古文

枕草子「頭の弁の、職に参り給ひて」現代語訳 – 百人一首のとりのそらね

枕草子「頭の弁の、職に参り給ひて」現代語訳 – 百人一首のとりのそらね

投稿日:2018年7月10日 更新日:

百人一首に取られた清少納言の歌、「夜をこめて鳥のそらねははかるともよに逢坂の関は許さじ」が含まれる『枕草子』136段の原文の一部と現代語訳です。

Sponsored Link

枕草子・136段「頭の弁の、職に参り給ひて」

原文 現代語訳
 頭弁(とうのべん)の、職(しき)にまゐりたまひて、物語などしたまひしに、夜いたうふけぬ。「明日御物忌なるに籠るべければ、丑になりなばあしかりなむ」とてまゐりたまひぬ。  藤原行成が、職の御曹司に参上なさって、清少納言らとお話などしていらっしゃったうちに、夜がひどく更けてしまった。「明日は帝(みかど)の御物忌(おんものいみ)のため殿上に伺候しなければならないから、丑の刻になってしまったら都合がわるいだろう」と言って、宮中へ参上なさってしまった。
 つとめて、蔵人所の紙屋紙ひき重ねて、「今日は、残りおほかる心地なむする。夜をとほして、昔物語も聞え明かさむとせしを、鶏の声にもよほされてなむ」と、いみじう言おほく書きたまへる、いとめでたし。  翌朝、行成は、蔵人所(くろうどどころ)の紙屋紙(かんやがみ)を重ねて、「今日は、心残りがすることです。一晩中、昔話も申しあげて夜を明かそうとしましたのに、鶏の声にうながされて、帰ってしまったのです」と、いろいろなことを非常にたくさんお書きになっているのは、たいへん素晴らしい。
御返りに、「いと夜深くはべりける鳥の声は、孟嘗君のにや」と聞えたれば、立ち返り、「『孟嘗君の鶏は函谷関をひらきて、三千の客わづかに去れり』とあれども、これは逢坂の関なり」とあれば、 清少納言は、そのお返事に、「まだ夜が深いうちに鳴いた鶏の声は、あの孟嘗君(もうしょうくん)の故事のような、うそ偽りの鳴きまねなのでしょうか」と申し上げたところ、行成からすぐに返事が届いて、「『孟嘗君の鶏は函谷関(かんこくかん)をひらいて、3000人の食客がようやくのことで逃れた』と言うけれど、私が言ったのは逢坂の関のことですよ」と書いてあったので、清少納言は、
「夜をこめて鳥のそら音にはかるとも世に逢坂の関はゆるさじ 「夜が深いうちに、鶏の鳴きまねをしてだまそうとしても、函谷関で通行が許されたのとは異なって、私があなたと逢うという、その逢坂の関は、決してお通りになれますまい。
心かしこき関守(せきもり)侍(はべ)り」と聞(きこ)ゆ。また、立ち返り、 しっかりとした関守が逢坂の関にはおりますから」と申しあげる。また、行成からすぐに返事が届いて、
「逢坂は人越えやすき関なれば鳥鳴かぬにもあけて待つとか」 「逢坂の関は人の越えやすい関なので、鶏が鳴かなくても、いつも関の戸をあけて、来る人を待っているとか聞いております。その逢坂の関のように、あなたも簡単に人と逢うといううわさですよ」
とありし文どもを、はじめのは、僧都(そうづ)の君いみじう額をさへつきて取りたまひてき。後々のは、御前(おまへ)に。さて、逢坂の歌はへされて、返しもえせずなりにき。いとわろし。(後略) と書いてあった手紙のうち、はじめの手紙は、僧都の君がぬかずくことまでして、お取りになった。後の手紙は、中宮(定子)様のところに。そして、逢坂の関の歌はよみぶりに圧倒されて、返歌もせずにしてしまった。たいへんみっともない。(後略)

※本文引用は『新編日本古典文学全集 枕草子』(松尾聡・永井和子、1997年、小学館、244ページ)によります。
 

✿清少納言の歌の解説はこちら✿

>> 百人一首の意味と文法解説(62)よをこめて鳥のそらねははかるともよに逢坂の関は許さじ┃清少納言
 

古文が苦手な方はこちらの記事をチェック

こちらで古典文法の基本をご確認いただけます。

>> 古典文法の勉強法(基礎編)わかりやすい覚え方で用言の活用形から学ぶ

 

Sponsored Link

百人一首の現代語訳と文法解説はこちらで確認

こちらは小倉百人一首の現代語訳一覧です。それぞれの歌の解説ページに移動することもできます。

Sponsored Link

-古文
-, ,

執筆者:

古文・古典文法の解説

  ➤ 文法基礎 動詞
  ➤ 形容詞 形容動詞
  ➤ 助詞 助動詞
  ➤ 敬語 参考書
  ➤ 古文単語 単語帳


Sponsored Link



comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

関連記事

古文の参考書 – おすすめの古典文法のテキストで読解力UP

古文の参考書 – おすすめの古典文法のテキストで読解力UP

古典文法の基本を身につけて読解力を向上させるための、おすすめの古文の参考書・テキストをご紹介いたします。どの参考書を利用しようか迷っている方はぜひご覧ください。 目次1 古文の参考書2 ①古典文法の基 …

広辞苑は国文学の研究に使えないから日本国語大辞典の第二版を使おう。

広辞苑が国文学の研究に使えない理由【日本国語大辞典 第二版が基本です】

岩波書店の『広辞苑』を研究で使うことはできません。大学の授業で基本的に利用するのは小学館の『日本国語大辞典 第二版』です。今回は参照するべきおすすめの辞書について書いてみようと思います。 目次1 『広 …

古文のわからない箇所を調べるなら教科書ガイドよりも注釈書がおすすめ

古文でわからない所があるなら教科書ガイドではなく注釈書を見るのがおすすめ。

高校の古文の授業で、よくわからないところがあったらどうしますか? それぞれの教科書に対応した教科書ガイドを見ますか? それとも、授業で先生が解説するのをおとなしく待ちますか? たしかに、自分の手で品詞 …

十干十二支変換機┃干支の種類と順番・西暦和暦の早見表つき

十干 十二支 変換機┃干支の種類と順番・和暦西暦の早見表つき

西暦から十干十二支を自動で計算します。和暦から西暦を確認する一覧表もございます。 目次1 十干と十二支1.1 十干(じっかん)1.2 十二支(じゅうにし)2 十干十二支変換機3 和暦西暦の早見表3.1 …

三夕の歌とは?現代語訳や作者、歌の意味、共通点を解説

三夕の歌(さんせきのうた)とは、新古今和歌集におさめられている3首の和歌のことで、すべて「秋の夕暮れ」という体言(名詞)でしめくくられています。三夕の和歌とも呼ばれます。このページでは、それぞれの歌に …


運営者 : honda
都内の私立大学 文学部国文学専攻出身
お菓子メーカー勤務のサラリーマン
趣味は歌舞伎を見ること(2012年~)
古文や古典を楽しむ人が一人でも増えればよいなと考えながら情報発信しております。
その他、趣味で始めたプログラミングに関することや、通信制大学(放送大学)、各種資格試験の体験談などについても、記事にまとめております。


Sponsored Link