2018年6月の歌舞伎公演、夜の部は「夏祭浪花鑑」と「巷談宵宮雨」、どちらも夏の季節が舞台の演目でした。(※役者名は敬称略で表記)
夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)
幕が開くと舞台は住吉大社の「鳥居前」です。昼の部「野晒悟助」に続いて、夜の部も大坂が舞台の演目がかかりました。
団七九郎兵衛の眉毛
団七九郎兵衛(吉衛門)が牢から出てきますが、その姿はひげも髪の毛も伸び放題のむさくるしい姿です。そこで、髪結床でひげをそって、髪の毛も整えて衣装も替えてさっぱりするのですが、そのときに眉毛もしっかり整えているのが注目点です。
ためしに、ひげと髪の毛、さらに眉毛も整えている顔と、ひげと髪の毛はそっているけれど、眉毛は整えていない顔を比較してみましょう。
左側の顔は、たしかにひげも髪の毛もそっているので、むさくるしい印象はなくなったのですが、眉毛が太く、垂れ下がっているので、若干なさけないような印象を覚えます。いっぽう右側の顔は、髪やひげだけでなく、眉毛もきちんと整えられているので、いっそうさわやかな印象を受けます。
『石切梶原』の試し斬り
『石切梶原』では刀の切れ味を確認するために囚人を試しに切ってみせる場面があります。ここで切られる囚人役も、眉毛が太く垂れ下がっているので、囚人のなさけない様子がいっそう強調されることになります。眉を太く描く化粧は、弱々しさや情けなさを強調するための技法と言えます。
同じく囚人を描く『四千両小判梅葉』
それでは、同じく囚人を描いた『四千両小判梅葉』はどうかというと、たしかに獄中の登場人物たちは、髪の毛もひげも伸びているのですが、眉毛は普通です。太くもなく、垂れ下がってもいません。
この作品の獄中の場面は、囚人間で共有される厳しいしきたりをリアルに描こうという試みが見られるので、彼らに関しては、情けなさや弱々しさをことさら強調する必要がないのだと考えられます。
学校の”校則”
教育現場では、「眉毛を整えるのは禁止」という校則を設けている学校も多いのではないでしょうか。私自身、眉毛が太くて濃いので、コンプレックスを抱いていたのですが、学生時代は眉毛にはさみを入れると教師に文句を言われることが度々ありました。
先ほど示した比較図のとおり、眉毛は整えたほうが見栄えが良いはずなのに、「ルールだから」という理由で禁じられるのはやはり納得がいきません。ルールを墨守するだけでなく、その意味をきちんと考える必要があると思われます。