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古文・古典の助動詞「む・むず」の意味、活用、接続などのまとめ

古文・古典の助動詞「む・むず」の意味、活用、接続などのまとめ

投稿日:2021年2月21日 更新日:

古文の助動詞「む」「むず」についての解説です。活用や、意志・適当・推量の意味の見分け方を、例文を交えながらご紹介します。

 

【POINT】

  • 「む」「むず」の読み方は「ん」「んず」
  • 古典の「ん」は打消の意味にならない
  • 主語が一人称なら、意志の意味(になることが多い)
  • 主語が二人称なら、適当・勧誘の意味(〃)
  • 主語が三人称なら、推量の意味(〃)
  • 「連体形+体言(名詞)」なら婉曲の意味(〃)
  • 「てむ」「なむ」の”可能推量”に注意

 

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「む・むず」の活用

・む  … 四段型
・むず … サ変型

基本形未然形連用形終止形連体形已然形命令形
むずむずむずるむずれ

 

「む・むず」の接続

未然形

 

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「む・むず」の意味

  • 推量すいりょう「~だろう」
  • 婉曲えんきょく「~のような」
  • 仮定かてい「~ならば、~たら、~ても」
  • 意志いし「~う、~よう、~つもりだ」
  • 適当てきとう「~がよいだろう、~う、~よう」
  • 勧誘かんゆう「~たらどうか、~しないか」

助動詞「む」は、『実例詳解 古典文法総覧』(小田勝、和泉書院、2015年)によれば、「認識的意味として一般的推量および未実現の事態の推量を、行為的意味として意志および勧誘を表す」(※193ページ)とされます。

  • 認識的意味にんしきてきいみ … 「発話者の認識に関わる」
  • 行為的意味こういてきいみ … 「行為の実行に関わる」
  • (※同、177ページ)

つまり、「何かがこうなるだろう」と予測する認識的意味と、誰かの意識が何らかの行為に向けられる行為的意味の二つの意味に大きく分けられるということです。

この分類を表にし、教科書などで一般的に説明される意味の分類も加えると以下のようにまとめられます。
 

『実例詳解 古典文法総覧』による「む」の分類一般的な分類
認識的意味一般的推量推量
未実現の事態の推量婉曲・仮定
行為的意味意志意志
勧誘適当
勧誘

 
さらに、これを図解すると以下のようになります。

 
古文の助動詞「む」の分類①認識的意味_推量・仮定・婉曲
 
古文の助動詞「む」の分類②行為的意味_意志・適当・勧誘
 
以上のような大まかな分類を確認したうえで、それぞれの意味について用例を確認していきましょう。

 

①推量(すいりょう)「~だろう」

動作の主体が第三者(※三人称〈現代語では「彼」「これ」など〉で表せる)の場合の助動詞「む」は、推量と解釈します。

【例】源氏物語・空蝉(うつせみ)
打ちはてつるにやあら
む_推量_碁打ちはてつるにやあらむ
(訳)碁を打ち終えたのだろうか、……

 

②婉曲(えんきょく)

婉曲と解釈される「む」は、多くの場合、体言たいげん(名詞)につく形で表れます。また、「む」の直後に「を」「が」「も」などの助詞が続く形も、名詞「こと」「もの」などが省略されていると考えて、婉曲の「む」と解釈する場合も多くあります。

よく見られる形

  • 連体形 + 体言(名詞)

一般的な訳し方は「~ような」です。しかし、訳しづらい場合が多いため、現代語に訳出しないことも少なくありません。

【例1】伊勢物語・41段・紫
かたもなくて、ただ泣きに泣きけり。
む_婉曲_せむかたもなくて
(訳)どうしようもなくて、ただ泣くばかりだった。

※「せかた」(※なすすべ)、「せかたなし」(※どうしようもない)それぞれ一つの言葉として辞書に立項される場合も多くあります。

 

【例2】更級日記・上洛の旅
にしとみといふ所の山、絵よくかきたら屏風びやうぶをたて並ベたらやうなり。
む_婉曲_絵よくかきたらむ屏風
む_婉曲_たて並べたらむやうなり
(訳)にしとみと言うところの山は、絵を上手に描いた屏風を、立て並べたよう(に素晴らしいところ)だ。

 

【例3】更級日記・上洛の旅
たけしばのをのこに、生けら世のかぎり、武蔵むさしの国を預けとらせて、おほやけごともなさせじ。
む_婉曲_生けらむ世のかぎり
(訳)竹芝の男に、生きているかぎり、武蔵の国を預け与えて、租税や労役などの税も負担させまい。

 
【例3】は、仮定の意味を帯びているように思われます。このように、婉曲と仮定は、意味の区別が難しいのが特徴です。

 

③仮定(かてい)

仮定と解釈される「む」は、次のような形でよく表れます。

よく見られる形

  • 「むは」「むに」「むも」「むが」「むこそ」

仮定と解釈する場合、「~ならば」「~としたら」「~かもしれない」などと訳します。

【例1】源氏物語・末摘花(すゑつむはな)
引き籠められなからかりなまし。
む_仮定_引き籠められなむは
む_仮定_からかりなまし
(訳)(※衣装を)すっかり隠しておいてしまわれたら、つらいことだよ。

 

【例2】源氏物語・夕顔(ゆふがほ)
かの尼君あまぎみなどの聞か、おどろおどろしく言ふな。
む_仮定_かの尼君などの聞かむに
(訳)あの尼君などが耳にするかもしれないから、大げさに言うな。

 

