後鳥羽院
人もをし 人も恨めし あぢきなく 世を思ふゆゑに 物思ふ身は
字母(じぼ)(ひらがなのもとになった漢字)
現代語訳(歌意)・文法解説
※この和歌の題やよまれた事情はあきらかでない。
ある時は人をいとしく思い、またある時はうらめしくも思われる。どうにもならないと世の中のことを思うために、あれこれと物思いにふける私にとっては。
※初句切れ。二句切れ。終止形が切れ目となる場合が多いです。
語釈(言葉の意味)
※『岩波 古語辞典 補訂版』(大野晋・佐竹昭広・前田金五郎 編集、岩波書店、1990年)による。
詞書(ことばがき)
※詞書とは、和歌がよまれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前につけられます。
題しらず(※和歌の題やよまれた事情が明らかでないこと。)
※詞書の引用は『和歌文学大系 続後撰和歌集』(佐藤恒雄、2017年、明治書院、209ページ)によります。
を・し【惜し・愛し】
〘形シク〙《すでに手中にしているものが大事で、手放せない感情をいう語。類義語アタラシは、その物のよさ美しさが生かされないのを、もったいないと思う意》
①(失ったり、そこなわれたりすることが)もったいない。「玉匣(たまくしげ)明けまく―・しきあたら夜を袖(ころもで)離(か)れて独りかも寝む」〈万一六九三〉。「お前の藤の花、いと面白う咲き乱れて、世の常の色ならず、ただ見過ぐさむ事―・しきさかりなるに」〈源氏藤裏葉〉
②(大切でかけがえないから)手放しがたく、いとしい。名残がつきない。「わが背子は玉にもがもな手に巻きて見つつ行かむを置きて行かば―・し」〈万三九九〇〉。「〔馬ヲ〕しきりに乞ひけるを『汝が欲しく思ふほどに我は―・しう思ふぞ』」〈著聞五一二〉
物思ふ
●ものおも・ひ ‥オモイ 【物思ひ】
一〘四段〙
胸のうちで思いにふける。物ごとを、悩み煩う。「春山の霧に惑(まと)へる鶯も我にまさりて―・はめや」〈万一八九二〉
二〘名〙
み【身】
一〘名〙
①人や動物の肉体。身体。「吾が―こそ関山越えてここにあらめ心は妹に寄りにしものを」〈万三七五七〉
②わが身。自分。「これは―の為も人の御為も、よろこびには侍らずや」〈枕八二〉
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