古文の助動詞「む」「むず」についての解説です。活用や、意志・適当・推量の意味の見分け方を、例文を交えながらご紹介します。
- 「む」「むず」の読み方は「ん」「んず」
- 古典の「ん」は打消の意味にならない
- 主語が一人称なら、意志の意味(になることが多い)
- 主語が二人称なら、適当・勧誘の意味(〃)
- 主語が三人称なら、推量の意味(〃)
- 「連体形+体言(名詞)」なら婉曲の意味(〃)
- 「てむ」「なむ」の”可能推量”に注意
目次
「む・むず」の活用
・む … 四段型
・むず … サ変型
基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
む | ○ | ○ | む | む | め | ○ |
むず | ○ | ○ | むず | むずる | むずれ | ○ |
「む・むず」の接続
未然形
「む・むず」の意味
- 推量「~だろう」
- 婉曲「~のような」
- 仮定「~ならば、~たら、~ても」
- 意志「~う、~よう、~つもりだ」
- 適当「~がよいだろう、~う、~よう」
- 勧誘「~たらどうか、~しないか」
助動詞「む」は、『実例詳解 古典文法総覧』(小田勝、和泉書院、2015年)によれば、「認識的意味として一般的推量および未実現の事態の推量を、行為的意味として意志および勧誘を表す」(※193ページ)とされます。
- 認識的意味 … 「発話者の認識に関わる」
- 行為的意味 … 「行為の実行に関わる」
(※同、177ページ)
つまり、「何かがこうなるだろう」と予測する認識的意味と、誰かの意識が何らかの行為に向けられる行為的意味の二つの意味に大きく分けられるということです。
この分類を表にし、教科書などで一般的に説明される意味の分類も加えると以下のようにまとめられます。
『実例詳解 古典文法総覧』による「む」の分類 | 一般的な分類 | |
認識的意味 | 一般的推量 | 推量 |
未実現の事態の推量 | 婉曲・仮定 | |
行為的意味 | 意志 | 意志 |
勧誘 | 適当 | |
勧誘 |
さらに、これを図解すると以下のようになります。
以上のような大まかな分類を確認したうえで、それぞれの意味について用例を確認していきましょう。
①推量(すいりょう)「~だろう」
動作の主体が第三者(※三人称〈現代語では「彼」「これ」など〉で表せる)の場合の助動詞「む」は、推量と解釈します。
②婉曲(えんきょく)
婉曲と解釈される「む」は、多くの場合、体言(名詞)につく形で表れます。また、「む」の直後に「を」「が」「も」などの助詞が続く形も、名詞「こと」「もの」などが省略されていると考えて、婉曲の「む」と解釈する場合も多くあります。
- む + 体言(名詞)
一般的な訳し方は「~ような」です。しかし、訳しづらい場合が多いため、現代語に訳出しないことも少なくありません。
せむ方もなくて、ただ泣きに泣きけり。 | |
(訳)どうしようもなくて、ただ泣くばかりだった。 ※「せむかた」(※なす術)、「せむかたなし」(※どうしようもない)それぞれ一つの言葉として辞書に立項される場合も多くあります。 |
【例3】は、仮定の意味を帯びているように思われます。このように、婉曲と仮定は、意味の区別が難しいのが特徴です。
③仮定(かてい)
仮定と解釈される「む」は、次のような形でよく表れます。
- 「むは」「むに」「むも」「むが」「むこそ」
仮定と解釈する場合、「~ならば」「~としたら」「~かもしれない」などと訳します。
もちろん、以上の形がすべて仮定と解釈できるわけではありません。推量や婉曲と解釈したほうがよい場合もあるので、注意が必要です。以下の例は婉曲と解釈したほうがよいでしょう。
④意志(いし)「(わたしは)~よう」
動作の主体がその言葉を使っている人(※一人称〈現代語では「わたし」〉で表せる)の場合の助動詞「む」は、意志と解釈します。「~しよう」「~するつもりだ」などと訳します。
⑤適当(てきとう)「(あなたは)~するのがよい」
動作の主体が発話者と話をしている相手(※二人称〈現代語では「あなた」「きみ」など〉で表せる)の場合の助動詞「む」は、適当と解釈します。命令よりも弱い表現となり、「~したほうがよい」「~てほしい」などと訳します。
⑥勧誘(かんゆう)「(一緒に)~しないか」
動作の主体が発話者と話をしている相手(※二人称〈現代語では「あなた」「きみ」など〉で表せる)と、発話者自身の場合の助動詞「む」は、勧誘と解釈します。「~しないか」「~するのはどうか」などと訳します。
「むず」は”俗語”
「むず」は、平安時代に「むとす」(「む」に格助詞「と」とサ変動詞「す」がついた形)が変化して使われるようになったと言われています(※諸説あり)。
平安時代の用例は少なく、あっても会話文の中で使われる例がほとんどです。
「てむ」と「なむ」
「む」が、強意の助動詞「つ」「ぬ」の後ろについて、「てむ」「なむ」となる形があります。この場合は、「む」の意味が強調される表現となります。
- 意志 … 「必ず~しよう」「きっと~しよう」
- 推量 … 「~てしまうだろう」「きっと~するだろう」
- 可能推量 … 「~ことができるだろう」「~できそうだ」
- 意向の確認 … 「~できないか」 ※係助詞「や」を伴う
- 適当 … 「~するのがきっとよい」「~すべきだ」
【例2】のように、可能推量(~できるだろう)の意味を帯びる場合があるので、訳す時には注意が必要です。
※参考文献
・『実例詳解 古典文法総覧』小田勝、和泉書院、2015年
・『改訂増補 古文解釈のための国文法入門』松尾聰、筑摩書房(ちくま学芸文庫)、2019年
・『吉野式古典文法スーパー暗記帖 完璧バージョン』吉野敬介、学研プラス、2014年
※本文引用
・『新編日本古典文学全集 (12) 竹取物語 伊勢物語 大和物語 平中物語』片桐洋一・高橋正治・福井貞助・清水好子、小学館、1994年
・『新編日本古典文学全集 源氏物語』阿部秋生・今井源衛・秋山虔・鈴木日出男、小学館、1994年
・『新編日本古典文学全集 (18) 枕草子』松尾聡・永井和子、小学館、1997年
・『新編日本古典文学全集 (26) 和泉式部日記 紫式部日記 更級日記 讃岐典侍日記』藤岡忠美・中野幸一・犬養廉・石井文夫、小学館、1994年