【例3】源氏物語・夕顔(ゆふがほ)
いまひとたびかの亡骸なきがらを見ざらいといぶせかるべきを、むまにてものせん
む_仮定_いま一たびかの亡骸を見ざらむが
(訳)もう一度、あの人(※夕顔)のなきがらを見ないことには(見なかったとしたら)、気が晴れないにちがいないから、馬で出かけて行こう。

 
もちろん、以上の形がすべて仮定と解釈できるわけではありません。推量や婉曲と解釈したほうがよい場合もあるので、注意が必要です。以下の例は婉曲と解釈したほうがよいでしょう。

【例4】源氏物語・総角(あげまき)
このきみさかり過ぎたまは口惜くちをし。
む_仮定_この君の盛り過ぎたまはむも
(訳)この中の宮(※中の君)が盛りを過ぎてしまわれることが残念なのです。

 

④意志(いし)「(わたしは)~よう」

動作の主体がその言葉を使っている人(※一人称〈現代語では「わたし」〉で表せる)の場合の助動詞「む」は、意志と解釈します。「~しよう」「~するつもりだ」などと訳します。

【例】竹取物語・かぐや姫、帝の召しに応ぜず昇天す
「我こそ死な」とて、泣きののしること、いと堪へがたげなり。
む_意志_我こそ死なめ
(訳)(※翁は)「私のほうこそ、死んでしまいたい」と言って泣きさわぐのは、非常に堪えかねるありさまである。

 

⑤適当(てきとう)「(あなたは)~するのがよい」

動作の主体が発話者と話をしている相手(※二人称〈現代語では「あなた」「きみ」など〉で表せる)の場合の助動詞「む」は、適当と解釈します。命令よりも弱い表現となり、「~したほうがよい」「~てほしい」などと訳します。

【例】源氏物語・幻
そこにこそは、かどはひろげたまは
む_適当_そこにこそは、門はひろげたまはめ
(訳)あなた(※夕霧)こそは、(※子どもが多いので)この家筋を広げて繁栄していただきたい。

 

⑥勧誘(かんゆう)「(一緒に)~しないか」

動作の主体が発話者と話をしている相手(※二人称〈現代語では「あなた」「きみ」など〉で表せる)と、発話者自身の場合の助動詞「む」は、勧誘と解釈します。「~しないか」「~するのはどうか」などと訳します。

【例】源氏物語・葵(あふひ)
もろともに見
む_勧誘_もろともに見むよ
(訳)わたしといっしょに見物しましょう。

 

「むず」は”俗語”

「むず」は、平安時代に「むとす」(「む」に格助詞「と」とサ変動詞「す」がついた形)が変化して使われるようになったと言われています(※諸説あり)。

【例】枕草子・186段・ふと心おとりとかするものは
 何事なにごとを言ひても、「その事させんとす」「言はんとす」「なにとせんとす」と言ふ「と」文字もじを失ひて、ただ「言はんずる」「里へ出でんずる」など言へば、やがていとわろし。まいてふみに書いては、言ふべきにもあらず。
むず_意志_言はむずる
むず_意志_里へ出でむずる
(訳)何を言っても、「その事させとす」「言はとす」「何とせとす」と言う、その「と」という言葉をなくして、ただ「言はずる」「里へ出でずる」などと言うと、すなわち、非常にみっともない。まして、そのように文字に書いては、言いようもない(言いようもなく悪い)。

 
平安時代の用例は少なく、あっても会話文の中で使われる例がほとんどです。

 

「てむ」と「なむ」

「む」が、強意の助動詞「つ」「ぬ」の後ろについて、「てむ」「なむ」となる形があります。この場合は、「む」の意味が強調される表現となります。

  • 意志 … 「必ず~しよう」「きっと~しよう」
  • 推量 … 「~てしまうだろう」「きっと~するだろう」
  • 可能推量 … 「~ことができるだろう」「~できそうだ」
  • 意向の確認 … 「~できないか」 ※係助詞「や」を伴う
  • 適当 … 「~するのがきっとよい」「~すべきだ」
【例1】源氏物語・帚木(ははきぎ)
思ひ
む_なむ_思ひ懲りなむ
(訳)きっとこりごりするだろう。

 

【例2】竹取物語・五人の貴人と第一の求婚者石作の皇子
翁の申さむこと、聞きたまひ
む_てむ_翁の申さむこと、聞きたまひてむや
(訳)このじじいの申し上げることを、何とか聞いてくださいましょうか(お聞き入れいただけませんでしょうか)。

 
【例2】のように、可能推量(~できるだろう)の意味を帯びる場合があるので、訳す時には注意が必要です。

 
※参考文献
・『実例詳解 古典文法総覧』小田勝、和泉書院、2015年


 
・『改訂増補 古文解釈のための国文法入門』松尾聰、筑摩書房(ちくま学芸文庫)、2019年


 
・『吉野式古典文法スーパー暗記帖 完璧バージョン』吉野敬介、学研プラス、2014年


 
※本文引用
・『新編日本古典文学全集 (12) 竹取物語 伊勢物語 大和物語 平中物語』片桐洋一・高橋正治・福井貞助・清水好子、小学館、1994年
・『新編日本古典文学全集 源氏物語』阿部秋生・今井源衛・秋山虔・鈴木日出男、小学館、1994年
・『新編日本古典文学全集 (18) 枕草子』松尾聡・永井和子、小学館、1997年
・『新編日本古典文学全集 (26) 和泉式部日記 紫式部日記 更級日記 讃岐典侍日記』藤岡忠美・中野幸一・犬養廉・石井文夫、小学館、1994年

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その他、趣味で始めたプログラミングに関することや、通信制大学(放送大学)、各種資格試験の体験談などについても、記事にまとめております。


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